空気読めない嫌われ者おっさん、今日も元気にモラハラする

ホメコロ助

1話「受付嬢にモラハラする」



朝日が昇り始めた頃、冒険者ギルドの扉が開いた。入ってきたのは、ぼさぼさの髪と無精ひげを蓄えた中年の男性だった。その姿を見た途端、ギルド内の空気が一変する。


「おっ、みんな元気そうだな!」


大声で挨拶するラストに、誰も返事をしない。むしろ、みんな彼から目を逸らしているようだった。


ラストは気にせず受付に向かう。そこには、いつもの美人ギルド受付嬢が立っていた。


「おはようございます、ラストさん」


 受付嬢は笑顔で挨拶する。

 ギルド内では、ゴキブリ以上に嫌われるラストに笑顔で応対できる。

 

 想像してみてほしい。ゴキブリが朝枕元に表れて、おはようございますと挨拶できるだろうか?普通はできない。


「おう、今日も可愛いな」


 ラストは笑いながら話しかける。


「でもよ、目の下のクマがすごいぞ。徹夜でも続けてるのか?老けて見えるぞ」


受付嬢の笑顔が一瞬凍りつく。


「い、いえ...そんなことは...」


 受付嬢の顔がこわばったことに気が付かずにラストが続ける。


「いやいや、隠さなくていいって。若いうちの苦労は買ってでもしろって言うしな。でも、そのクマじゃ、新人冒険者からしたらババァって言われてもおかしくないぞ」


「……」


 受付嬢の顔が凍りついて真っ青になっているのだが、ラストはそれに気づかずなおも畳み掛ける。


「睡眠は毎日ちゃんととりな~あと恋をすることだなぁ女は恋をするときれいになるっていうやん、俺とか恋の相手にどうよ?よかったら今日の夜食事でも…あ、でもそうすると寝かせられないかもなぁ」


 受付嬢の硬直した笑顔から一切の血の気が引いて、まるで能面のようになってしまっている。


「...ラストさん、実はあなたにぴったりの依頼が来ているんです」


「俺にぴったり?さすがだな、お前。俺のことをよく分かってる」


受付嬢は内心であんたのことなんて知りたくもない!と叫びながら、にっこりと微笑む。


「はい、ラストさんにしかお任せできない重要な依頼なんです」


彼女は一枚の紙を取り出す。


「近隣の山奥にある洞窟に、謎の魔物が潜んでいるらしいんです。

これまで多くの冒険者が挑戦しては失敗してきました。でも、ラストさんなら...」


「おう、分かった。俺にしか頼めないんだな。任せとけ!」


ラストは胸を張って依頼書を受け取る。


受付嬢は「これで少しは大人しくなるでしょう」と期待を込めて見送った。


数時間後、ラストは指定された洞窟の入り口に立っていた。


「ふむ、確かに不気味な雰囲気だな」


暗闇の中から唸り声が聞こえてくる。普通の冒険者なら尻込みするところだが、ラストは平然と洞窟に踏み入る。


「おーい、魔物さんよー。悪いけど退治しに来たぞー」


突如、巨大な影が現れる。それは、これまでに見たこともないような奇怪な姿の魔物だった。


「おっと、デカいな。でも、デカいだけじゃ俺には勝てないぞ」


魔物は咆哮を上げ、ラストに襲いかかる。ラストは持ち前の反射神経で避けながら、魔物の弱点を探る。


「ふむ、あそこか...」


ラストは魔物の動きを見切り、一瞬の隙を突いて致命的な一撃を与える。魔物は苦しそうな声を上げ、地面に崩れ落ちた。


「ふう、なかなか手ごわかったぜ」


しかし、安堵したのも束の間。洞窟から出る途中、足を滑らせて崖から転落してしまう。


「うわあああっ!」


数時間後、ボロボロになったラストがギルドに戻ってきた。


「か、帰ってきたぞぉ…」


受付嬢は驚きの表情を隠せない。「ラ、ラストさん!?」


「やっぱり俺にしか無理な依頼だったな。お前の目に狂いはなかったよ」ラストは誇らしげに言う。


受付嬢は呆れながらも、内心ではなんでこいつ、まだ生きてるのよ!とため息をつく。


「そうですか...お疲れ様でした」


「おう、次の依頼もよろしくな。できれば今日みたいな面白い奴を頼むぞ、あと顔のケアちゃんとしたほうがいいぞ!このあいだよりブスになってるぜ!」


「あははは…あ、ラストさん、よかったらこれどうぞ!」


受付嬢は、猛毒入りジュース手渡す。


「おぉお!ありがとう!」


ラストはぐびぐびジュースを飲み干す。


「うまかったぜ!」


「よかったです」ニコッ


ラストが立ち去ると、受付嬢はすぐに次の危険な依頼を探し始めるのだった。


「次こそあいつが死ぬ依頼を…絶対見つけてやる!!勘違いのモラハラ、イタオジが!!死ね!!!」


そんなことも知らずラストは気分よく町を歩いていた。


「いやぁ、きっと受付嬢ちゃん俺のこと惚れなおしただろうなぁ、今日はうまい酒が飲めそうだぜ!」


いきつけの酒場に向かうラスト。ほぼ大体の町の酒場を出禁になっているラストが唯一来店を許された心が広いマスターがいる、ボサツ亭にラストの足が向かう。


店の入り口まできたところで。


グルル…。

ラストの腹が鳴る。


「…な、なんだか腹が痛くなってきたし、ついでにトイレも借りるか」


店のドアを開けようとするラスト。


そのころの飲み屋の中では、くるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるな! とラストが来店する予感を感じた飲み屋のマスターが念仏を唱えている。


そのことをラストは知らないし、おそらくこれからも気づくこともないだろう。


鈍感で空気が読めない嫌われ者のおっさん…それがラストだからだ。

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