第5話 召喚術の始まり。
野営の際、皆がシヤ一家を英雄のように扱う。
申し訳ない顔をしながらも好意に甘える事にしていると、酔っ払いがシヤに絡んで「なぁ、最近の闘神はサボってないか?野盗も増えたしヨォ」とクレーム未満のウザ絡みをしてくる。
シヤはこの程度ではイラつかないが、シーシーはシヤが苛立つ前に「私達が闘神に引退を持ちかけて、早い代替わりを頼んでるんです」と説明をした。
「闘神の…マスターの弟子達は200人近くいます。皆が代わりたいと言っているけど、マスターは死ぬまで皆のために戦いたいって言ってます。でも、本にもなってますけど、ラージポッドのオーバーフローの単騎制圧、スカイタワーの先にある天空島のオーバーフロー制圧、オオキーニの侵攻を防いだ疲労は何年たっても消えません。エーライ陛下からも引退を勧められています。だからもう引退してほしいんです。今の世界が乱れていて、至らないのは私達なんです」
シーシーはヤァホイの事もあって心が弱っているので、話していて泣いてしまって、ヨンシーが酔っ払いを睨みつけて、シローが「お母さん泣かないで」と声をかける。
酔っ払いに気付いた周りの人達が、酔っ払いを別の場所に連れて行ってわからせている間もシーシーは泣いてしまう。
シヤは「シーシー、ジェネシスで少し休もう。早く帰ってもヤァホイさんはジャックスにいるからのんびり出来る」と言って休む事を提案した。
「なら、アンチに行って、お父様達にシーナ達を会わせてあげようよ」
「…それはトウテに帰ったらトゥモに送り迎えを頼もう」
シヤは記憶が戻らないままシヤとして生きていて、本来のディーサンの名前はもう捨てていた。シーシーはそれを察していて、何かというとアンチ領の実家に行こうと言っている。
ヴァンは今も「食べられねーよ」と言う仲間のヨンゴに「何を言うんだ!マスターとリナさんのパンだぞ!この世で1番美味いんだ!さあ!食べるんだ!」と言っているシヤを見て、「その後どうなるの?」と娘のシーナに聞く。
「その前に、その頃、ジャックス行きの話が出た頃から、私とヨンゴは夢を見ていたんだ。でもお母さんに言うと心配するからヨンゴと2人で話していたの」
「夢?」
「うん。あっちにいる私が私の夢に、ヨンゴの夢にあっちのヨンゴが現れてたの。夢の中でお父さんが無理しようとしてて、手遅れにできないから夢に来させて、お母さんにはまだ言わないでと言ってたの」
「シヤの能力…」
「うん。お父さんは無意識なんだけどね。話を戻すね。お父さんはジャックスに到着して薬草の仕入れも終わったの。3日間滞在したいって話して、4日目に薬草を貰って帰る事にして、ヤァホイお爺ちゃんの弟子としてキチンと仕事をしたの」
シヤは薬草農家から「目利きはヤァホイ譲りか、アイツもこんな後継者に恵まれて幸せだな」と話しかけられて、「ヤァホイさんの事を知ってるの?」と聞くと、渋い顔で「ああ、アイツも昔、こうやって奥さんと娘と薬草の仕入れに来てな、うちの親父が相手をしてたんだよ」と説明をする。
「ほら、ウチの親父とヤァホイは20くらい歳が違うんだ。俺とヤァホイも20くらい、まあ、俺と兄ちゃんは30は離れてるな。俺の子供とは10くらいしか離れてねーけど、そうやって世代を重ねていくんだよ。俺がまだそこの子供と同じ歳くらいの頃に家族で来てな…。次は家族では来なかったんだよ」
シヤはそうやって世代交代をしていくのかと納得しながらもヤァホイが一度しか家族とこなかった事が気になった。
「なんで?」
「ディヴァントには風土病があるだろ?ヤァホイの家族は最初の頃にそれに当たってしまってな…。それでもヤァホイは笑顔で仕入れに来て、それからはラージポッドに従事するから代理の奴が買い付けに来るって言ってな」
ディヴァントの風土病。
バロッテス・ブートがディヴァント湖に仕込んだ毒呪術による被害。
ミチトが解決させたが、解決よりも前には沢山の人が亡くなっていた。
シヤとシーシーは薬草の他にヤァホイの事が聞けたことに、お礼を言うと3日後にまた来ると言う。
「滞在って観光か?どこ行くんだ?ジェネシスの街でも最近子供を狙った人攫いが出るから、子供達の事は特に気をつけろよ?」
