【中世耽美百合小説】「悪徳の園、その蜜と罠」

藍埜佑(あいのたすく)

第一章:堕落の始まり

 パリ郊外の古びた修道院は、その厳めしい外観とは裏腹に、内部では禁断の宴が繰り広げられていた。石造りの壁に囲まれたこの聖なる場所は、今や欲望と背徳の温床と化していた。修道院長クロエは、その中心にいた。


 クロエは30代半ばの女性で、かつては敬虔な信仰者だった。しかし、長年の修道生活の中で、彼女の心に疑念が芽生え始めていた。神の存在、美徳の価値、そして社会の規範。これらすべてが、ある出来事によって、彼女の目には虚構に思えてきたのだ。


 ある夜、クロエは若き修道女エレーヌを自室に呼び寄せた。エレーヌは20歳になったばかりの純真な少女で、幼い頃から修道院で育てられていた。彼女の大きな瞳には、まだ世間の邪悪さを知らない無垢さが宿っていた。


「エレーヌ、あなたに話したいことがある」


 クロエは静かに語り始めた。


「あなたは今まで、美徳を追い求めてきたわね。でも、それが本当に正しいことだと思う?」


 エレーヌは戸惑いの表情を浮かべた。


「修道院長様、美徳こそが私たちの生きる道ではないのでしょうか?」


 クロエは微笑んだ。その笑みには、何か危険なものが潜んでいた。


「美徳など幻想に過ぎないのよ、エレーヌ。真の快楽は、社会の規範を打ち砕くことにある」


 エレーヌは息を呑んだ。

 クロエの言葉は過激だった。

 しかし彼女の言葉は、彼女の心の奥底に眠っていた何かを呼び覚ましたようだった。


「でも、それは罪ではないのでしょうか?」


 エレーヌは小さな声で尋ねた。


 クロエは優しく彼女の頬を撫でた。


「罪とは何かしら? それは人間が作り出した概念に過ぎない。自然の摂理に従うことこそが、本当の生き方なのよ」


 エレーヌの心の中で、長年抑圧されてきた欲望が目覚め始めていた。クロエの言葉は、彼女の内なる闇を刺激し、未知の世界への扉を開いたのだ。


 その夜、クロエはエレーヌを静かに自室に招き入れた。

 部屋の中は、柔らかなキャンドルの灯りが揺らめき、甘い香りのするアロマが漂っていた。エレーヌは緊張と期待が入り混じった表情で、クロエの指示に従ってベッドの端に座った。


 クロエはエレーヌの手を取り、優しく囁いた。


「エレーヌ、今夜、あなたに本当の快楽を教えましょう。それは神の教えや社会の規範を超えた、純粋な喜びなのです」


 エレーヌの心臓は激しく鼓動し始めた。彼女はこれまで経験したことのない感覚に包まれていた。クロエはゆっくりとエレーヌの髪を撫で、その後、彼女の首筋に軽く唇を触れさせた。その瞬間、エレーヌの体は電流が走ったように震えた。


「感じるでしょう?」


 クロエは微笑みながらエレーヌの耳元で囁いた。


「これはほんの始まりに過ぎないのよ」


 クロエの手は次第にエレーヌの体をまさぐり始めた。彼女の指先はエレーヌの服の下に滑り込み、柔らかな肌に触れた。エレーヌは初めて感じる快感に戸惑いながらも、その心地よさに身を委ねていった。


「あなたの体は、もっと多くの喜びを感じることができるように創られているのです」


 クロエは言いながら、エレーヌの胸に手を滑らせた。エレーヌは息を呑み、その感覚に驚きと興奮を覚えた。


 クロエの手はさらに下へと移動し、エレーヌの腰に軽く触れると、彼女の体は自然と反応した。エレーヌは自分の体がこれほどまでに敏感であることに驚き、同時にその快感に溺れていった。


「感じるままに身を委ねなさい、エレーヌ」


 クロエの声は柔らかく、しかしその中に確固たる意志が感じられた。エレーヌはその言葉に従い、全身をクロエの手に委ねた。


 クロエはエレーヌの体を優しく、しかし確実に刺激し続けた。彼女の指先が触れるたびに、エレーヌの体は甘美な快感に包まれ、その度に彼女の喘ぎ声が漏れた。エレーヌは自分がこれほどまでに感じることができるのかと驚き、その感覚に魅了されていった。


 やがて、エレーヌの体は頂点に達し、全身が震えるような快感が彼女を包み込んだ。彼女はクロエの腕の中で息を荒げながら、その瞬間を味わった。クロエは優しく彼女を抱きしめ、エレーヌの耳元で囁いた。


「これが本当の快楽なのです、エレーヌ。あなたは今夜、真の喜びを知ったのです」


 エレーヌはその言葉に深く頷き、自分の体がこれほどまでに快感を感じることができることに驚きと喜びを感じた。その夜、彼女は新たな世界への扉を開き、クロエの教えに従って真の自由と快楽を追い求める決意をしたのだった。


 その後も、エレーヌはクロエの指導の下で、自分の体と心を解放し続けた。彼女は他の修道女たちとも親密な関係を築き、禁断の快楽の世界に没頭していった。そして、修道院全体がその影響を受け、欲望と背徳の渦に巻き込まれていくのだった。


 翌朝、エレーヌは罪の意識と新たな喜びの間で揺れ動いていた。しかし、クロエの教えは彼女の心に深く根付いていった。


「これが本当の自由なのね……」


 エレーヌは鏡に映る自分の美しい肢体に向かって呟いた。


 クロエは他の若い修道女たちにも同じ教えを広めていった。彼女たちの多くは、最初は戸惑いを見せたが、やがて新たな快楽の虜となっていった。


 修道院の雰囲気は日に日に変わっていった。夜になると、静寂に包まれるはずの廊下から、抑えきれない喘ぎ声が漏れ聞こえるようになった。


 エレーヌは、この新しい世界に魅了されていった。彼女は他の修道女たちとの関係も深めていき、かつては罪深いと思っていた行為を、今では心から楽しむようになっていた。


 しかし、この堕落の始まりは、やがて修道院全体を巻き込む大きな渦となっていくのだった。エレーヌはまだ知らなかったが、彼女の人生は取り返しのつかない方向へと進み始めていたのだ。

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