第74話:グループリーグ3回戦6【学年チーム戦】

《久遠 遥斗》


「私たちの勝ちだね」


 空から降ってきた橘は朱色の瞳を青く光らせる。それが【部分時止】の発動を意味しているのは明らかだった。


 突如、俺は全く動かなくなった。動かそうと努力しても、まるで時が止まったかのように動くことはなかった。


 すると、俺と橘をつなぐように氷が生成されていく。


 終着点を俺とする氷の滑り台。橘の落下に合わせて上手く生成したのだろう。彼女は着地の際の反動を全く受けていないどころか、着地時点での落下速度を滑るスピードに加えていた。


 高速で滑り台を駆け抜ける橘。腰に携えた刀に手を添え、未だ動かない俺に狙いを定める。彼女の能力のリミットである8秒の間で俺に攻撃がされるのは日を見るより明らかだった。


 加速による勢いも相まって、強力な太刀が俺に浴びせられる。それだけでは済まず、橘は自分の勢いを殺すように進む方向とは逆向きに大きくジャンプする。


 再び俺と向き合う形になると、刀を両手で握りしめる。頭上に振り上げ、俺を一刀両断するように真下に振り下ろしていった。


 強力な攻撃であっても1度の攻撃だけでは完全に仕留めきれないと思ったのだろう。もし、仕留めきれなかった場合は俺に8秒の自由を与えてしまうことになる。8秒もあれば、形勢逆転される可能性があるため2度の攻撃を仕掛けてきたと言ったところか。


 橘の勘は正しい。1度目の攻撃での体力の消耗を見る限り、俺はわずか生き残っていた可能性が高かった。しかし、2度目の攻撃によって『わずか』が一気に消え失せた。


 2度の攻撃によって俺の体力は0となり、この仮想空間から去ることを余儀なくされる。


 これで橘チームはあと1人倒すだけでいい。橘たちのチームの勝利を確信したのか喜びが溢れるように笑みを浮かべている。


 きっと橘はあと1人を美里だと思っていることだろう。


 でも、残念だったな。その1人は美里ではない。お前たちが4人合わさっても勝てない相手だぜ。


 いや、それは言い過ぎか。もしそうであるとしたら、こんな姑息な手を使わなかっただろうからな。


 訂正する。その1人は『橘以外の3人』が合わさっても、絶対に勝てない相手だ。なんてたってAグループ1位。クラス内最強の男だからな。


「っ!」


 笑みを浮かべていた橘の表情がガラリと変わる。口角は垂れ下がり、細かった目が大きく見開かれた。


 体力が失くなった者はこの仮想空間から消えていく。そのエフェクトである青い光が体を覆いつくす。同時に、俺は別の人物へと姿を変えた。


 今まで俺が見ていた『俺』。それは【身体模倣<コーパス・イミテイチオ>】によって俺の身体に成り代わっていた美里だったのだ。


 橘にとってこの試合で勝利を掴むためのキーとなるのは『相手チームの主力に自分の能力を決め、8秒間で倒すこと』だろう。俺たちがこの試合で勝利を掴むためにはそれを避ける必要がある。つまり、『主力が橘の能力を避け、次の能力が発動されるまでの8秒間で倒すこと』が求められるわけだ。


 それを実現するために俺は1人を囮にすることにした。


 囮になる人物を選択するのは簡単だった。うちのチームには美里という、これまでの2戦で全くもって活躍の場がなかった人物がいたからな。本人もそのことに一応は罪悪感を感じていたようで、この話をしたら渋々ながらも受け入れてくれた。


 後はどうやって橘に美里に能力を発動するよう仕向けるかだ。


 これも方法は簡単だ。橘は確実に俺を狙ってくる。ならば美里を俺に変え、俺は姿を現さなければいい。そうすれば橘は俺と間違えて美里に能力をかける。


 美里を俺に変えるのは、宵越戦の時にいたDグループのメンバーの能力を使えば達成できる。だから俺は彼女に頼んで能力を模倣させてもらうことにした。


 ただ、これには1つ難点がある。


 それは彼女の能力は【身体模倣】であり、姿しか変えることができないことだ。その人に成り代わったからと言って、その人の能力を使うことはできない。


 いくら美里が俺の身体に成り代わったからと言って、橘チームの誰かと対峙した時に技を使わずに逃げるような真似をすれば流石に怪しまれる。


 だから怪しまれないように俺は【透明成化】を使い、美里を後ろからアシストすることに決めた。避ける手段は【瞬間移動】を使用。【空間爆撃】を使う際は美里の片腕をタッチし、【幻獣降霊】を使う際は美里の両手をタッチすることで技の動作をさせた。


