第061話 インタビュー


 1階に降りた俺達は昨日も来た応接室に入り、ソファーに腰かけた。

 エーリカが俺の隣に座り、対面には記者の女性が座っている。

 カメラマンは立って、カメラを構えていた。


「お仕事中なのにお時間を頂いてありがとうございます」


 そう思うなら取材料を寄こせって思った俺はやはりしゃべらない方がいいなと思ったので隣に座るエーリカに膝を当てて、合図を送る。


「いえ、これも大事な仕事ですので」


 合図を受け取ったエーリカがしゃべりだした。


「ありがとうございます。錬金術師協会リート支部と言えば、昨年、職員が大量に他所の町に異動となり、2人だけになったと把握していますが、4人になられたんです?」


 記者も詳しいな……


「はい。私とレオノーラさんになりましたが、こちらにおられるジークさんとアデーレさんが赴任して4人になりました」


 倍になったな。

 それでも少ないけど。


「ジークさんは王都出身ですか?」


 記者が見てきたのでエーリカに膝を当てる。


「……ジーク様、最低限のことはしゃべった方が良いですよ。ちょっと感じが悪いです」


 ヘレンが小声で忠告してきた。


「そうか?」

「……はい」


 そうなのか……


「私は王都出身ですね」


 英語の教科書みたいな返答になった。


「王都生まれ王都育ちなのに何故、この町に?」


 左遷。


「本部でもこの町の支部の状況は把握していますし、良くないと考えていました。そこで師である本部長に命じられて私が来たわけです」

「私もこの町の出身ですのでこんなことは言いたくないですが、こんな辺境の地によく来ましたね?」

「私は良い町だと思いますけどね。人は穏やかですし、自然も多い。食べ物の種類も豊富で住みやすい町だと思います」


 これは本当。

 まあ、食べ物に関してはエーリカのおかげだけどな。

 エーリカが作ってくれる料理は美味いからようやく食べ物にも興味がでてきたのだ。


「そうですか………いや、そう言ってもらえると嬉しいですね。王都なんかの華やかな町と比べるとやはり見劣りしますから」


 するな。


「それは感じる人次第でしょう。私は社交的ではないですし、あまり賑やかな場所を好みません。そんな私からするとこちらの方がずっと住みやすいですね」


 家賃も安いし、料理を作ってくれる弟子もいるし。


「では、ジークヴァルトさんはずっとこの町にいるんですか?」


 どうだろ?


「うーん……多分、そうなるんじゃないですかね? こればっかりは私が決められることじゃないです。本部から召還されるかもしれませんし」


 本部長がどういう判断をするかだ。


「なるほど……それでは火事の件についても聞いていいですか?」

「どうぞ」


 エーリカが答えてくれるだろ。


「あの日はどちらに?」


 エーリカに合図を送る。


「あの日は仕事がひと段落ついた時だったのでウチでお祝いをしていましたね」


 そういやそうだったな。

 ハンバーグを作ってもらったんだった。


「エーリカさんのお家ですか?」

「はい。私達は支部の裏にあるアパートに住んでいますので3人でお祝いということで食事会をしていたんです。そうしたら何かの音が聞こえたので支部の3階に行き、火事を確認したんです」


 そんなんだったな。


「それで現場に行くことにしたんですか?」

「あ、いえ、私達への依頼を担当する軍の方が来たんです。まあ、私の従兄なんですけど。その人からの要請で消火活動に参加することになったのです」

「要請があったわけですか……しかし、錬金術師ですのによく参加されましたね?」

「先程、ジークさんがおっしゃっていましたが、町のためにということですぐに要請を受けました。ジークさんは被害を最小限にするために即座に決断し、迅速に消火活動に参加されましたね」


 最初に断ろうとしたけどな。

 ヘレンが支部の評判のために受けろって言ったから渋々受けた。

 いやー、エーリカが悪い子になっちゃったなー。


「それであっという間に消火されたわけですか?」

「はい。すごい魔法でしたね。ジークさんが優れた魔術師であることは私達も知っていましたが、本当にすぐに火を消されました。同じ魔法使いとして尊敬します」


 本当に悪い女になったなー……


「さすがは5級の国家魔術師ですね」

「そう思います。錬金術師としても魔術師としても素晴らしく、そんな方に師事をできて光栄です」


 ホントかよ……


「わかりました。では、最後にこれからの意気込みをお願いします」

「はい。リート支部は人員不足により皆様にご迷惑をおかけしてきましたが、人も増え、徐々に以前のような仕事ができるようになっています。これから皆様の信頼を取り戻せるように頑張っていきますのでよろしくお願いいたします」


 エーリカが優等生みたいなことを言うと、記者が俺を見てくる。


「国家錬金術師というのは国王陛下より認められた資格であり、国家のために尽くす職業です。そして、国家は国民の生活や文化を守るためにあります。我々は国王陛下の名のもとに国民の生活や文化を守っていく所存です」


 って、昔、本部長が棒読みで言ってた。


「はい。ありがとうございます。インタビューは以上になります。あとはこちらで良い感じに書いておきますので」

「頼むぞ。変な風に書くなよ」

「本当はおもしろおかしく書きたいんですけどね。そっちの支部長さんが怖いんで良い感じに書きます」


 元軍人の貴族だもんな。

 しかも、結構上の方。


「不満そうだな? じゃあ、良い情報を流してやろう。火事の被害者の商人を少し洗ってみろ。あれは怪しいぞ」

「そうなんですか?」

「議員の先生と繋がりがあるって言ってたし、不審な点が多い」


 商人は大なり小なり黒いものだが、アドルフはちょっとその匂いが強い気がする。


「んー……わかりました。情報提供に感謝します。あ、最後に数枚写真を撮らせてください」

「わかった」


 俺達は数枚写真を撮ってもらうと、役所をあとにした。

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