第50話 そして俺は、今日も忙しい
「帝、今日は…… の視察を」
「ちょっと待って、帝は今日開発室に来て貰って……」
「帝は……」
「帝」
どこもかしこも、帝の大安売り。
今日も朝から、俺の取り合いをする。
一番偉いはずなんだが、今の俺には自由がほとんど無い。
それというのも……
「帝がいないと、魔導具の作製ができないんです」
びしっとした感じで、ベルトーネが伊達眼鏡をくいっとあげる。
「ふん。開発室には、無能ものしか居ないのか?」
宰相となったロニー=ウィルが、いやそうな顔で答える。
なめた口を利いて、幾度かベルトーネのボディブローを喰らった記憶があるからだろう。
「あなたの所は、もう設計図を作っているのだから、工事をすれば良いでしょう?」
魔道端末を抱え、キリッと宣言をする。
それを聞いて、ロニーはやれやれという顔をする。
「人手だと、どんなに急いでも、数ヶ月かかる。帝なら数分ですむのだよ。インフラ整備は国家にとって重要であり、発展のためには急務。土木工事には帝。これは自明…… ああっ、帝が逃げる。近衛、帝を捕まえろー」
おれは、奥にある研究室へ向かう。
今開発中の積層型魔道回路。
小型になるが、これにより魔道回路作成機が使えなくなった。
さっき、ベルトーネがキャイキャイ言っていた原因。
「どうだ?」
声をかけたのはユキに対して。
ほぼ同等の能力はあるが、魔道に関しては発想力も必要だから、大まかに説明をして組み上げのみをお願いしてある。
すべての場所に、今は魔道回路が使われている。
家庭用から始まり、最近進水式をして、海軍に就航をした自動探査型攻撃艦にも機能に合わせて組み込まれている。
基本回路はユニットで、インターフェイスを組み合わせると、何でもできるようにしてある。
あまりに汎用性を持たせると、セキュリテイ的にどうかと思うが、魔道パターンは複雑で、神じゃないと干渉できない。
「うんまあ、これできちんと組めていると思う」
動作させると、きちんと基本コアが組み立てられていく。
組み上がった方を、ユニットに組み込みテストをする……
「動いた。動いたよ」
「できたの?」
喜んで、ユキの頭をなでているとヴァレリーがやって来て、基本コアの組み立て装置を持っていく。
ヴァレリーが少し冷たいのは、すねているから。
先日、ユキがばらしてしまった……
半神である俺は、人間との間に子供が出来なくなっているようだ。
これは女神が、前回の失敗を踏まえて何かをしたようだ。
ただ俺との付き合いが長くなり、命の恩人で、毎回気を失うようなエッチ。
別れる気は無い。
だけど淋しいと、彼女はすねた。
一介の冒険者で、明日の晩飯も不安だった日々。
そこで病気となり、死にかかって助けられた。
そう、恩は返しきれないほど積み上がっている。
だからこそ、子どもが欲しかった。
そう言って彼女は泣いた。
ベルトーネは、開き直った感じで、歴史に名を残すと宣言をして、国と俺のためにと仕事を頑張り始めた。
いや辛いのを、ごまかしているのか……
教皇であるマリーナは、元々立場が立場だし、作れないと思っていたから大丈夫。
そう言って泣いた。
「私が生きている間は、一生懸命尽くすから……」
そうそう、俺の寿命の話も輪を掛けている。
「何千年も生きるの?」
「年も取らない? ベルトーネだけが年を取るの?」
「あんたもでしょ」
そう言って二人は、にらめっこをしていた。
「俺はこの世界に来て、楽しくて。皆には感謝している。だけど普通じゃなくて…… すまない」
そう言って謝った。
「だけど普通の人なら、私は死んでいたし……」
そう言って、ヴァレリーは悩み始める。
そう、こう見えて、ヴァレリーのほうが繊細。
ベルトーネのほうが、開き直りが早い。
「大丈夫よ。私はずっとヨシュートに付いているから」
ユキがそう言って、ヘイトを集める。
「あんたね。ああ私も変わりたい」
ヴァレリーがぼやき始めると、マリーナが突っ込む。
「教団で修行をする?」
「やだ、そもそもあんな修行で神様に成れるの?」
それを聞かれて、俺は分からないしユキが答える。
「人は寿命を終えて、また生まれ変わる。それを輪廻って言うんだけれど、京回とか繰り返せば、たまに上位へと上がれるわよ」
「ええ? 死なないとだめなの…… やだ」
ユキが二人にはそう言ったが、俺達は何とかならないかと考えていた。
腹が立つが、あの女神に頼み、寿命を合わせてくれないかと聞いた。
そう覗くのは覗いて居るみたいで、たまに繋がる。
「そうねえ。先ずはやることをしなさい。天下統一。大事な人達が寿命で死ぬ前にね」
そう、逆に脅されることになった。
若さを保つ俺と同じで、彼女達は若いままで一緒に暮らしたいはずだ。
だから、海軍と陸軍。
そして空軍の創設。
優先的に研究開発を進めた。
そうなんだよ、あいつの計画では、先は宇宙までが視野に入っている。
この広大な世界をこの手に掴む。
それが俺の使命だそうだから、急がなくてはいけない。
「帝、準備が終了いたしました」
「そうかご苦労」
目的地である、獣人の住む大陸は魔道衛星により捉えてある。
「帝国軍、発進。目標は獣人国」
「発進します」
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