第11話 姉妹団らん
私はオクタヴィア姉さんとヴィヴィアン姉さんに席に座るように促すと、二人に紅茶を振る舞いキッチンに向かった。まず最初に焼き菓子を持って行くことにした。冷蔵庫からスコーンやワッフルを皿に重ならないようにのせると、軽く電子レンジで温めなおした。最後に焼き菓子をずらして小さなスペースを作ると、そこにハチミツを注いだ小皿をのせた。
やはり温めなおす時間が短かったようで、外は温かかったけど中はまだ冷たかった。中途半端な温め具合だったけど、それが逆によかったらしく姉さんたちは美味しそうにパクパクと食べてくれた。まだケーキがあることを伝えると、姉さんたちは一斉に手を止めて、そっちを持ってきてと急かしてきた。
ケーキをホールのままテーブルに持って行くべきか、それともキッチンで四等分か八等分に切り分けて持って行くべきか……。
そのことで悩んでいるのが表情に出ていたらしく、今度はオクタヴィア姉さんがにんまりと笑みを浮かべて、私にある助言をしてくれた。
「アリシャが楽な方を選ぶといい。どちらを選んだとしてもわたしたちが、それで機嫌を損なうことなどないのだから。アリシャが想ってくれているだけで、姉さんは嬉しいものなのよ? でも、できればすぐに食べたいから――わたしとしては前もって切り分けておいてくれると助かるわ」
「オクタヴィア姉さん……途中までいい感じだったのに、後半から欲がだだもれよ? でも、私としてもそっちの方がいいと思っていたから、八等分に切り分けて持ってくるね」
私はそう言うとケーキを用意しに一度家に戻ることにした。後ろを振り返ると「はっやく! はっやく!」と、子供のようにテーブルを叩くダメな大人が目に入った。
八等分に切り分ける予定だったけど、あの残念な光景を目の当たりにしたことで、私の考えは変わり四等分に切り分けることにした。少しでも時間短縮をするための浅知恵である。姉さんたちがケーキの大きさでケンカをしないように、一寸の狂いもなく包丁を入れる時が一番緊張する。この瞬間だけは何度経験しても慣れない。
私はケーキを各皿に移し替えると、最後にそれぞれ姉妹のイニシャルを
少しでも身体を傾ければそれが振動としてトレイに伝わり、ケーキを崩しかねない。ただあの緊張を乗り越えた私にとっては、
私は深く息を吐き吸ってを繰り返したのち、トレイを手にして無心でただ目的地まで歩いた。正面を見据えたまま螺旋階段を下り、様々な容器が並ぶ棚を横切り、開けっ放しの玄関ドアを通り抜け、それぞれの席前に各ケーキとフォークを置いた。空となったトレイは冷水筒が入った桶に横向きで立てかけた。
「ふぅ~、お待たせしました。秋の果物三種のショートケーキです。果物は、ブドウ、キウイ、ミカンを使用しております。さあどうぞお召し上がりください」
私の声を合図に姉さんたちは手を合わせ「いっただきまーす」と行儀よく返事をすると、フォークを手にケーキを食べ始めた。
美味しそうに頬張る姉さんたちに続いて私も一口食べてみた。酸味のある果物と少し甘めの生クリーム、ふわふわのスポンジと我ながらいい出来栄えだ。伊達に次の魔女会が私の番だと分かってから、地道に練習をしただけのことはある。まあケーキを焼くのも食べるのも嫌すぎて、年単位でサボってた時期もありましたけどね。
私がケーキを半分ほど食べ終えた時には、姉さんたちは完全にケーキを食べ終わり、それぞれコーヒーや紅茶を飲んで余韻に浸っていた。
満足してくれたのかなと思ったのも束の間、姉さんたちはまたこぞって焼き菓子に手を伸ばしては口に放り込んでいった。どうやらただの小休止だったらしい。
まだ食べたりないのか姉さんたちは空っぽになった皿を眺めては、物欲しそうに私のケーキをチラ見してくる。三人の注意を逸らすために話を振ることにした。
私はケーキを食べる手を止めて、姉さんたちに何か面白いことはなかったのかと尋ねた。
「私……姉さんたちの近況報告が聞きたいな~?」
その私の言葉を皮切りに姉さんたちは、それぞれ自分の近況について話してくれた。
私はその近況報告を聞きながら、残ったケーキをフォークで一口サイズにしては口に運んでいった。
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