第8話 星守紫苑
「ジェイドもフリージアも守る為の力、か。なんか二人っぽいなぁ……。私もお願いごとしながら魔力を込めたら、なんかいい感じのやつ出ないかなぁ」
もう魔力は決まってるんだから無理か、なんて呑気なことを考えながら、紫苑は教壇へと上がった。
「まぁ、なるようにしかならないでしょ!」
これが私だ、とでもいうように、紫苑は教壇に上がるなりすぐにスノードームへ手を伸ばす。情緒の欠片もなかったが、今まで魔法なんてものはファンタジーの中の出来事で自分には無縁だったのだ。紫苑の心はうきうきと弾んでいた。
紫苑は舌でぺろりと唇を舐めると、力いっぱい魔力を込めた。
「うわっ! これは……っ!」
エクレール先生が声を上げた。
魔法特性診断キットが、強烈な黄色の光を放った。
目も開けていられないくらいの光は、最早黄色というよりも真っ白な太陽の光のようだった。
どこまで広がっていたのかわからない、ジェイドの時とも違う鮮烈な光がゆっくりと収束していった。
「……凄い! こんな魔力量は見たことがないよ……!」
エクレール先生がキラキラと瞳を輝かせて、興奮した様子で教壇へと近づいた。
何が起こったのかよくわからずに、紫苑が魔法特性診断キットを手に取ると、スノードームの中には黄色に輝く稲妻がビリビリと走っていた。
「……エクレール先生と、同じ……?」
エクレール先生を見つめて紫苑がそう尋ねると、エクレール先生は不思議そうに首を傾げてから、少し悩む素振りで首を横に振った。
「いや、僕の場合はもう少しパチパチと電気が弾ける感じだったんだ。……君の場合は光の色が白に近い。推測に過ぎないけど、魔力の純度が高い……とか……? それに、形状も稲妻に定まっていないから……変異型かもしれないとしか言えないかな」
「それって、めちゃくちゃレアってことですか!」
「そうだね。どんな魔法が使えるようになるか、その時にならないと僕にもわからないってこと」
「やったー! エクレール先生みたいな魔法も使えるかもしれないし、回復魔法が使えるかもしれないし、何が出るかわからないなんて、凄く楽しみ!」
紫苑はぴょんぴょんとジャンプしながら全身で喜びを表現していた。
(……よくわからない世界に突然来ちゃって、知り合いも誰もいなくてどんな魔法が使えるようになるかわからなくて不安だったけど……魔力も魔法も特別、ってことだよね)
エクレール先生が知らない魔法。
それは、紫苑の中の異世界への不安を和らげるには十分だった。
(予言の子とか荷が重いなーって思ってたけど、私の凄そうなとこが少しでも目に見える形で現れてくれて、ちょっと安心したかも……)
不安は期待へと変わっていく。
この世界で、本当に特別な存在になれるかもしれない。
期待を胸に抱いて、キラキラと輝く瞳でスノードームを抱きしめる紫苑に、水を差す用に後ろの席からジンガの野次が飛ぶ。
「いつまでそうしているつもりなんだ? ほんの少し魔力が多くて珍しい属性だったからって、田舎者の君が舞い上がるのは仕方がないことかもしれないけど、感傷に浸ってないでさっさとどいてくれないかなぁ?」
どうやら、紫苑の次はジンガの番だったようだ。
嫌味たっぷりで口元に嫌な笑みを浮かべてはいるものの、組んだ腕を落ち着かない様子でトントンと指で叩きながら苛立っているようだった。
嫌味な物言いは頭にくるが、共用の魔法特性診断キットを独り占めするように抱きしめていた自分にも非はあると、反論せずに紫苑は自分の席へと戻って行った。
「凄いよ、紫苑! すっっっごく眩しかった! 絶対に凄い魔法が使えるようになるよ!」
「ありがとう、フリージア! 私もフリージアと同じ光属性だったよー!」
「二人とも回復魔法が使えたら凄いよね!」
「うんうん! 怪我も病気も治し放題じゃん! もう風邪なんて怖くないね!」
「あはは! 回復魔法を風邪に使うなんて、なんか贅沢だね」
きゃいきゃいと手を合わせて喜ぶ紫苑とフリージアを見つめて、ジェイドが言った。
「いや、本当に凄いよ。あの光り方、その範囲、俺なんて比にならないくらいとんでもない魔力量なんじゃないか?」
「そうなのかな? ジェイドも同じくらいの範囲だったと思うけど……」
「それにエクレール先生も言ってただろ。紫苑の魔法は魔法特性診断キットでは測れないような、特殊な魔法が使えるかもしれないんだ」
「うん! あー、どんな魔法が使えるようになるんだろー!」
「その為にはしっかり魔法理論も勉強していかないとな」
理論、という言葉に拒否反応を示して、紫苑はジェイドの言葉を聞こえないふりをした。
「ふんっ! 今こそ僕の方が優れていることを証明してやる! 見ていろ、ジェイド・アルメリア!」
教壇の上からジェイドを指さして、ジンガが叫んでいるのが見えた。
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