第6話
その頃王宮の食堂では国王夫妻と王太子であるアマデウスと共に、国王の弟であるキリウスが晩餐のテーブルについていた。
「卒業したらすぐに婚姻式かい?」
ステーキを切り分けながら笑顔を浮かべたキリウスの言葉に、アマデウスが嬉しそうな顔をする。
「はい、ルルはとても優秀で、皇太子妃教育も早く終えてくれましたので、予定通り卒業式の二か月後には式を執り行います」
「それは順調だ。ルルちゃんは学園にも?」
「ええ、ルルはずっと学園に来たがっていましたからね。ほんの10か月ですが一緒に学園生活をおくれます。毎日ランチに誘う予定です」
「それは良かったね。あの学園のランチは絶品だもの。兄上、安泰ですねぇ。何よりです」
国王が相好を崩す。
「いやぁ、本当に良い娘で良かったと思っているよ。まあどんな性格だったとしてもロマニヤ国との交易のためには嫁いでもらわないといけなかったけれど、いくら政略っていってもやはり思い合える方が良いに決まっているからね」
王弟が何度も頷いた。
「ええ、アマディが幸せなら大成功でしょう。それにアマディは側妃も娶るつもりなのだろう?」
アマデウスが驚いた顔をする。
「え? 側妃ですか? そんなつもりは微塵もありませんよ。僕はルル一筋ですから」
今度は王弟が驚いた顔をした。
「そうなの? フロレンシア伯爵の庶子と恋仲だと聞いたが。毎晩逢瀬を重ねているって噂雀の間では有名だぜ?」
「まさか! 彼女とは趣味仲間という関係ですよ。そんな噂が出ているのですか? それは拙いな。まさかルルの耳にも届いているんじゃないだろうな……彼女は僕の趣味である星座にとても詳しいのです。毎晩というのは大げさですが、星座観測は夜しかできませんから、そんなくだらない噂になっているのかもしれません」
アマデウスは不安げな顔を後ろで控えているアランに向けた。
王妃がアランに聞く。
「アラン、お前はアマディにずっとついているのでしょう? 真相はどうなの?」
アランが王妃の顔をまっすぐに見て口を開いた。
「お二人だけでお会いになるということはございません。必ず私が同行しております」
王弟が吹き出した。
「おいおい、夜に会っているということは否定しないのだな。なあアマディ、王族にとって側妃や愛妾など珍しいことじゃない。堂々と会えばいいし、むしろ下手に隠さない方が良いぜ? 特に婚約者にはきちんとわからせておかないと揉めるもとだからな」
「叔父上……僕は側妃などいりません。ルルだけがいればそれでいいんです」
「はいはい、ごちそうさま。それなら尚更上手くやれよ」
4人の会話は建国祭へと移り、アマデウスの側妃の話はそれきりになった。
アマデウスは自分の趣味である星座観測のことをルルーシアにまだ打ち明けていない。
婚約者に嫌われたくないという思いが強すぎるのか、自分がロマンチストだと思われるのが怖かったのだ。
『幼いころからの趣味だから父や母や叔父は知っているけれど、どうしてもルルには言えなかったんだよな。でもサマンサには……』
ある日図書室で『大星座図鑑』という異国の本を広げ、辞書を片手に真剣な顔をしているサマンサを見たアマデウスは、引き寄せられるように隣に座った。
驚くサマンサに、書いてある文章を翻訳してやったのも、共通の趣味をもつ者をみつけた嬉しさからだ。
それから二人は趣味の仲間として、どんどん距離を縮めていった。
互いに良い友人という気持ちはあっても、恋愛感情は微塵も持っていない。
アマデウスは自分がどれほどルルーシアのことが好きかをサマンサによく語っていたし、サマンサは自分がどういう立場なのかを隠さずに話していた。
サマンサはフロレンシア伯爵が結婚前にメイドに手を付けて産ませた子だった。
認知はされたが母親とは引き離され、使用人によって育てられている。
伯爵が結婚後に生まれたのが男の子だったので、本館に住むことは許されず、別館に乳母と一緒に住んでいた。
『だから好きなだけ星を眺めて暮らせたんだって笑っていた……辛い境遇だろうに明るい性格に育ったサマンサは、親友と呼べるほどの存在だ。ぜひルルとも仲良くなってもらいたいものだ』
アマデウスは友と婚約者の顔を同時に思い浮かべた。
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