第20話 魔女としての威厳

 王都の門前には彼ら以外にも馬車を引いた御者が列をなしていた。行商人たちが入都許可を得ようと大人しく待っていた。その行列を嘲笑あざわらうように、武装した騎士や旅装束を身にまとった人々が次々と往来していた。


 その人の多さに私は弱気になってしまった。ニールからは顔パスだから大丈夫だと事前に言われていたけど、あの状況を見て平然と門を通り抜けられるような気概きがいなんて私は持ち合わせていない。


 民衆は魔女の存在を認めてはくれている。だけど、それも全て姉さんたちのおかげであり、私は彼らになにも貢献こうけんしていない。

 収穫した花びらなどを販売はしているが、先述のとおり姉さんたちを通しているため、私自身が前面に立って商売をしたことはない。魔女会などで姉さんたちが拠点にしている村や町に行くこともある。そこで人間に出会うことはあるけど、深々と三角帽子をかぶって通り過ぎている。話しかけられそうな雰囲気を感じると、即座に反転して路地に逃げ込んだりして、彼らと会話しないために毎回全力で逃げている。


 こんな未来が待っていたのなら、もう少し彼らとコミュニケーションをとっておくべきだったのかもしれない。彼らは私たちを受け入れてくれたというのに、私は彼らを受け入れようとはしなかった。これを教訓に姉さんたちを見習って頑張って練習しよう……。


 そう思わせてくれたのは……非常に、非っ常に悔しいけど……彼のおかげなのよね。あぁ~、認めたくはないけど、認めざる負えない。王太子ニールは権威者としての実力も本物だった。


 カサンドラ姉さんにあの約束について裏取りしてもらったことがある。その結果、魔女の関する法律は全て廃止されていた。しかも、ただ廃止しただけじゃなくて、ニールは王太子の名のもとに隔世遺伝の子を保護すると確約していた。それはのちに生まれてくる子も、成長し修道女として生きてきた子、そして私たち魔女も守るという広範囲に及ぶものであった。


 彼がそこまでしてくれたのなら、私もそれに応じなけれならない。今回、王都に訪れた理由もそこにある。彼から王都のとある場所に行ってみないかと誘われたからだ。


 まあまさか私ひとりで王都に出向かないといけないなんて、思ってもみなかったわけですけどね。


 なんか、このままだと門番の人こっちに来そうだし、往来する人々にも気づかれそうだし、覚悟を決めよう……。


 私は奥歯を嚙みしめ足に力を入れると、真っすぐ地面を蹴り出し門番めがけて一直線で駆けた。


 バッテリーによる手助けがあるのを忘れて全力でペダルを漕いだことで、バランスを崩して危うく門番に激突しそうになったけど、無事なんとか王都にたどり着くことができた。


 ギィーッと急ブレーキによるタイヤが焦げる匂いがしたが、平常心を装って何事もなかったかのようにママチャリを降りた。


 私は軽く咳払いをしたのち、戸惑う門番に声をかけた。


 魔女の私が本当に王都に入ってもいいのか気になったのと、純粋にぶつかりそうになったことへの謝罪をしておきたかった。あと、周りの視線がとても痛かったので、さっさと門を通り抜けたかった。


「……驚かせてごめんなさいね。ケガはしなかったかしら? あのちょっとお尋ねしてもよろしいかしら?」


「いえ、大丈夫です。どこもケガはしておりません。ご質問どうぞ、魔女様」


「それはよかったわ……王都に少し用事があるのだけど、通ってもよろしいかしら?」


「はい、問題ありません。王命により魔女様は顔パス? となっておりますので、いつ如何なる時でもご自由に出入りいただいて結構です。ただその自転車だけは、王都内でお乗りにならないでいただけますでしょうか……?」


「そうね……そうするわ。色々教えてくれて、ありがとうね。ではお仕事頑張ってください」


「はっ、恐悦至極に存じます」


 私はかしこまって敬礼する門番を横目にママチャリを押して門を通り抜け、数十年ぶりに王都に足を踏み入れた。


 私が魔女だからといって……あんなに態度をとられるなんて思ってもみなかったわ。畏怖いふから畏敬いけいになってない? 一体私の知らないところでなにが起こっている……。


 王都の街並みは懐かしい風景ばかりで特に変わった様子は見受けられなった。カサンドラ姉さんと手をつないで見て周った、あの頃と変わっていないことが私にはとても嬉しく思えた。

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