8月10日

撮影するぞとトモキに呼ばれたのは何故か学校だった。

「紹介します。今回協力してくれる演劇部の田中さんです」

トモキが映画製作に誘ったというのはこの子か。

「あれ?演劇部なら自分たちでやることがあるんじゃないか。もうすぐ文化祭なわけだし」

「アキ知らないのか?演劇部は部員5人でそのうち4人は3年生、今年は受験もあるから何もしないんだってさ」

なるほど、2年生の田中さん1人ではできることはない。だから俺たちの手伝いをしてくれるってわけか。

「よろしく田中さん」

「よろしくお願いします」

俺らとしては演技にも慣れていそうな演劇部が手伝ってくれるのはありがたい。

「田中さんは凄いんだぞ。ほらこれ、死神のマント作ってくれたんだ。これに白のお面をつければ完全に死神だ。」

トモキは実際にマントとお面をつけて見せてくれた。こう知らないところで色々動いてくれているところを見るとちゃんと監督しているな。

いよいよ撮影が始まった。てっきり最初の場面からやるのだと思っていたがそうではないらしく今日は死神の登場シーンを撮影するみたいだ。

「お前にチャンスをあげよう。この石を物々交換で4回以内に100万円より価値のあるものにしろ。できなきゃお前は死ぬことになる」

死神に変装したユウキが精一杯の死神っぽい声で主人公役の俺に話す。台をうまく使って身長を高くしている死神をさらにローアングルで撮影する。なかなか迫力のあるシーンになっている。考えた人はセンスがあるな。

それでも監督は気に入らなかったみたいだ。

「やっぱり低クオリティ感があるんだよなー。よし、死神はセリフなしにしよう。頭の中に直接話すか、何故か理解できるっていう設定にしてもう1回やるぞ」

「おートモキ監督っぽいじゃん」

「そうだろ?こういうの得意だと思ってたんだよ」

なかなか楽しい撮影になっている。これならたとえ映画が失敗してもいい経験になるだろう。

その時、首にひんやりとした感触を感じた。雨ではない。この感触は…確かめる前に正解が視界いっぱいに飛び込んできた。

「今って夏だよな」

そんな当たり前の事を確認したくなったのは夏にあるはずのないものが視界に飛び込んできたからだ。

「雪だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る