第64話:グループリーグ初戦4【学年チーム戦】
「てめぇの考えはお見通しだよ」
その声とともに暗かった地下に煌びやかな明かりが灯る。
顔を上に向けると見えるのは炎の海だった。天井に広がる炎によって肌がヒリヒリしたような感覚に陥る。技を喰らったわけではないのに、すでに火傷しそうだ。
「喰らいやがれ!」
宵越は間髪入れることなく、上に向けていた手を振り下ろす。それに準じるように、俺の頭上に浮かぶ炎の海が渦巻き、レーザー光線が放たれる。
俺の体を炎が包み込む。
「はっはっはっは! ようやく大関門を突破できたぜ! この勝負は私たちの勝ちだな」
宵越は難敵を撃破できたことに大きな喜びを感じていた。いつにも増して高いテンションで叫ぶ。俺を倒したことでこの試合の勝利を確信した様子だ。
喜びを隠しきれない様子の宵越の声を聞いて、俺は思わず頬を緩めた。
作戦は悪くなかった。俺との戦闘経験を生かし、前もって行動を予測したのも流石だ。
攻撃の仕方も悪くない。地下の天井を炎で包み込んだのは、【瞬間移動】の移動ポイントを決めるのを妨害するためだろう。不意をつく攻撃を避けるためには移動ポイントを一瞬のうちに決めなければならない。その一瞬を潰し、攻撃を当てようとしたのだ。
さらに、自分以外にもう一人をこの場に配置することで、【能力無効】の技を迂闊に使えないようにしている。宵越との肉弾戦であれば、負けることはないだろう。しかし、もう一人が加われば勝敗は分からない。人に化ける能力を有している彼女は、午後のカリキュラムでは身体トレーニングを行っているだろうからな。
俺の発動できる能力の有力候補を2つ潰されたのは痛い。まさに、俺を知っているからこそできる戦い方だ。
だが……
「宵越。お前、本当に俺の考えを見通せているのか?」
その瞬間、宵越が俺に向けて放った炎の光線が上へと跳ね返されていく。
「何っ!?」
攻撃を喰らったと思っていた宵越は、余裕綽々と喋り始めた俺に対して呆気に取られたような声を漏らす。
「【火炎遊戯】」
俺は【脳内模倣】によって発動した能力の名前をボソッと呟く。俺の言葉を聞き、宵越は状況を理解できたみたいだ。炎のレーザー光線が押し返されたことで見えた彼女の表情は驚きながらも笑っていた。
「てめえ、私の使っていた技を……」
宵越が思ったことは正解だろう。
炎のレーザ光線が俺に向けて注がれた時、俺の体を包み込んだ炎は俺が発生させた炎だった。地上で1対1になった際、俺から逃げるために宵越が使った薄い炎の膜を模倣して防いだのだ。
「【脳内模倣】」
まずは面倒な能力をもっている奴から潰していく。俺は今見ている宵越とは別の宵越に視線を変え、彼女に対して掌を向けた。
「真衣っ! 逃げろ!」
宵越が偽りの宵越に向けて叫ぶ。俺の動作を見て、何を企んでいるのか察したのだろう。
もう遅い。俺は視界に捉えた人物の周辺に向けて【空間爆撃】の能力を発動する。彼女は逃げようとした瞬間、体を大きく吹き飛ばされた。
宵越の体が消え、代わりに集合の際に目にした少女の姿が現れる。
そういえば、彼女の名前が真衣と言うのを今知ったな。そんな今はどうでもいい考えを抱いていると、今度は彼女の身体が消え、代わりにスクリーンが映し出される。画面には俺の名前と『4』の文字、それから宵越の名前と『1』の文字が記されている。
これで残るは宵越だけとなった。
俺を押し付けていた力が消え去る。作戦が不発に終わったことで、彼女は攻撃を解いたようだ。俺もまた自分の身体に纏っていた薄い炎の膜を消し去る。
「あとはお前だけだ。キーマンは消えた。もう小細工は通用しないぞ」