 難点ではあるものの、上手く使用すれば相手に美里が俺であると思わせることに説得力を加えられる。実際、相手チームは全員が美里が俺であることを疑っていなかった。


 一つ気がかりがあったとしたら『声』だ。


【身体模倣】を試した際、美里の声を変えることができなかった。能力者曰く、声を変えるためには鍛錬が必要だとか。多少の練習はしてみたものの、試合当日までに声を変えることはできなかった。


 信川に返答することもできなかったのはこれが理由だ。幸いなのは、信川には俺が格下相手を煽っていると思ったことだ。これからの関係においては最悪な結果だが、こと試合においては有難い誤解だ。


 さらに幸運に恵まれたのは能力を有効にする時だ。急いで能力を有効にしようと思ったため、美里の口がおぼつかないのに声がクリアに聞こえるという異常事態を起こしてしまった。それで橘に怪しまれると思ったが、能力を当てることに必死だったのか気づくことはなかった。


 こうして、俺は橘に囮に能力を使わせることに成功したのだ。


「悪いが、この試合は俺たちの勝ちだ」


 俺の声に惹かれ、橘は素早い動きでこちらを向く。同時に、俺は【透明成化】の能力を解き、橘に姿を見せる。


 橘は敵意剥き出しの状態で俺に刀を向ける。今は能力が使えない状態なのだ。警戒しても無理はない。


「安心しな。もう決着はついている」


 出なければ【透明成化】を解くはずないからな。


「え……」


 橘は呆けた表情を見せる。その瞬間、彼女の近くで爆破が起きる。【空間爆撃】が起爆したのだ。


「っ!」


 一撃を食らったことに橘は恐怖を覚える。たった一撃で体力を半分も奪う強力な技だ。怯えても仕方ない。それに、俺も橘と同じで二撃用意しているからな。


 爆撃を受け、吹き飛ばされる橘。その軌道でさらに爆撃が発生する。橘は背中を撃たれ、真反対に軌道を変えた。半分となった体力がさらに半分削られる。


 体力ゼロ。橘の身体が青く染まり、この仮想空間から消えていく。


「このっ!」


 橘が消失するのを近くで見ていた【氷雪遊戯】の能力者が俺に攻撃を仕掛けてくる。


「残念だが、あんたの相手は俺じゃないよ」


 上空に顔を向ける。そこには強気な表情で俺を見ていた彼女の姿があった。だが、それは一瞬で彼女は気配を感じて俺から視線を外す。そして、強気な表情は強張った表情に姿を変えた。


 彼女の見ている先はヤマタノオロチがいる場所だ。標的を見つけたやつはこちらに向けて一筋の炎を吹き荒らす。慌てて氷の壁を作るも、街を破壊するほどの強力な炎の前では無意味。炎は氷の壁を飲み込み、その奥にいる彼女をも飲み込んでいった。


 ヤマタノオロチによって彼女が倒されたことを見届けてから、俺は信川に向けて【空間爆撃】を発動。すでに瀕死の状態にある彼は一撃でこの仮想空間から姿を消した。


 視界に現れるパネルは1対1を示す。


 パネルの情報だけであれば、どちらが勝つか分からない白熱した試合だと思うだろう。しかし、その中身はAグループ対Dグループ。勝負は決したも同然だ。


「さあ、仕上げと行きますか」


 俺は両手を重ね合わせ、【幻獣降霊】により多くの幻獣たちを召喚。彼らをDグループメンバーの探索に向かわせた。


 数分後、幻獣によってDグループメンバーは仮想世界から去った。俺たちは見事、橘チームに勝利したのだった。

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