「人攫い?」
「ああ、領主も王都騎士団に申請してくれたが、王都からだとひと月半からかかるから、まだ治安が悪いんだよ」
シヤは嫌な予感がしていた。
胸から元騎士団章を出して「俺は元王都第三騎士団だ。詳しい奴を紹介してくれ」と言うと、薬草農家は目を丸くしながら、「ジェネシス様が1番詳しい」と言って村長経由でジェネシスの領主、かつてのガニューの姪、メリッサ・ジェネシスに会わせてもらえた。
元王都第三騎士団、第一部隊長と名乗るだけで闘神の2番弟子だとすぐにわかったメリッサは、崩れ落ちると「申し訳ありません」と言った。
「どういう事だ?」
「まだ領主になって日が浅く、代替わりのゴタゴタで、ジェネシス領が乱れています。先日、王都からボスモンスターの四つ腕魔神様が把握している無限記録盤の産出量と、部下が申請してきた無限記録盤の産出量が合っていなかったのです」
シヤは無限記録盤の産出量の偽装と、子供の誘拐で術人間が関与している事を察して、「イクチ・ヤミアールの時と同じだな。あの時はシリィ・バグが犯人だった」と言った。
横にいるシーシーはシヤの怒りを肌で感じて「シヤ…」と言うと、シヤは「エクスキューションサイトに連れて行ってくれ」と言い、メリッサに連れられてかつてシローを失ったエクスキューションサイトに降り立つと、「もう20年近く経った。シロー、遅くなったな。俺はキチンと術人間にされる子供を助ける。お前みたいな奴が生まれない世界にする」と改めて誓いを立てる。
メリッサ・ジェネシスは叔父ガニューの行為を知っていて、シヤ達の事情を聞いてキチンと頭を下げていた。
ヴァンがシーナの顔を見て集中して聞いていると、「シローとヨンシーはその晩から私達みたいに夢を見るようになったんだ」と言い、ヴァンが視線をシローとヨンシーに向けると、シローは「うん。夢にあっちの僕が出てきたよ」と言い、ミチトに懐く仲間のシローを見て、ヨンシーは「私は黒い私で驚いちゃったよ」と隣の黒いヨンシーを見て言い、隣の黒いヨンシーは「なんか悪魔とか言って最初は泣いてたよねアンタ」と言って笑い話みたいに話す。
「それって…」
「お父さんの能力は死者との交信だけじゃないの。急成長もあるの」
「急成長?そういえばミチトさんの本にもあったよ」
「うん。お父さんは真模式だから、マスターみたいに成長限界がわからないの。お母さんやトウテの皆は、自分の限界以上に成長しないのに、お父さんだけ成長してしまう」
無理矢理限界を取り払ってミチトを助け出したヴァンは、自分の経験と同じだと仮定して、「そんな事になったら大変だって、俺は自分の限界値を無理やり壊したけど、滅茶苦茶痛かったんだ」と説明をする。
「え?ヴァンって成長限界の先に行ったの?」
「マジで?」
「しかも痛いの?」
「うわ、お父さんなんなくて良かった」
「てか今痛くないの?」
ヴァンは「治してもらったからね」と言ってから、「シヤはどうやって防ぐの?」と聞く。
「それはあっちの私やヨンゴ、シローとヨンシーが手を尽くしてくれたの」
ヴァンが黒いヨンシーを見て「どう言う事?」と聞くと、「死んだ後って寝てる感じなのに、シヤの事が頭に浮かんできた時だけ目が覚めて、横にはシーナ達がいるんだ」と言う。
「いつも?」
「ううん。いつもって言うか、それはシヤが無理した日だけって気付いたんだけど、表立って出られたのはシヤが成長限界を無視してマスターと戦った日。私とシローはまだ子供過ぎて出られなかったけど、シーナとヨンゴは、シヤの急成長で溢れる力を成長限界に回さない為に無理矢理奪い取って、この子達の身体を勝手に借りたの」
「それって…」
「最初は後でマスターに聞いたら3時間くらい。そこで通り道が出来たから夢に私が出てきて話すようになったんだよ」
「シローとヨンシーは?」
「きっと赤ん坊の時も出てきたんだけど赤ん坊過ぎて私達も理解不能」
ヴァンはそれが召喚術の始まりだと理解していた。
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