17. 捻じ曲がっていた運命


「……は?」

 

 ケイタは口をあんぐりと開けて黒づくめの少年――死神の方を見ていました。

 死神の少年は依然邪悪な笑みを浮かべたまま、続けます。

「死神。私は動物ならば相手と目を合わせることで、その生命力を奪うことができる。小さな生き物や植物くらいなら、すぐにその生命を刈り取ることができる。……こんな風に」

 死神の少年が近くに落ちてある枯葉を拾い、弄びました。生命を奪われたそれが、少年の手元でカサカサと音を立てます。

 死神はそれを無感情に見つめて、機械的に続けました。

「一度、目を合わせるだけで事足りる。ニンゲンだったら、一晩あれば死ぬ」

「それって……」

 黒づくめの少年は、一番最初ケイタと出会った時と同様に、ケイタとしっかりと目を合わせて笑いました。


「そう、ケイタ。君は君がいつも寝泊まりしているあの小屋で、村に入る前、夜明けを待たず死ぬ筈だったのです」


 死神がそう告げると、ケイタの顔はみるみる正気を失っていきました。

 そういえば確かに、ケイタが村に来た次の日、小屋に様子を見に来たネキが驚いた様子でしたね。あれは、ケイタが生きていたことに対する驚きだったのです。しかし、ケイタはそんなことにも気づく余裕はありません。

 手をわなわなと振るわせ、口をぱくぱくと動かしますが、何も言葉にはなりません。それは酷く哀れな様子でした。

 死神の少年は淡々と続けます。

「前に、来訪者があった時には目印に焚き火を、煙を上げてもらうと言いましたね。あれは半分本当で、半分嘘です。正確には、『ニンゲン』が来た時だけ、あそこに煙が上がります。そして私が案内し、……しっかりと『目を合わせた』後で、村の少年が小屋へ案内するのです」

「そ……んな……」

 思い返してみれば、妙でした。

 ケイタは村で、自分と全く同様のニンゲンには会ったことがないのです。大概は異形であるか……見た目は人間のようであっても、占い師の少年やびっこ目の少年のように、不思議な能力や人間離れした力をもつ存在しかいないのです。

 ケイタは力無くその場に崩れ落ちました。

 死神は冷たく、そんな彼を見下ろしました。

 その瞳には、もう何の感情も宿っていませんでした。


「この村を去りたければ去りなさい。私も村もそれを止めませんし……貴方に死をもたらすことは、私にはできませんから」


 そう言うと、孤独な神様は、臆病な少年をおいて去っていきました。

 彼が歩くたび、わずかに生え始めていた草木が死神に正気を吸われていくのを、ケイタはぼんやりと眺めていました。

 

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