番外編
ファスタリト収穫祭 (ハロウィン)
朝早く、和やかな朝の光に包まれる庭先を見ながら、俺は紅茶を飲んでいた。
「レウル様、今日はファスタリトで収穫祭が開催されておりますが。
ご存知でしょうか」
「ファスタリトで収穫祭?」
だが、アイシャに笑顔で話し掛けられたため、紅茶を飲む手を一旦止めて話を聞いたが、収穫祭? と言う聞いたことのない言葉に首を傾げた。
「アイシャ、収穫祭ってどんなことをするんだ?」
「う〜ん、そうですね。
収穫祭は主に野菜などが豊作の際には来年も沢山採れますように、不作の際には来年は沢山採れますように、と言う願いを込めて踊ったり、野菜で作った料理を食べたりするのですよ!」
アイシャは俺が収穫祭について質問すると、丁寧に説明してくれた。
「へぇ、面白そうだな。
収穫祭、行ってみるか」
その説明を聞いて前世のお祭りの様なものか、と俺が納得して収穫祭に行くことをアイシャへ伝えたが。
何故かアイシャは俺の腕を力強く掴んでいた。
「ぁ、あ、アイシャ。
て、手が痛いんだが、何で俺の手を掴んでいるんだ」
俺は捕まれている腕の感触に嫌な予感を募らせながらアイシャに話し掛けたが。
アイシャは俺にとても穏やかな笑顔を浮かべた後、
「それから言い忘れましたが、収穫祭では子供はみんな仮装をするのですよ。
レウル様には可愛い王子様の服を用意していますので、早速着替えに参りましょう!!」
と、笑顔のまま言い切った。
「えっ、ちょ、ま――くそっ」
俺はアイシャに言われたことを理解し、顔を青ざめながら闘気を纏って抵抗したが。
「なっ!?」
闘気を使ってもアイシャの拘束から脱出出来ず、そのまま引き摺られてしまった。
「だ、誰か。助けてくれぇぇぇぇぇぇッッッッッッ!!!!!!!!」
廊下に俺の悲痛な叫び声が響き渡った。
「……」
「流石レウル様! とってもお似合いです」
数分後、俺は目の前の鏡に写る自分の姿に口を大きく開きながら固まっていた。
俺の格好は袖や襟元にフリルの付いたシャツに、白ズボン。上には飾り付きの赤いジャケットという、前世の絵本に出てくる王子様のものだった。
「ハァッ……」
「レ〜ウル、どうしたの♪」
「えっ」
俺が自身の格好に落ち込み、普段の武骨な旅装束を着たいと溜め息を吐いていたが。
背後から急にエレナに話し掛けられて驚いた。
「ウワッ!?」
だが、驚きのあまり足元の衣装に足を取られ、床に思い切り頭を打ち付けた。
――ゴキッ
「ぃ、痛てェェェェェェッッッッッッ!!!!!!!!!!」
「だ、だだだ、大丈夫レウル!?
すぐに治療魔法で治すからね」
頭の痛さに床を転げ回っていると、エレナが慌てて俺の頭へ治療魔法を使った。
暫くすると頭の痛みが徐々に引いていった。
「あー、痛かった。エレナ、ありがと……」
「レウル?」
俺は頭の痛みがなくなるとエレナにお礼を言おうと立ち上がったが。
エレナの格好を視線に入ると再び口を開けて固まった。
エレナの格好は白いドレスに、胸元の青い宝石を中心に、様々なアクセサリーをつけていた。
俺はまるで王女様のような服だな〜、と現実逃避をしていたが、
「どうですレウル様! レウル様が王子様ならば、やはりエレナ様は王女様しかない! と思いこの衣装にしたのですよ!!」
アイシャの声で現実に連れ戻された。
「……そ、そうだな。
それじゃあファスタリトへ行こう、ハハハ」
「えぇ! それではレッツゴーです!!」
「ゴー」
俺が空笑いしながら出発を促すと、エレナとアイシャは大きな声をあげながら家を出た。
そして、俺達はアイシャが予め家の外に召喚してあったレティスに乗り、ファスタリトへと出発したのだった。
数時間後、俺達はレティスにファスタリトから少し離れた丘の上へ下ろされ、ファスタリトを丘の上にから眺めたが。
「……これはすごいな」
丘の上から見えるファスタリトは、あちこちで料理を作ったり、道行く人々が踊ったり、子供がモンスターや亜人の衣装を着たりと。
アイシャが言っていた通りのことが行われていたが、思っていたよりも規模が大きく驚いた。
俺は収穫祭とは地域ぐるみのお祭りのようなものだと思っていたが、実際にはファスタリト中の人々が収穫祭に参加しているようだった。
「かなり盛り上がっていますね。
それではレウル様行きましょうか」
「すごーい! これがしゅうかくさいかー、レウル早く行こうよ!」
俺の呟きに追随するように、エレナ達の声が続く。
そのまま二人にお祭りに始めて来た子供のように腕を引っ張られ、俺は子連れの父親のような気持ちになり苦笑した。
「あぁ、行こうか」
俺は二人にそう返事を返すと、手を繋いだまま歩き出した。
その後、俺達は踊っている人の側にいって一緒に踊ったり、野菜で作った料理を食べてあまりの美味しさに驚いたり、生の野菜を食べたりした。
そうして、ファスタリト収穫祭を存分に堪能したため俺は帰ろうしたのだが、アイシャが言うには此処からが本番らしい。
何でも
『何を言ってるのですか! いいですか! これから夜になるとお菓子回りと言うものがあります。
大人はともかくレウル様達子供は此処からが本番です。沢山お菓子を貰ってください』
と、言うことらしい。
まぁ、どうでも良いことだが、お菓子回りと聞いてハロウィンを思い出した。
どうやらその予想は正解だったようだ、何故なら……
「「お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ~」」
今、エレナと一緒にハロウィンと同じことをしてるからだ!
恥ずかしい……いくら見た目は子供でも中身は元高校生なんだぞ。
――ダメだ、こんなことを思っても余計に惨めになるだけだ、早くこのお菓子回りを終わらせよう。
俺は心の中でそう決意すると、早く終わらせるために無心になってお菓子を受け取った。
そうして、いつの間にか最後の家のお菓子を貰い、エレナとともにアイシャがレティスとともに待っている場所へ歩いていた。
「……楽しかったね」
「……うん、そーだね」
俺は急にエレナに話し掛られて少しだけ驚いたが、何とか冷静に答えることが出来た。
俺がその事にほっとしていると、いつの間にかエレナが目の前にいて上目遣いで俺を見ていた。
「……」
「ねぇ……レウル、」
俺はエレナのあまりの可愛らしさに思考がフリーズし、固まってしまった。
俺が固まっているとエレナは俺を上目遣いで見ながら
「お菓子を、くれなきゃ……悪戯、しちゃうぞ♪」
と、可愛らしい笑顔で俺に言った。
「へっ……」
――チュッ
俺が突然のことで反応出来ないでいると、何故かエレナが俺にキスをしていた。
「ッ――」
俺はキスをしたということに遅れて気が付くと、固まったまま顔を林檎のように真っ赤にした。
「何時ものお・か・え・し・よ♪
じゃあね♪ レウル先にいくね」
エレナはそんな俺の様子に満足したのか、
レティスとアイシャの待っている場所へ走り出した。
――ヒュゥッ
俺は風の吹くなか暫く動けず、三時間程外にいたため。
この収穫祭から三日後、盛大に風邪を引くのだった。
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