第20話:興味

「おい、おい、おい、どんだけ強いんだよ?!」


 昨日一昨日で顔見知りになった当番兵が驚いている。


「言っていたじゃありませんか、辺境で育った腕の良い猟師だって」


「腕が良いにも程がある、1人でこれだけのダチョウを狩れる奴はめったにいない」


「ほめてくださってありがとうございます、ですが僕1人では無理でした。

 逃がすことなく追い込んでくれる1流の猟師がいたからこそ、これだけの獲物が狩れたんです」


「ま、またそんな事を言う、ほめたって好きになったりしないわよ!」

「そ、そうよ、そんな事を言っても口説かれないんだからね!」


「……確かにその通りだな、もう行って良いぞ。

 恋人もいない俺には目の毒だ、もうここでいちゃつかないでくれ」


「「いちゃついていません!」」


 荷役が47人もいたが、当番兵に止められる事無く王都に入れた。

 さすがに19頭ものダチョウを運んでいるので、ジロジロ見られた。

 特に1人で4頭も運んでいる僕は注目されてしまった。


 ★★★★★★


「今日も極上の獲物ですね、最高品質で買わせていただきます。

 傷だらけの強い魔獣よりも、品質の良い弱い魔獣の方が高く売れます。

 これからも良い商品になる魔獣をお願いします」


 商業ギルドの買い取り専門の受付が手放しでほめてくれる。


「分かっています、襲われない限り、最高品質で狩れる魔獣だけ狙います」


「そうしてくださると助かります。

 冒険者ギルドから送られてくる獲物は傷だらけで、商品価値が低い物ばかりです。

 街の人たちも売りに来てくれますが、自分たちの安全が最優先なので、冒険者ギルドの獲物よりはましですが、傷が多いのです」


「数はその日の運で変わりますが、品質は最高を保てると思います」


 運しだいとは言ったけど、僕には神運があるから大丈夫だと思う。


「助かります、明日も楽しみにしています。

 今日の査定ですが、19頭合わせて2万2815アルになります。

 薬草の方も貴重な物が多かったので全部で6107アルになります

 それでよろしければ買い取らせていただきますが、どうされますか?」


「それで買い取ってください」


「分かりました、ショウ様と取引相手の方、荷役の人たちで分けられるように支払わせていただきます」


 買い取り専門の受付がこちらの事情を考えて支払ってくれる。

 47人の荷役に日当を50アルずつ、2350アル払わないといけない。

 10アル中銅貨が235枚も必要なのだ。


 それに加えて、朝にライ麦堅パンを渡していない人たちに、1つ20アルする3人前分の大きなライ麦堅パンを買って渡さないといけない。


 27個で540アルなのだが、おつりが必要ないように支払うのがマナーだ。

 だから1000アル小銀貨では支払えない。

 大銅貨5枚と中銅貨4枚を用意しておかないといけない。


 それと、商業ギルドに支払う手数料は約束通りなら200アルで良いのだが、47人分の470アル支払った。


 僕が手数料を支払えば、約束していなかった27人の実績になる。

 実績が重なると信用が高まり、他の会員に雇われる可能性が出てくる。

 たった270アルで貧民の信用が買えるなら安いものだ。


 商業ギルドからもらった2万5562アルをエマとリナで分ける。

 僕が半分もらって、残る半分をエマとリナが公平に分ける。

 他のパーティーメンバーが加わったら変えるが、それまではこれでいく。


 昨日までの貯金と合わせて336万8680アルになる。

 無駄遣いはしない性格なので、ホテル代の800アル使っただけだ。 

 朝夕の食事が量も有り味も良いので、昼食を食べずにすんでいる。


「すまないが、大城壁の外側にある貧民街を案内してくれないか?」


 荷役の代表に聞いてみた。


「俺たちの住みかを見てどうする気ですか?」


 荷役の代表が警戒している。


「もともと大城壁の外側は畑や放牧場だと聞いています。

 区画ごとに防壁を築き、魔獣や獣を防いでいたとも聞いています。

 将来は大城壁の周囲全体を開拓した区画で囲み、新しい大城壁を築く予定だったと聞いていたのですが、今はどうなっているのか知りたいのです」


「ああ、そういう事ですか、ショウさんは王都から離れた辺境育ちでしたね。

 今の王家、ホウィック王家が建国した当初は王城しかありませんでした。

 建国王が城の周囲に人を集めて都を築く事にされました。

 建国王に従った勇猛果敢な騎士たちが魔境に分け入り、高価な魔獣を狩って素材と肉を確保されたので、多くの人が暮らして行けるようになりました」


「建国王と騎士団は優秀だったのですね」


「……はい、そう言い伝えられています。

 わずか200年ほどでずいぶんと変わってしまったものです……

 おっと、今の言葉は聞かなかった事にしてください」


「分かっています、それで?」


「王城の周囲に騎士の屋敷を集めた街区が築かれ、その周りに商人や職人が住む街区が築かれました、それが今王城周辺にある貴族街と富裕街です」


「僕は貴族街や富裕街に行った事がありませんが、最初にできた商人街や職人街は無くなってしまったのですか?」


「いいえ、今も貴族や豊かな者向けの商人街や職人街として残っています。

 その後に王都の繁栄に憧れて集まった者たちが住みだしたのが、冒険者ギルドや商人ギルドのある平民街です。

 今の平民街ができた頃の王国はまだ真っ当に王都を治めていて、勝手に民が住む事を許さず、人々を平民向けの新たな商人街や職人街に振り分けました。

 将来人が増える事も考えて、余裕をもって街区を造り大城壁を築かれた……」


「今の王国は、都の統治ができていないと言う事ですか?」


「しっ、大きな声で言わない方がいい、無能で身勝手な奴ほど正しい事を言われると逆恨みします」


「統治ができていないので、新しく集まってきた民を守るための防壁を築いていない、そういうことですか?」


「ええ、そうです、王都に憧れて田舎から出てきた者、田舎では生きて行けなくて王都に出てきた者、税が払えなくて王都を出るしかなかった者、色んな者が大城壁の外側に住んでいます。

 冒険者や商人になって大城壁の中に暮らせるようになった者もいますが、大半は大城壁の外側で暮らしています」


「今の王都行政官は真っ当な方だと聞きました、貧民街に支援はないのですか?」


「真っ当な方でも金がなければ何もできないですよ」


「お金があれば、王都行政官の権限でできる事もあるのでしょうか?」


「ショウさん、そんな事を俺に聞いても答えようがないです。

 王都行政官様が本当に信じられる人間なのか、本人に会わないと分かりません」


「そうでした、バカな事を聞いてしまいました。

 ですが、僕が貧民街に行きたいのは単なる興味ではりません。

 大城壁の外側に自分の街を築きたいのです。

 どうすれば自分の街を築けるのか、今住んでいる方々の様子が見たいのです」


 愚かな王家や残虐非道な貴族が住んでいるのが王都だ。

 そんな王都の貧民街に、コンスタンティナさんのようなハーフエルフやクオーターエルフの村は作れない。


 だけど、恵まれない人たちのための子ども食堂くらいは作れるはずだ!

 どこまでやれるかは分からないが、まずは情報を集めないといけない。

 異神眼で過去を見るにしても、情報がないと何を見れば良いのか分からない。

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