31−3 食事
「お肉もお酒もいいですけど、果物とか、お野菜も食べないと、太ったりしますし、栄養が偏るので、体に不具合が出るかもしれないですよ。手足が痛んだりとか、頭が痛くなったりとか」
肥満に高血圧、痛風に、糖尿病。なんでもござれだ。バランスよく食べても遺伝によってなる病気もあるが、食べ物には気を付けたい。入院食を食べ尽くしてきたからこそ、世の中の食事は、病気の元なのである。(誇張しすぎ)
食べてみたかった、こってりな料理。ラーメン。ラーメン。ラーメン!!
つまり、食べたかった。
「バランスよく、おいしいものを食べよう。うん」
チーズと肉と一緒に食べれば、香味が混ざって、また違う肉の味になる。サラダはおいしい。マヨネーズもほしい。卵があるのだから、今度作ってみよう。マヨネーズ作りだ。
今回の料理は成功した。ラッカの肉は案外臭みがなく、食べやすい。硬めの肉だが、茹でれば鶏のささみみたいで、なかなかいける。赤身のくせに、案外さっぱりしていて良い。
「ワインかー。ワインがあれば、煮込めますね」
「ワインで、煮込むの?」
「ワインがあれば、煮込み料理ができますよ! 小麦粉叩いて、焼いて、ワインと煮てー、ビーフシチューもどき。いや、調味料がな。トマト。トマトないと」
トマトには出会っていない。トマトがあればケチャップが作れる。トマトがあれば、煮込み料理が色々作れる。
「美味しい料理を作るには、お野菜が欠かせませんからね!」
「そうなんだ」
「そうですよ! いっぱい育てよう。種売ってないかな。お野菜の種。今度探してこよう。調味料ばっかりに目がいってて、お野菜のこと忘れてた」
森で取れる葉っぱに意識がいきすぎた。普通に作られているであろう、大根もどきなどの野菜があるのだから、種が売っているはずだ。町に行った時に探しておかなければ。冬になる前に植える種もあるだろう。
「レナちゃん、これ、すごくおいしいよ」
「良かったです。今日は有り合わせなので、もっとおいしいもの食べられるようにしておきますね。お肉系。ハンバーグ作れば良かったか。ミルクもらったばっかりだったから、つい」
「料理、好きなの?」
「食べるのが! 好きで! こんなにたくさん食べられなかったから。おいしく食べれるのが、嬉しくて!」
動きもしないのだから、お腹も減らない。ほとんど眠っていれば、飲み物だけでお腹がいっぱいになる。点滴で過ごすことも普通で、最後の方は胃ろうだった。おいしく食事をしたことなど、一体いつが最後だったか。
「材料手に入ったら、お菓子なども作りますから、ぜひ! あ、でも砂糖ないや。調味料屋さんで見なかったな」
「砂糖は高価だからね」
「そうなんですか?」
砂糖になる植物がないのかもしれない。寒冷地ならば、サトウキビ系、甜菜系など、もどきはないのだろうか。
運搬はおそらく動物になるので、輸送量もかかる。ならば砂糖が高額でも仕方がない。サフランもどきは普通の調味料の十倍だった。
「お菓子はお砂糖がないとなー。ハチミツ。んー」
今は日々の糧があるだけ良いか。多くは望むまい。
食事は口にあったのか、二人とも残さず食べてくれた。食後のコーヒーとして、木の実で作ったコーヒーもどきを出したが、それもいけると、口にしてくれる。
濃い目に入れたので、男性陣には評価が高いようだ。フェルナンは、前のほうじ茶もどきよりおいしいと、ぽそりと感想を呟いてくれる。
自分はミルクを入れた。鼻腔をくすぐる木の実の焦げた香りがたまらない。冬になったらホイップクリームを作って、上に乗せたい。もっとコーヒーっぽくなるだろう。
「ところで、あれはなんなの?」
コーヒーを飲みながらゆっくりしていると、オレードがずっと気になっていたと、手織り機やコルセットがなんなのか聞いてきた。
手織り機は布を作るもの。織り機を小さく作ってもらったことを説明し、コルセットは近所の方の腰のために作っていると答えると、オレードは立ち上がってそれを手に取った。
「僕の知っているコルセットとは違うかな」
「女性用のコルセットですか? あれはお腹をへこませるためのものでしょうけど、それは腰を支えるものですからね」
「これで、腰を支えられるの?」
「作ってみないとわからないんですけど、気休めにはなると思います。ずっと着けておくものではないので、あまりに腰の痛みが強かったらって感じですね」
着けっぱなしにしていると、腰の筋肉が衰えてしまうし、健康にも良くない。そのことを渡す時に伝えるのを忘れないようにしないと。
「おいしかった。レナちゃんは料理が上手だね」
「お粗末さまでした。もっと上手くなって、おいしものご馳走します。これくらいしか、お礼できないし」
この程度でお礼になっているとは思えないが。ガロガの件の、糸車などをいただいたお礼には程遠い。
「レナちゃんに、これを渡しておこうかな」
オレードは胸元を探ると、銀色の金属の小さな板を取り出した。ネックレスなのか、板には文字が書いてあり、ネームタグのアクセサリーみたいだった。
「たまに町に来るでしょう? なにか困ったことでもあったら、城壁門の兵に、これを渡すといいよ」
連絡用にと、オレードは付け足す。いつも森で会ってはいるが、玲那がオレードたちを尋ねられるわけではない。なにかあって、難儀でもすれば、来てほしいと言ってくれているのだ。
「ありがとう、ございます」
もらっていいのかわからないが、頼られる相手がいるというのは、殊の外、安堵できる。
「首に掛けておくといいよ。失くさないようにね。城壁門を越える、通行証みたいな物だから。城壁門の兵に、僕か、フェルナンの名前を伝えて、討伐隊騎士の宿舎で待つようにするといいよ。宿舎で待たせろと言えばいいから」
「わかりました」
ありがたくいただいて、大きく頷く。それをすぐに首に掛けた。
オレードは微笑んだが、フェルナンはただそれを横目で見ているだけだった。
二人は暗い夜道、ガロガに乗って行ってしまった。月明かりがないのに、見えるのだろうか。少ししたら遠くの道で小さな灯りがついた。ガロガの前をふわふわ浮いて、先を照らしている。懐中電灯みたいだ。
「魔法は便利だなあ」
便利だからこそ、そちらだけに意識がいってしまうのか。魔法を使えない人たちは、自分たちの不自由さを知っているだろうが、そこはお金を使うことで消化している。
「異端、かあ。魔法使えない人がいるのにそうなっちゃうのも、なんだかなあ、だねえ」
異世界人の自分は、間違いなく異端だ。それを隠すには、この土地のことをよく知らないといけない。
魔法の灯りが遠のいて見えなくなるまで見送って、部屋に入ろうとして気付く。
「そういえば、うちの前でなにしてたんだろ。私がいなくて、気になっただけかな?」
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