第2話 山籠り

 燃え盛る収監所を見つめる銀髪は美しく、深紅の瞳は吸い込まれそうな程輝いている。


「さようなら」

「おい、待ってくれ」

「貴方は誰だったけ」


 声を掛けたのは、看守服を脱いだ白Tシャツとジーンズの青年だった。


「俺はマークだ。あんたの監視と世話を命令されていたが、職場も焼けて無職だ」

「そうなの、無職さん頑張ってね。バイバイ」

「おい、待ってくれ。行こうとしないでくれ」

「話すことは何もないわ。貴方は豚から自由になった。檻から解き放たれ自由になった人には興味はないの」


 セーレは、マークに全く興味がない。足早にその場を立ち去ろうとする。


「待ってくれ、頼むから。あんたに取ってメリットがある話なんだ」

「貴方だけ得しなよ。バイバイ」

「何処に行きたいんだ? 3年でこの世界はかなり変化したんだ。あんた1人で目的地まで行けるのか?」

「しつこい男ね。私の勝手でしょう。もう時間がないの。バイバイ」

「いや、頼む、行かないでくれ」


 マークはセーレの腕を掴むが、全然止まらずマークが引っ張られる程の力だ。「何とも可笑しな話」だ。この女は3年も収監されていて、「かなり痩せこけている」

 なぜ、「こんなに力があるんだ」紛い物だが、看守生活で「鍛えてた」のにと落胆するマークであった。


「いい加減にしなさい、ならまた私に従わせてあげる」


 そのとき、夜の月が雲に隠れた。それと同時にセーレはその場に倒れ込んだ。髪も銀髪から白髪頭に戻った。


「もん、もん。あなたの責で時間切れになっちゃったじゃない。何ってことしてくれるのよ。もー、もー」


 手足をバタバタさせながら、子牛のように鳴いていた。


「いや、ごめんって。あれ、セーレ?」


 セーレはその場を動かず、気絶していた。彼女の体を見ると、拷問で受けた傷が無数にある。足は先程のボヤ騒ぎで火傷していた。


「こんな状態で歩いていたなんて、正気の沙汰じゃない。だが、今通報すれば俺の立場も」


 マークは唾を飲み込み、頭を横に振った。セーレを背中に担ぎ歩き出した。空を見上げると、月は雲に隠れていた。

 

 コンコン、タタタタ。何かの音でセーレは目が覚めた。汚い木のベッド、部屋は3畳程で物が散乱し歩くスペースもない。


「何、ここ。どこなの」

「お目覚めか、セーレ」

「どちら様って、ああしつこい男か」

「マークだ」

「そう、それでここはどこなの」

「ここは俺の家だ。急に倒れたし、体中傷だらけだったからね」

「別に頼んでいないわ、イタ……」


 ベッドから起きあがろうと足を床につけたが、火傷の痛みでまたベッドに戻った。


「その傷では歩くこともできないだろう。それに君の髪、銀髪から白髪に戻っている」

「あなたが邪魔しなければ、目的地まで行けたかもしれないのに」

「目的地はどこなんだ?」

「何よ、あなたには関係ないでしょう」

「関係ないが、利用するだけ利用し後はポイはあまりにも酷いんじゃないか」

「地図はあるの?」

「あぁ、持ってくる」


 マークは部屋を出て地図を探しに行った。セーレはまた横になり自分の左の掌を見つめた。掌の中心には、赤い蛇の刺青が入れられていた。


「はぁ、全身痛いわ」


 マークの補助もあり、車椅子に乗せられて同行することになった。彼等の最初の目的は、山のふもと付近に住むヘーゼルという女性に会うらしい。ヘーゼルとはセーレが収監前に仲が良かったらしく、「治療のエキスパート」とのことだ。

 

 山の麓は、霧が深くコンパスと地図を見ても迷いそうになる。マークが迷いそうになる度にセーレは、指を差し次の行くべき場所を指示した。


「あそこよ」


 セーレの言われた通り進んだだけだが、「ほんとに着いてしまった」

 ヘーゼルの家は山小屋みたいな外観で、煙突から煙が異常な程出ていた。まるで霧を生成しているようだ。

 

 セーレは大きな声でヘーゼルへ呼びかけた。


「ヘーゼル私よ、セーレよ。3年ぶりね」

「その声はセーレなのかい」

「はい、セーレよ。久々に会ったのだから顔ぐらい見せてほしいな、後、歯とか怪我とか色々治療してほしいな」

「セーレ」


 ドアを開けたのは、筋肉隆々の女性だった。お婆さんとは思えないバルクだ。マークはかなり驚いた顔をした。それよりも驚いたのは、セーレに斧を向けたことだった。


「帰んな、この裏切り馬鹿小娘が」

「え、酷くない。かつては、一緒に言論の自由を勝ち取るため、戦った仲じゃない」

「うるさい、面倒ごとを持ち込むんじゃないよ」

「え、困るな。見てよ、この歯と足。あなたの力で治してくれないとどうにもならないの」

「お断りだよ」


 ヘーゼルは扉を閉めた。


「って、ババア早く治療しろって言ってんだろう。こっちはあんたに嵌められて、3年牢屋に入ってんだ。それくらいしてもバチはあたらねぇだろうが」

「うるさい、ん…セーレあんた付けられたね……」

「え、っていうと思った? あんたに治療させるため、ワザと付けられたのよ。さぁ、暗殺者よ。あの建物にいるヘーゼルも私の仲間よ。やっちゃってください」


 出てきた3人の暗殺者は突然の出来事で驚いたが、セーレに向かって襲いかかってきた。


「て、私じゃないってば相手するのはそっち」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る