第080話 電話かー


「なるほど……その議員のことは大佐から何か聞いてます?」

「ウチの放火は氷山の一角だったらしい。アドルフの商会だけでなく、色んな商会と繋がっていて、不正を働いていたようだ」


 典型的な田舎の小悪党だな。


「ウチの放火の動機は少佐の件ですかね?」

「らしいな。その議員は少佐から金をもらっていたらしい」


 ホントに……


「早く死んでほしいですね」

「数日後に王都から調査員が来て、王都に護送されるらしい。さっさと罪を確定させて、処分だろうな」


 王都から来るわけか。

 やはり王都も今回の事件を重く見ているんだな。


「錬金術師協会の支部が放火されるなんて聞いたことないですしね」

「前代未聞なことは間違いない」


 よくやるわ。

 バレないと思ったのかね?


「まあ、終わった人間のことは良いです。それでルッツからは依頼の納期の延長を聞きました。ですが、いつまでも延長するわけにはいかないですし、早く仕事を再開する必要があります」

「それは同意見だし、町長も本部もそういう見解だ。支部の建て直しには補償制度を適用して役所が半分出すし、残り半分も本部が持つことになった」


 ウチからの持ち出しはないわけだ。

 それは良かった。


「建て直しの計画は?」

「そのことを話したいから本部に電話してこいって本部長から伝言を預かっている」


 え……


「支部長が話せばいいじゃないですか」

「知らん。申請の電話をしたらそう言ってきたんだ」


 めんどくせ……


「まあ、どっちみち、電話はするつもりでしたけど……」

「頼む。お前の師匠で後見人だろ」


 まあ……


「ちなみにですけど、支部長は何か要望はあります?」

「ない。実際に働くのはお前達だし、お前達がやりやすいようにしろ」


 はたしてこのセリフを言える上司が世界に何人いるだろうか?

 職場に来ても新聞しか読んでいない人だが、本来、上司というのはそれでいいのだ。

 何も言わず、ただ責任を取ってくれればいい。

 あとのことは有能な俺に任せておけばいいのだ。


「ありがとうございます。では、私の方で話をし、進めたいと思います」

「ああ。それと町長が今回の事件解決に貢献したお前に表彰状を授与したいと言っているが?」


 またかよ……


「忙しいですし、表彰状は一枚でいいです。ドロテーにあげてください」


 功績が一番あるのは決定的な場面を目撃したドロテーだ。


「こいつか……」


 支部長が呆れながらコーヒー用の角砂糖を食べているドロテーを見る。


「ドロテー様の功績はクリス様の功績です! 表彰を受けましょう!」


 店内で羽ばたくなよ……


「まあ、新聞記者や町民は食いつくかもな」


 【お手柄カラス!】っていう見だしだな。


「それでいきましょう。要は錬金術師協会の評判が上がればいいわけですから」


 クリスの功績は錬金術師協会の功績であり、その錬金術師協会はここではリート支部なのだ。


「わかった。町長に話してみよう。お前は本部長に電話して、支部の建て直しについて話してくれ」

「わかりました。レオノーラ、電話を貸してくれ」


 もうレオノーラのところにしか電話はない。

 もしかしたらアデーレの家にもあるかもしれないが……


「いいよー」


 レオノーラが快く頷いてくれる。


「レオノーラさんは優しいですね。あなたのような人は社会不適合者よりクリス様の方が良いですって」

「いやー、プレヒト家は畏れ多いよ。それにジーク君を裏切れない」

「苦労しますよー。この人、平気で人を無視しますからね」


 今もしてるな。

 しょうもない話に付き合う気はないのだ。


「ジーク様は立派な方です!」


 でも、ヘレンが噛みつくわなー……


「どこがですか?」

「ジーク様は20歳で3級になられました。しかも、一発合格です。おや? どっかの錬金術師は25歳でしたかね? しかも、一度落ちませんでした?」


 そういや、クリスって一回落ちたな。


「表に出ろ、泣き虫……ぶっ殺してやるよ」

「かかってこい、下品ガラス!」


 ドロテーが羽を広げると、ヘレンがフシャーと鳴いて、威嚇し合う。


「やめろっての。帰るぞ。腹減ったわ」

「ほら、ドロテーちゃんも落ち着いて。帰ったら蜂蜜あげるから」


 俺がヘレンを諫め、レオノーラがドロテーを諫めた。


「けっ! 死体漁りが!」

「能なしめ!」


 まだ悪口を言い合っているが、ヘレンとドロテーも落ち着いたようだ。


「では、支部長、失礼します。帰って本部長に連絡してみます」

「わかった」


 俺達は喫茶店を出て、アパートの前まで戻ったが、すでに空が茜色に染まっていた。


「一応、今日の仕事は終わりな」

「仕事と言っていいかはわからないけど、そうしましょう」


 アデーレが苦笑いを浮かべながら頷く。


「あ、買い物に行かないといけませんでした!」

「私も付き合うわ」

「ありがとうございます。じゃあ、行きましょう」


 エーリカとアデーレが買い物に行ったため、俺とレオノーラが残された。


「電話するー?」

「そうだな……すまん、電話を貸してくれ」

「いいよー。こっち、こっち」


 レオノーラと共に2階に上がり、部屋に入った。

 レオノーラの部屋は俺の上なため、部屋の構造はまったく同じだ。

 だが、いつもは本が散らばっており、本当に同じ間取りかと思うくらいなのだが、今日は綺麗に片付いていた。


「掃除したのか?」

「んー? というより、ちょっと本を読む気分じゃないんだ」


 やはりレオノーラも支部が燃えたのがショックなんだろうな。

 レオノーラもずっとこの支部で働いていたから愛着はあったのだろう。

 エーリカはすぐに表情に出るからわかりやすかったが、レオノーラはいつものようにへらへらと笑っていたからわかりづらかった。


「本部長には早めに建て直してもらうように言うよ」

「うん。あ、何か飲む?」


 さっき喫茶店で飲んだだろ……


「お茶くれ」

「わかったー。遥か西で採れる伝説の茶葉を出すよー」


 よくわからないが、レオノーラが上機嫌でキッチンの方に行ったので電話を取った。

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