第5話 いつもと違う日常
翌日、私は体全身に行き渡る痛みで目を覚ました。寝なれていないソファーで眠ったことで、バッキバキになっていた。少し身体を動かすだけであちこちボキボキと鳴るし、まぶたも石でも乗ってるんじゃないかと思えるほどに重たい。
振り子時計に目を向けると、指針は五時半あたりを指していた……。
二度寝したいという衝動に駆られたけど、自分を
「あいたたた……ゲストルームとかも作るべきかしら? 一人暮らしだから必要ないと思ってたけど、こういう時にあると便利かもしれないわね。まあこんな状況なんて、そうそうないんだけど……暇なときにも作ってみようかしら?」
私の家は円筒形の木造二階建てで、一番の自慢は日の光が
一階はだだっ広い作業スペース、二階は居住スペースでリビング兼キッチン、寝室、浴室と部屋を三つに分けている。また屋根裏は物置部屋として使用している。
ゲストルームを作るとなると、スペース的にも二階は無理そうだし、やっぱり一階に作るしかなさそうね。木板とかで壁を作って区切ってしまえば、簡易的だけど部屋にはなるわね。
部屋を増築するかについてはまた後で考えるとしよう。それよりもまずあの子供の状態を確認しないといけない。
私は寝室に入って寝静まる子供の顔を一目見てすぐに安堵した。
「まだ眠っているようね。顔色も悪くないし呼吸も穏やか、もうこれなら安心ね……それにしてもあなたって、そんな顔していたのね。頬は痩せているけど、端正な顔立ちしているわね。どこぞの貴族のご子息様とかだったりして……さてと、冗談はこれぐらいにして、さっさと朝支度でも済ませますか。今朝はいつも以上にやることが多いし……」
それから私は家を出て投げ捨てていたカゴを回収して野菜畑に向かった。新鮮野菜を収穫し帰宅すると、その野菜を全て細かく刻み調味料と一緒に鍋に放り込んだ。あとは野菜がくたくたになるまで煮込めば、病み上がりスープの完成だ。
他にも子供が起きた時に備えて色々と準備を進めていたが、寝室の方からドンと大きな物音が聞こえたので、一旦作業を中断して部屋の様子を確認しに向かった。
物音の正体は私の思った通り、あの子供がベッドから転げ落ちた音だった。
私は掛け布団に包まったまま床で、もごもごと芋虫のように
「元気になったのは喜ばしいことだけど、まだ身体は本調子じゃないんだから……あまり動き回らない方がいいわよ?」
「ここは? それにあなたは? ぼくは確か……」
「色々と聞きたいことがあるのは分かっているわ。だけど……その前にあなたにやってもらわないといけないことがあるの」
別に何もおかしなことを言ったつもりはなかった。だけど、私がそう言った途端に子供の目が左右に動き、身体が震えはじめた。明らかに怯えているのが見て取れてしまった。
そんな反応されるとは思ってもみなかったけど、見知らぬ家で目を覚ましたと思ったら、今度は見知らぬ人にいきなり話しかけられる。まあ確かにそうなってしまうのが普通の反応なのかも。
「はい……な、なんでしょうか?」
「脱いで」
「はい、分かりました。脱ぎます……脱ぐ? 脱ぐ⁉ ぼ、ぼくをどうする気なんですか‼」
「あなたが何を考えているのは知らないけど、お風呂沸かしたから入ってきなさい。服を着たまま、お風呂には入れないでしょ?」
私は声を震わせながら後ずさりをする子供にそう尋ねると、ぽかんと口を開けて動きを止めた。しばらくして開いた口が閉じると、おもむろに話し始めた。
「お風呂……ですか? ぼくとしても願ってもないことなのですが、あの……それでしたら別にここで脱がなくても、浴室でもいいんじゃないかなって?」
「……確かにそれもそうね。それじゃ案内するからついてきなさい、こっちよ」
よほどお風呂が恋しかったのか、少年はなかなか浴室から出てこなかった。こっちが心配になるぐらい出てこなかったので、一時間以降からは十分おきに声をかけた。結局、彼は三時間近くお風呂を
少年が入浴している間、ただ浴室前で声掛けをしていたわけじゃない。
中断していた作業に加えて、ベッドの清掃や服を洗濯したりなど昨日できなかったことをこなしていった。良くも悪くもその長風呂があったからこそ、洗いたての服も完璧に乾かすことができた。
湯気立ちながら満足げに浴室から出てきた時は、なかなか肝の据わった子供だと逆に感心しちゃったわ。
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