「ふっ。ホント、てめぇには苦しめられてばかりだ。ここまで来たら仕方ねえ。私の全身全霊をもっててめぇと戦うよ」
宵越はそう言って身体に炎を纏う。
「とはいえ、ここじゃあ本気は出せねえ。決戦は外で行うとしようぜ」
すると、彼女は地上にいた時と同様に体を旋回させることで俺から距離を取っていく。確かに本気で戦うにはこの場所は狭すぎるかもしれない。
俺は宵越の誘いに乗るように、彼女の去っていく方向に走っていく。できる限り距離が開かないように適時【瞬間移動】を使う。
「晶、聞こえるか」
宵越の動きを見ながら俺は仲間に通信を飛ばす。
「聞こえる」
「残りは宵越一人になった」
「流石は遥斗。私たちの出番はなかった」
「一人はお前が倒しただろ。それよりも、宵越は今から地上に移動する。4番出口から地上に行くから移動を頼む」
「了解」
「通信はそのままで行く。俺が二つ目の能力名を言ったら作戦を実行する」
「分かった。用意を進める」
話はそこまでにして、俺は宵越を見失わないように走っていく。
予想どおり、宵越は4番出口の階段を上がっていく。
宵越は俺との1対1をご所望だろう。だが、これはあくまでチーム戦だ。その証拠に、あいつは俺を倒すためにチームで協力して襲ってきた。
なら、俺もその手を使わないわけにはいかない。
俺もまた階段に差し掛かる。その時には、宵越は階段を抜けて地上へと上がっていった。
今が頃合いだろう。俺は晶の用意が完了したことを信じて【脳内模倣】を発動する。
「【能力無効<インベリダム・ファクルタス>】」
唱えた瞬間、宵越の纏った炎の膜が剥がれていった。それを戦いの合図と捉えたのか、宵越はこちらに身体を向けてきた。
「【能力有効<ヴァリッド・ファクルタス>】」
再び能力名を唱える。これによって消え去った能力を再び使えるようになった。そして、二つ目の能力名を言ったことで作戦が始まる。
こちらを向いていた宵越だが、何かを察したのか身体を再び半回転させる。
その瞬間、彼女の身体に魔法陣のようなものが浮かび上がった。同時に、宵越は後ろに吹き飛ばされ、階段から身を乗り出した。
「【脳内模倣】」
宵越に魔法陣がともった瞬間に、俺は【瞬間移動】を使って彼女との距離を一気に近づけた。そして、手を後ろに向けて掌を広げた。
「【脳内模倣】」
広げた手を彼女の背中に向けて放つ。俺の手に打たれた宵越に二つ目の魔法陣が灯る。攻撃よって宵越は背中を退け反らせ、胸を張った。
宵越の前に不意に現れる来栖。彼女もまた階段から身を乗り出したようだ。不敵な笑みを浮かべ、宵越の張った胸に向けて掌をかざす。
「【三ノ断罪】」
来栖の声とともに三つ目の魔法陣が浮かび上がる。同時に宵越の身体に稲妻が走る。
俺と来栖は上手く階段に着地した。宵越はしばらくその場で止まってから地面に落ちた。受け身を取ることができず、俺の方に身体を放ってきた。
今は対戦相手とはいえ、一緒に授業を受けてきた仲間だ。だからか、俺はこちら側に身を放り出した宵越の身体を受け止めた。
身体を受け止めた瞬間に宵越の体はこの場所から消えていく。最後に見た宵越の表情は「はめやがったな」と悔しがる様子だった。「お互い様だ」と先ほどまで宵越を包み込んでいた腕にボソリと呟く。
視界にはスクリーンが映し出された。先ほどまでのように『互いチームのリーダー名』と『残り人数』というわけではなく、俺の名前と『Win』という文字だった。
学年チーム初戦。俺たちは誰も脱落することなく、勝利を手にすることができた。
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