第60話 戦時下の追憶5
アーネスの号令を受け、5人の能力者が先陣を切る。時は、戦時下のセーレ、シルカとの初タッグに遡る。
「セーレ! うちの近くには、絶対寄らないでよ。爆発させちゃうかもしれないから……って足早!」
「私がやらなきゃ……」
「…(残念ね。初めて顔を見たとき、わらわと似た境遇だと思ったのに……まさか、考えなしの死にたがりだったなんて。愚かな子。さようなら、セーレ)」
無謀な行動に残念がるシルカ。その心配は
「…(前言撤回。セーレから放たれる狂気は、わらわと近しい。あぁ、やっと心の拠り所を見つけた)」
シルカの幼い記憶を巡る。
「ねぇ、お父様とお母様にいつ会えるのかしら?」
「シルカ様。そんなことより、手を動かしなさい!!」
ある財を成した小国があった。国土は狭いが、民は皆幸せだった。幸せの裏にある姫君の苦労も知らずに。
「痛い。言う通りにするから、やめて」
金髪の少女に対し、容赦のない指示と罰。操り人形と化した手には、印鑑を握らせている。大した説明もなしに、次々と承認作業を進める。
「この資料について、教え……」
「黙りなさい!!」
「え!?」
「わかっていますか? 時間が惜しいのです。この書類が遅れることにより、各関係者を困らせます」
内政大臣と思しき女性は、好き勝手な政治をしていた。シルカの裏に潜み、自身の考えるプランを承認させる。異議を呈する敵対勢力の意見は全て却下。指示に離反する輩は、秘密裏に処刑し闇へ隠蔽。
「お仕置きが必要ですか?」
か細い腕に対し千切れそうな力を込め、綺麗な部屋へと押し込む。我慢もできず、何度も叩く音が響き渡る。誰も反応しない。拳で何度も殴り、血が散乱。誰も関心がない。
「わらわが、何をしたって言うのよ! お願い。早く帰って来てよ。お父様、お母様」
監禁生活1ヶ月経過。毎日、印鑑の捺印を催促。何も言わずに名前と押印する。歓喜の声が上がり、食料が与えられる。与えられる食料には、毎回差があった。即決は、パン、スープ、肉が支給された。対応が遅いと水だけしか飲めなかった。
「…(あぁ、お腹空いたな)」
そこに、何やら楽しそうな会話が聴こえて来た。何かを馬鹿にしたような
「聞いたかよ」
「あぁ、聞いた、聞いた」
「…(何だろう?)」
「王様と王女様を勝手に処刑した話だろ」
「全く、大臣様の考えることはわからん」
願いは儚くも砕けた。終始無言で泣くしかなかった。無論、罰を与えられる恐怖で、声を抑えていた訳では断じてない。「わらわは、この国の王女となる者」民に対する強い決意を胸に、感情を押し殺した。
「わらわは、この国を救う」
しかし、救うことは叶わない。一夜にして、小国は滅亡する。内政大臣の策略によって。監禁生活10年目の春の出来事だった。
「ここから出して! 早く民を助けないと」
夜間に騒ぎが起こり、敵襲は訪れた。槍、剣を持った敵兵に情け容赦は存在しない。民の殺害を目的とし、骨を断つ鈍い音と悲鳴が鳴り止まない。恨み辛みは
「どうして、こんなことになったの。誰かいないの!」
「シルカ様」
「マーズなの? 民が犠牲になっているわ。すぐにでも兵士を向かわせて」
「承知しました」
ガチャガチャと部屋の近くまで、足音が吸い寄せられる。複数人の兵士達は、シルカのいる狭い部屋の入口を取り囲む。悲しみの演技をした女は、残酷な人差し指を仕向けた。
「全て、あの女が決めたことよ。さぁ、兵士達よ。王様と王女様の処刑とこの事態を命令した謀反人に制裁を!」
「わらわは、そんなこと命令していない」
捺印入りの書面を見せびらかした。兵士からは、「許さん、国賊を討つ、シルカを処刑」っと、士気が高まる。黄色の瞳には諦め、口からは嘆きが風聴された。どうやら、「大臣は10年の歳月で搾れるだけ搾取する作業は終わった」ようだ。
「そうなんだ。ふふふ、はははは、わらわって、愚かだな。ずっと、踊らされていたんだ。あぁ、憎いな。ほんと、弱い自分にイライラする」
頭の中に「死んでよ」っと声が波長した。それと同時に、金色の瞳が輝き、人体の爆発現象を引き起こした。狭い部屋越しにいた兵士達は全て爆死。微かに息がある人物を根絶やしにするべく、頑丈な鉄製のドアから金髪の狂気が姿を覗かせた。
「ひゅー、ひゅー、何なんだよ。突然何が起こった」
「皆死んだわ。はははは。ねぇ? 最後に質問してあげる。どうして、こんなことをしたの?」
マーズの足はぐちゃぐちゃになり、動けそうにない。シルカは、痩せた体で、ふらふらと安定しない足で
「ひゅー、ふー。小娘が。黙って駒になってろよ」
「さようなら」
大きな鉄の音が閉じられる。ちらりと、鉄格子の隙間から充血した瞳と見つめ合った。大きな爆発音と共に身を伏せる。再び開かれたとき。黒焦げな姿を見ても無関心だった。
「……(変な能力に目覚めたみたい。ありがたい。これで、敵となった者は全て破壊できる。ははは、でも守る理由が必要ね。そうだ、私と似た子を探そう。その子を守りながら戦う。面白そうね。わらわ、いや、うちの一人称の方が記憶に残るかしら。あははははは)」
何やら、メイドと執事がシルカを呼び止める。彼等は頭を深々と下げてから、跪く。従う者に笑顔を振り撒き、優しく声を投げかけた。
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