第9話 黙って先輩の話を聞いている。
――みんなはいつ、ここが違う世界だと気づいた? 朝目覚めた瞬間に何かがおかしいと感じた? 学校に着いたら知らないクラスメートがいた? それとも、その瞬間を目撃した者もいるのかな。
あらためて言うけど、ここは君たちが元々いた世界とは異なる世界なんだ。前の世界から見れば、違うルートを歩んだ別世界ってことになるね。もっとも、前の世界はもうどこにも存在していないんだけど。
この宇宙には無数の異なる世界が存在しているんだ。そして、その中のいくつかの重要な世界が、誰かの手によって守られている。どうしてかって? 文明を守るため。
もっとも、これはすべて姉から聞いた話。わたし自身はよくわからない。誰が、なんの目的で、どんな基準で膨大な世界の中から特定の世界を選んで守っているのか、なんて。
たぶん、姉だって細かいことまでは知らされていなかったんじゃないかな。ある日突然、世界の
わたしが中学一年生の時、一つ年上の姉の
別に神様になるってわけじゃないよ。ただ、時間や空間の制約から解放される能力を手に入れただけ。観測して、ほんのちょっとだけ介入する。姉が任されたのは、地味だけど重要な役目だったんだよ。
管理者の数? 正確な数は知らない。でも、ひとりで担当できるようなものではないことぐらいは想像つくよね。だから複数いるのは間違いない。この前の
姉はなんでも教えてくれたよ。別に守秘義務があるわけじゃなかったからね。管理者になってからは、それまでの普通の生活を送れなくなった。もちろん、進学なんてことも
だから作ったんだよ。ここを。姉と、ごく少数の者だけがここに招かれたんだ。うまく説明できなくてごめんね。この世界自体は、元の世界のすぐ近くに存在していた世界なんだ。姉は近い距離なら世界を行き来できたから。だからここに自分の学校を作って、時々この世界に来ては、この教室で遊んでいたんだよ。
秘密基地? そうだね。そんな感じ。でも、姉はこの空間に依存しすぎてしまった。そのせいで、管理者としての仕事にミスが出始めたんだ。さっき時間に縛られない能力って言ったけど、それは時間の流れを制御できるだけで、過去に戻って修正することはできないんだ。
だから、気づいた時にはもう遅くて、姉にはもうどうすることもできなかった。前の世界が完全に崩壊して、すべての生き物が消え去る未来へと突き進むのを、食い止められなかったんだ。
こういうケースが過去どのぐらいあったのかは知らない。姉にできたのは、存在する者たちを可能な限り、自分の箱庭に転生させることだけだった。転移と呼ぶ方が正確かもしれない。
ここは前の世界から枝分かれした比較的近い世界だったから、個々の存在の座標のようなものは保たれていたんだ。
みんな今の世界に元々いた自分と、前の世界にいた自分が合わさった形で、新しい存在として生まれ変わったの。
ただ問題なのは、ここにいるみんなは前の記憶を自覚しているけど、そうでない者もいるってこと。
そう、みんなは前と今、両方の記憶を持っているよね。
こんな風に捉えて欲しいんだけど、みんなは前の記憶を保持したまま、別の記憶を持つ
そして、記憶のあり方もその者によって様々なんだ。前の記憶が色濃く残っている者もいれば、今の記憶が主体の者もいる。その比率だってまちまちで、どんな結果になるか誰にもわからない。すべてが想定外で、十分な準備期間もないまま強引に転生させたからね。
だから、同じ転生者でもそれぞれまったく感覚が違うの。
姉は可能な限りすべての存在を転生させようと努力した。ただ、それがどの程度成功したのかはわからない。
少なくともここにいるみんなは、二つの世界の存在を認識している完全体だってこと。
でね。これからは遅れて自覚する者が現れるはずなの。この世界はセキュリティも
だからといって、自覚のない者たちに前の世界のことを軽々しく話しても、信じてもらえるとは思えない。だから慎重にお願いするね、ってこと。
うん、わたしが伝えたかったのはこのことなんだよ。
情報を共有できて、他の者が入ってこられない場所が必要だったから生徒会室を使っていたんだけど、世界が形を成し始めた以上、ずっとそこにいるわけにはいかないからね。
それでここを使うことにした。
知らずに入ってくる生徒がいてもいいのかって?
よく思い返してみて。ここ以外の教室、他にどんなのがあったか覚えてる?
気持ちの悪い違和感があったよね。
つまり、この校舎内で入れる場所はここしかないんだよ。自覚をしていない者は、ここの存在すら認識できない。だから、もし誰かがここまで来られたとしたら、その者はもう自覚してるってこと。
だからね、見つかったらそれはそれで都合がいいんだよ。
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