愛してる。なんて素敵なアイロニー
猫墨海月
愛し合えたかな
「…あいしてる!!」
それが、私が初めてついた嘘。
「そっか。僕も愛してる」
それは、あなたから始めてもらった愛。
幼い私と大人なあなたの偽物語。
「あのね、ライラ。愛してるよ」
沈黙が流れる。
「僕も愛してるよ」
続く文字は失った継接ぎのよう。
母の面影、恋綴る時。
あなたはきっと、涙するでしょう。
「ねえ、この服着てみない?」
持ち寄った服は、母のもの。
呆れた顔をするあなたが首を縦に振ることはない。
「僕には合わないよ」
なんて、やんわりと制止を受ける。
その顔が、その声が、その姿が。
何となく愛おしく思えた。
「えー…残念。でも、そんなとこも愛してるよ」
取ってつけた愛してる、は。
「そう。…僕も愛してる」
きっと心からのあいしてる。
「愛してる」
微笑みは絶えない。
「ありがとうございます!」
誰かの笑みも絶えない。
狂愛の神と享受の民の関係は、
何れ何処かで破綻するでしょ。
それでもいいの。
私の嘘は絶えないのだから。
ああ、なんて綺麗な嘘なのでしょう。
まるで深海を埋め尽くしそうね。
無機物になったあの人も、
無機物になる定めの私も。
なんて哀れで素敵なのでしょう。
もし、生きられたなら。
なんて戯言、言いましたっけ?
怠惰で狂愛する私だから。
皆をずっと愛してるんだよ。
「愛しているから」
溺れてしまった。
「…そう」
あなたはそれだけ言っていた。
「…愛してるって、言ってくれないの?」
私達の視線が合うことはなく。
「さあね」
いつか処刑を告げる鐘が鳴る。
眼下に大好きな街が広がる中。
夜風に吹かれながら、私は一人立っていた。
あのね、私ね。
愛しちゃったんだ。
本当に、本当に、愛しちゃったの。
嘘で終わる愛じゃない。
これは本当の愛だったよ。
「ごめんね、お母様」
約束は守れっこなかった。
全て愛さないなんて、無理だったんだ。
街中を駆けるあなたが見える。
汗ばんだ顔があまりに必死だったから。
思わず微笑んでしまう。
私の愛は歪かな。
あなたの愛は好きだったよ。
気付いちゃったんだ。
本当の嘘は最初からだったんだって。
だから、
もう少しだけ、
時間があったなら。
私達、愛し合えたのかもね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます