第68話:橘の情報
2回戦も無事に勝利を収めることができた。
相手は全員が【雷光遊戯】を操るチームだった。『全員が共に行動する』と言う戦術を立てており、相手チームに攻め込んだ俺が最初の的となった。素早い動きに翻弄されたところもあったが、幻獣たちや晶たちのフォローもあって何とか全員を倒すことができた。
「2回戦も誰ひとり死ぬことなく勝利したぞ! イェーイ!」
美里が両手を上げると、彼女の喜びに応えるように晶と来栖も両手をあげた。
最初のターゲットである俺を倒すことができなかったため、この試合もまた俺たちは4人残って勝利を収めることができた。
「イェイ」
「イェーイ!」
相変わらずローテンションに言う晶。美里に劣らないハイテンションさを見せる来栖。俺は恥ずかしいため特に何も言うことなく、美里と来栖の手に自分の手を重ねた。
「これで2勝。次の試合に勝てばトーナメント進出は確定と言ってもいいわね。明日の試合も勝つよ!」
「今日も何もしなかった美里に言われてもあんまり士気が上がらない」
「仕方ないでしょ! 誰もスタート位置に来てくれないんだから! 私だって何かしてあげたいのに誰も何もさせてくれないんだもん!」
「まあまあ。あんまり意地悪言わないでおいてあげようよ。美里ちゃんは応援係として精一杯頑張ってるんだから」
「そうよ! 私は応援係として……応援係として……?」
来栖の賞賛に乗っかろうとする美里だったが、そのポジションになっていたことが不服だったのか途中で言い淀む。
「遥斗、何かあった?」
3人の会話を横聞きしていると、晶が突如として俺に声をかけてきた。まさか話を振られるとは思っておらず、俺は目を大きくして晶を見る。
「何かって?」
「ちょっと浮かない顔をしているようだったから」
晶の話を聞いてさらに驚く。考え事をしていたのは事実だが、別に思い悩むようなことではなかった。だが、無意識のうちに不安に思っていたのかもしれない。
「どうしたの? 何か悩み事?」
「試合に勝ったのに何を悩んでるのよ。しょうがない。私が聞いてあげよう」
晶の発言につられて、来栖と美里もまた俺の方を覗く。
ここで「何でもない」と言えば、みんなの中にモヤモヤが残るだろう。それは学年チーム戦に影響を及ぼす可能性がある。
別に隠す必要もないことなので、考えていたことを正直に話すべきか。美里が応援するよりもチームの士気が高まる可能性があるしな。
「明日の対戦相手について考えていんたんだ」
「「「明日の対戦相手?」」」
3人は異口同音に言葉を発し、全員で顔を見合わせる。
「リーグ戦表を見て貰えればわかると思うけど、明日の相手は俺たちが一昨日戦った生徒会メンバーのチームに勝利した相手なんだ。どういう相手なんだろうって気になっててさ」
「明日のチームって……」
来栖はそう言って電子端末を開き、リーグ戦表を覗いた。
「ああ、莉央ちゃんのチームか」
「知ってるのか?」
「莉央ちゃんとは友達だからね」
これは良い情報を聞いた。受動的な交友関係しか構築していない俺は橘のことは何一つ知らない。来栖みたいな知っている奴がそばにいるのは助かる。
「橘はどんな能力を持っているんだ?」
「あ〜、ごめん。普段の学校生活で何気ない会話をするだけだから能力とかは知らないんだ」
前のめりに聞いてみたが、期待していた情報は得られなかった。
「も〜、ちゃんと聞いておきなさいよ」
俺の代わりに美里がため息を吐きながら腕組みをする。
「実技の授業中とかなら聞いてたかもしれないけどな。休みの時間に『能力について』の話なんてしないよ。莉央ちゃんはファッションが好きだから、その話でずっともち切りだもん」
橘の能力については知ることができなかったが、橘は宵越みたいに戦闘狂ってわけではないのか。そうなれば、ただ単に能力が強いと見た方がいいだろう。
「橘さんならクラスカーストで戦ったことがある」
俺たちの会話に晶が割り込んできた。
「マジか」
まさかこの中に実際に戦ったことがある相手がいるとは思わなかった。これはいい情報が聞けそうだ。
「どんな能力だったんだ?」
「うーん」
晶は考える素振りを見せる。パッと言えないような能力みたいだ。
「正直分からない。ただ、気づいたら負けていた。そんな能力」
考えた末に出た言葉は非常に曖昧なものだった。
「何よそれ。自分から言い出したんだからもっと明確な情報を用意しておきなさいよ」
「何の情報も持ってない美里に言われたくない」
美里の発言は晶の怒りに触れたようで、晶は彼女の頬をつねりながら文句を言う。
「痛い、痛い! 私が悪かったから許して!」
美里は手のひらを返すように謝罪した。俺も美里と同じ気持ちを抱いてしまっていたが、晶の行動を見て胸の内にしまっておくことにした。
それにしても……気づいたら負けていたなんて。一体どんな能力なのだろうか。
「遥斗くーん」
橘の能力について考えていると、遠くの方で俺の名前を呼ぶ見知った声が聞こえてきた。声のした方に顔を向けると、やはり暦の姿があった。暦はいつもの陽気な表情でこちらに走ってくる。
「今、試合が終わったところか?」
「うん。もちろん、勝利でね。今日で三勝だからトーナメント戦には進出決定かな」
「おめでとう」
「ありがとう。遥斗くんのところはどうなの? 彩月が『負けたっ!』って悔しがっていたけど」
「今日で2勝。明日の試合に勝てば決勝進出は確定するだろうな」
「なら、頑張ってもらわないとね」
「ああ、そういえば……」
橘はAグループのメンバーだ。
Aグループのメンバーは俺、暦、我妻、橘、結闇の5人。このうち結闇は上位リーグ3位同士の戦いに勝利してAグループ入りを果たし、他の四人は上位リーグの上位2位に入ったことでAグループ入りを果たした。片方の上位リーグは俺と我妻、もう一方の上位リーグは暦と橘になっている。
つまり、暦は橘と戦っている事になる。
「暦って橘の能力について知っているか?」
急に聞いたからか、暦の目が丸くなる。もう少し詳しく説明する必要がありそうだ。
「実は宵越から橘のチームに負けたことを聞いたんだ。明日の試合は橘チームとの対戦だから、今のうちに彼女の能力について知っておきたいと思って」
「ああ、なるほど……昨日、彩月ちゃんが来るのが遅かったのはそのせいか。莉央ちゃんの能力は初見で躱すのは難しいからね。学年チーム戦なら武器を持っているだろうから負けるのは必然的かも。私も多分負けると思う」
暦はかなりおっかない事を言う。そんな話を聞かされたら、能力について聞かないわけにはいかない。
「橘の能力について教えてくれないか?」
訴えかけるように暦の両肩に手を乗せた。至近距離になったためか、暦から漂う甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「えっと……まあ、情報戦は禁止されていないから良いとは思うけど……」
暦は慌てた様子を見せる。その表情は仄かに熱を持っているように感じられた。情報が得られることに歓喜し、暦から遠ざかってガッツポーズをとる。
俺の喜びに反して、暦は少し寂しそうな様子を見せていた。ただすぐに、ゴホンと咳払いをして気持ちを整えた。
「莉央ちゃんの能力は『時を止める能力』だよ」
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