第175話 マルティナ「師匠の言う通りだなぁ……」


 午後からはマルティナも加えて、木材を加工し、夕方になると、テストを渡して帰らせた。

 俺達も支部に戻り、家に帰ると、いつものように過ごした。


 この週はドックでの船製造と支部での通常依頼を隔日で交互にしていく。

 マルティナも含めてだが、木材加工はさすがに詰まることなく進んでいき、少しずつではあるが、順調に作業は進んでいった。

 そして、週末になると、ドックに行き、朝から来たマルティナにも作業をさせながら仕事をしていく。


「――おーい、やってるかー?」


 声がしたので顔を上げると、支部長が来ていた。


「あ、お疲れ様です」

「進んでいるか……って、涼しいな」


 支部長がこちらに向かって歩いてきていたが、足を止めて、周りを見渡す。


「魔法が使えるんで」

「こんな魔法あったか?」


 多分、ないんじゃないかな?

 この世界の魔法って攻撃魔法ばかりだし。


「私は戦いませんからこういう魔法に改良しているんですよ。お湯を一瞬にして沸かせますよ」

「元軍人としては才能の無駄遣いって思うなー……」


 軍人はそうだろうな。

 戦いに使えって思うだろう。


「戦争はごめんです」

「そうか……そうだろうなー……あ、差し入れだ。暑いだろうと思ったからジュースを買ってきた」


 支部長がそう言って、紙袋を渡してくる。

 中身は紙コップに入ったジュースが5つ入っていた。


「ありがとうございます」


 5つということはマルティナの分もか……

 支部長は本当に人間ができてるな……


「支部長、ありがとうございます!」

「感謝ー」

「ありがとうございます」


 3人娘は感謝の言葉を述べた。

 俺は1つの紙コップを手に取ると、魔法を使う。


「ほれ」


 魔法を使い終えると、マルティナに渡した。


「え? 私の分もあるんですか?」

「5つあるからな」


 さすがに支部長の分じゃないだろう。


「あ、ありがとうございます」

「それは支部長に言え」

「支部長さん、ありがとうございます……」


 マルティナはちょっと小声だ。

 多分、支部長が怖いんだろう。


「俺は手伝えんからな。まあ、飲め」

「はい……冷たっ!」


 マルティナが驚く。


「冷やすこともできるのか?」


 マルティナの反応を見て、支部長が聞いてきた。


「冷やす方が楽ですね」


 そう言って、ジュースを冷やしていき、3人娘にも渡す。


「おー、冷たいです」

「ジーク君、すごーい!」

「あなた、何でもできるわね」


 それはこの前も聞いた。


「はいはい」


 俺は自分の分も冷やすと一口飲むと、ヘレン用の底が浅いコップを取り出し、注いだ。


「わー……ありがとうございます」


 ヘレンは嬉しそうに冷えたジュースを飲んでいく。


「あー、猫の分もいるのか……」

「いえ、ヘレンはそこまで飲みませんので大丈夫です」


 2人で分け合えばいいだけだ。

 そう、それが家族。


「それでジーク、船の方の進捗はどうだ?」

「順調ですよ。何も問題ありません」

「そうか……お前がそう言うならそうなんだろう。そのまま進めてくれ」

「わかりました」


 まあ、問題ないな。

 魔導船とはいえ、補給用で動力以外は普通の船と変わらんし。


「それとな、今日はボーナスの日だぞ」

「あ、そうでしたっけ?」


 忘れてたわ。


「そうだよ。忘れるな。ほれ」


 支部長が明細を渡してきた。


「お前らもだな」


 支部長は3人娘にも明細を渡していく。


「ありがとうございます!」

「おー、ついにかー」

「ありがとうございます。どれどれ……」


 3人娘が明細を見だしたので俺も見てみる。


「ふーん……」


 まあ、こんなもんか。

 俺が転勤してからの成果が主だろうしなぁ……

 冬はもう少し上がると思う。


「おー……お?」

「多くない?」

「確かに……」


 3人娘が首を傾げ、顔を見合わせた。


「多いのは緊急依頼や魔剣作成依頼があって、かなり黒字だったからだ。支部の建て替えはウチが払ってないしな」


 支部の建て替えがウチの予算だったらボーナスはカットだっただろうな。


「ほぼジークさんのおかげのような……」

「私達、あまり貢献してないよね?」

「私に至っては途中からだから魔剣も緊急依頼も関係ない……」


 うん。


「……ジーク様、フォローです」


 ヘレンが小声で囁いてきた。


「それはチームの成果だ。俺1人では達成できなかったし、お前達の頑張りがあってのことだろう」


 合ってるかな?


「ジークさん……」

「師匠……」

「成長したわね……」


 合ってたようだ。

 まあ、魔剣と緊急依頼はほぼ俺がやったが、他はほとんど3人娘の成果だからな。


「お前らが錬金術師として成長したんだよ。階級も上がってるし、給料も上がってるだろうからな」


 1級上がるだけで結構上がった気がする。


「おー……成長!」

「師匠のおかげだよー」

「こっちに異動してきて良かったわ」


 はいはい。


「……お祝いした方がいいか?」


 ヘレンに確認する。


「……せっかくだし、しましょうよ。高い店じゃなくてもいいので外食しましょう」


 エーリカに作らせるのも悪いしな。


「ボーナスも入ったし、明日は休みだ。今日は外食でもしないか? あ、普通の店な」


 というか、歓迎会とかで使うあの店だな。

 他に知らんし。


「良いと思います!」

「わーい」

「行きましょう」


 3人娘が嬉しそうに頷いた。


「支部長もどうです?」

「いや、俺はいい。お前達だけで楽しんでこい。じゃあ、俺は支部に戻る。引き続き、頼んだぞ」

「お任せください」


 支部長は頷くと、帰っていったのでマルティナを見る。


「お前は……来ないか」

「ええ。夕食はお母さんと食べます」


 まあ、そうだわな。


「よし、じゃあ、さっさと今日の仕事を終わらせるか。あ、マルティナ、プレゼントだ」


 マルティナに今日の分の物理のテストを渡す。


「ありがとうございます。ジークさん、すみませんが、銅鉱石の錬成を見てもらえないでしょうか?」


 そっちもあったな。


「うーん……明日、暇か?」

「明日ですか? 特に用事はありませんけど」

「だったらお前も勉強会に参加しろ。そこで見てやる」


 明日もエーリカの家で試験勉強だ。


「いいんですか?」

「エーリカ、いいよな?」


 家主に確認する。


「もちろんですよ。マルティナちゃん、一緒に勉強しよ」


 聖女様は嫌な顔一つしない。


「ありがとうございます。でしたらお願いします」

「じゃあ、適当な時間に支部裏のエーリカの家に来い」

「わかりました」


 俺達はその後、仕事を再開すると、夕方になったのでマルティナと別れ、支部に戻ることにした。

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