第022話 支部再建へ


 翌日、休みも終わり、支部に出勤する。

 そして、2階に上がったのだが、エーリカしかいなかった。


「おはよう。レオノーラは? まだ来てないのか?」


 デスクにつきながらコーヒーを用意しているエーリカに聞く。


「レオノーラさんは支部長のところです。出張の報告ですね」

「あー、そういうこと」


 そういやそんなのもあったな。


「はい、どうぞ。ジークさんはブラックですよね?」


 エーリカがデスクにコーヒーを置いてくれる。


「悪いな」

「いえいえ」


 エーリカはレオノーラのデスクにもコーヒーを置き、席につく。

 すると、三角帽子を被ったレオノーラがやってきた。


「やあ、ジーク君。おはよう」

「おはよう」

「職場が3人もいると良いねー。お、コーヒーだ。エーリカ、ありがとう」


 レオノーラがエーリカの対面の自席につく。


「いえいえ」


 俺達はコーヒーを一口飲んだ。


「さて、仕事か……エーリカと私で鉄鉱石を鉄に変えればいいんだね?」

「そうだな。エーリカ、教えてやれ」

「え? 私がですか? ジークさんの方がわかりやすいと思いますけど……」

「インゴット作成はそんなに難しくないし、10級のレオノーラならすぐにできるようになる。それに人に教えるのはかなりの勉強になるんだぞ」


 って、師匠が言ってた。

 本音は俺に弟子を取ってほしかったらしいが、拒否したのだ。

 当時の俺は足手まといはいらないと思ったのだ。


「わかりました!」


 エーリカが立ち上がり、レオノーラのところに行って、鉄鉱石を鉄に変える説明をし始めたので魔剣作成の作業に入る。

 と言っても、やることは2人と変わらずに鉄鉱石を鉄に変える作業だ。

 まずは鉄鉱石を鉄に変え、その鉄で剣を作る。

 その後にエンチャントをするのだ。


「――おーい、ちょっといいか?」


 俺達が各自の作業をしていると、支部長が2階に上がってきて、声をかけてきた。


「どうしました?」


 支部長がこちらにやってきたので聞く。


「今、役所のルーベルトから電話があって、依頼をしたいからちょっと来てほしいってよ」


 依頼……


「内容によりますが、ちょっと厳しいですよ? エーリカとレオノーラは慣れていないインゴット作成をしていますし、私は大佐からの依頼を受けています」

「それは俺もわかっているんだが、それでも話ぐらいは聞いてこい」


 残業かなー?


「あ、だったら私が聞いてきますよ」


 エーリカが手を上げた。


「あー、頼むわ。とりあえず、どんな内容かだけを聞いてきてくれ」


 エーリカなら大丈夫だろう。


「わかりました。では、行ってきます」


 エーリカがそう言って、階段を降りていった。


「相変わらず、よく働く子だねー」


 レオノーラが感心する。


「良いことだ。そっちはどうだ? インゴットは作れそうか?」

「問題ないよ。あまり得意ではないけど、これくらいならできそう」


 そうか……


「ジーク、ちょっといいか?」


 支部長室に戻らず、まだいる支部長が聞いてくる。


「何でしょう?」

「エスマルヒ少佐の件だ」


 あー、例の緊急依頼か。


「どうなりました?」

「大佐から聞いたが、やはり緊急依頼なんてものはなかったそうだ。ウチを潰すための嫌がらせだな」


 やっぱり嫌がらせか。


「そんなもんでウチが潰れるんです?」

「錬金術師がゼロになれば、さすがに閉鎖だからな。それが狙いだ」

「残っている俺達3人を辞めさせたかったわけですか。それをして少佐にどんなメリットが?」

「さあな。大佐は調査すると言っているが、十中八九、どこかから金をもらったんだろう」


 民間の組合だな。

 ウチが潰れて一番得するのはそこだ。


「まあ、その辺りは大佐に任せます。ウチの領分じゃないですしね」

「そうなるな。まあ、クビか左遷だろう」


 左遷されてこの町に来たのにまた左遷か……

 軍なら次は最前線か、本当に何もない農村だな。


「そうですか。ご愁傷さまです。支部長、手を回して頂き、ありがとうございます」


 さすがは元軍人の貴族だ。


「いや、これくらいしかできんからな。引き続き、頑張ってくれ」


 支部長はそう言って、階段を降りていった。


「何かあったのかい?」


 事情を知らないレオノーラが聞いてくる。


「緊急依頼と称して無茶な依頼が来てたんだよ。まあ、解決したし、問題ない」

「そうかい……留守ですまなかったね」

「出張なら仕方がないだろう。それよりもこれから頼むぞ。いまだに3人だからな」

「そうだねぇ……ちょっと考えないとね」


 ホントだわ。

 どうしようか……


「レオノーラは来月の試験で9級を受けるのか?」

「どうかなー? 私は自分で言うのもなんだけど、あまり向上心がないからね。こうやって錬金術をやっているだけで楽しいんだ」


 家出するくらいに好きだし、今で十分満足なんだろうな。


「悪いが、8級くらいにはなってくれ」

「8級……3級さんは簡単に言うね」

「できない奴には言わん。一度聞いただけでそこまでできるなら8級くらいはすぐに受かる」


 レオノーラはしゃべりながらもずーっと鉄の錬成をしている。


「ちゃんと見てるわけだ……君がなんで左遷されたのかがわからないよ」

「今は人間力を上げるために言葉を選ぶようになっただけだ」

「選ばなかったら何て言っていたんだい?」

「たかが8級ごときで何をグダグダ……いや、やめておこう」


 言わない方が良いな。


「よくわかったよ。勘当された私が言うのもなんだけど、人間関係は大切にした方が良いよ」

「そうだな……レオノーラ、勉強くらいなら見てやるから頑張ってくれ。エーリカはやる気になってるぞ」

「わかったよ。じゃあ、来月に9級を受けてみる。今からだと微妙だけどね」


 みっちり教えてやるか。

 3ヶ月も待ってられない。

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