第10話 滞在2日目

澁鬼くんの民宿で無事に朝を迎えたこの日。

朝食を済ませたぼくらは、食料や備品の調達に行くことにした。

ここの町は復興は完全には進んでいないものの、市場には活気が溢れ、何より町民の皆さんはぼく達を大いに歓迎してくれた。

ぼく達を見るなり町民の方たちは優しく声をかけてくれたり、差し入れを渡してくれたりと、正に至れり尽くせりだった。

回復薬を買いに薬屋に寄った時でさえ、

「旅人さんにはサービスしなくちゃなぁ。ほい、これはおまけだよ」

そういって薬屋のおじさんはぼくらが買った分の5割増しで傷薬や回復薬を売ってくれたのだ。

そして食糧品の調達もぼくらが必要としてた量の倍近くの量をサービスとして売ってくれたのだった。


「なんか、すごく良い町だね。活気に溢れてるし、何よりすごく優しい」

この日、調達を終えたぼく達は一通り町を観光して夕暮れ時になり民宿へと戻った。

ぼくの言葉に対し、祐葉が少し神妙な顔をする。

「確かにな。オレたちに対して異常なまでに友好的だし、愛想も良くて町全体を俺たちを歓迎してくれた。だが、たかが町民を1人助けたぐらいで、ここまでの待遇を受けるか?彼らがしたくてしてる事なのかもしれないが、それでも····」

「祐葉は考えすぎだってぇ。こんなVIPみたいな待遇受けるなんてあたし達ツイてるぅぅ!」

「恵里菜は恵里菜で楽観的な気もするけどね...」

ぼくは相変わらず能天気な彼女にツッコミを入れる。


澁鬼くんが案内をしてくれたこの日は美味しいレストランや町の記念館、高所から見る絶景スポットを見て周り、とても充実していた。

そして澁鬼くんは町中まちなかを歩きながら自分の将来について話してくれた。

「いつかおれは大きくなったらあの民宿を継ぐ。そしてこの町の民宿の支配人で経営者、且つこの町の案内人になるのがおれの夢の1つなんだ!!」


ぼく達と歳もさほど変わらないのに、なんて素敵な夢を持っているんだろうとぼく達は互いに顔を見合わせ、微笑ましい気持ちになった。

そしてこの町のあまりにも素敵すぎる待遇と魅力を満喫して民宿に戻ると、澁鬼くんのお母さんが「おかえりなさい」と出迎えてくれた。

「澁鬼、今日は皆さんにこの町の魅力を伝えられたかしら?気に入ってくれた?」

「あぁ、もちろんだ!」

澁鬼くんはドンと胸を叩く。

「そういえば澁鬼、私から提案が1つあるのだけれど」

澁鬼くんのお母さんは優しい笑顔で言った。

「明日、ここにいる皆さんはこの町を出て研究所に向かって旅をなさるのでしょう?せっかくなら、一緒に旅をしてみない?外の世界を見て、色んな経験をして、この町を守るためにも異能を手に入れて、それからこの民宿の支配人と案内人になっても遅くないと思うの」


澁鬼くんのお母さんの提案は予想もしないものだった。


「おれが旅····?」

「えぇ、私は今回あなたに危険な思いを させてしまった。母親として私は何も出来なかった······。でも今後もそういう場面はきっとある。この方たちは自身を守る術を身につけている。私はそれを教えられない。だから、この方たちに着いていくのはどうかしら?強くなって、自分とお客様を守る強さを身につけて、観光の案内人とこの民宿の支配人になってほしいの」

呆気にとられているのは澁鬼くんだけではなく、ぼく達もだ。まさかこんな提案がされるなんて思ってもみなかったから。

「母さん、それって明日まで答えを待ってもらっても良いかな?この場では、決められそうにない...」

「えぇ、もちろんよ。でも明日の昼までには答えを聞かせてほしいわ」

「うん、分かった」

澁鬼くんとお母さんはそう言って、ぼく達に軽く挨拶をして出ていった。


ぼく達はその夜、急遽ミーティングをすることにした。真っ先に口を開いたのは祐葉だった。

「雪嶺、どうする?」

「そうね。お母様の言うことにも確かに一理ある。彼は私たちと歳もさほど変わらない。私的にはメンバーに入れて特に問題は無いと思うわ。強くなりたいのは私たちも同じこと。それに今日薬や食糧は予想以上に大量に手に入った。私は反対する理由は特に無いわ」

「あたしも賛成〜。あたしあのお母さん優しくて好きだし、せっかくならお願いごと叶えてあげたいなぁ」

「そうだね。ぼくもそれが良いと思う」

反対する者は誰もいなかった。ぼくらは皆、十年前に家族を失っている。身内を失う痛みをぼく達は誰よりも知っている。澁鬼くんが望むなら、ぼく達は彼を笑顔で迎え入れよう。

そう結論を出し、この日は眠りについた。

明日、いよいよ町を出て研究所に向かう。

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