第7話 作戦会議


「初めまして! 志野しの 美月みつきって言います!」


 元気な挨拶と共に、永奈と一緒に俺達の元へやってきた女の子。

 どうやらこの子が永奈のお友達って事で良さそうだ。

 各々自己紹介してから、皆で弁当を広げたまでは良かったのだが。


「バイト、いくつか見積もっておいたけど……どぉ~すっか。つか、いつまでにいくら稼げば良いんだ?」


「それ、昨日親父にも言われたわ。そういうの全部決めてから話せって」


「すみません先輩達……私の方はまだ了承が完全には取れていなくて、交渉中です。けど、絶対取ります。絶対行きます。超楽しそうじゃないですか」


「皆ごめんなさい、私の我儘に付き合わせる感じになっちゃって……」


 見事に、昨日親父に言われた問題に直面していた。

 とりあえずそれぞれの事情を確認してみた所。

 まず律也、ここはとにかく問題無かったらしい。

 彼の両親が放任主義……という訳ではなく、やりたい事があるならまずやってみろってタイプだった様だ。

 自分で稼いで、それが達成できる様努力して、問題を起こさず帰って来るなら行って良し、と許可を捥ぎ取ったとの事。

 なんか、凄い。

 遊びに行った時に何度か会った事はあるが、親父さん恰好良いな。

 次に美月ちゃん。

 コチラは最も普通に問題と見なされたらしく、永奈の事も説明して色々と説得しているらしい。

 親御さんとしては「せっかく修学旅行なのに勿体ない」という意味合いが強いらしく、友達と一緒に旅行するというのは特に反対していないそうな。

 しかし行事をサボるというのは、やはり難色を示しているんだとか。

 あと男が居ると聞いたら、お父さんが物凄く渋い顔をしているそうだ。

 当然だよね、マジでごめんね。

 そして最後に、永奈の御両親はと言えば。


「保護者として形だけ同伴するから、現地に着いたら皆で楽しんで来いって言ってます」


 ノリノリだったというのは、本当だったらしい。

 ちなみに学校側にも早い段階で欠席を伝えた方が、返金される額が多いとか何とかで。

 永奈の御両親は早くも今日から動き始めているとの事。

 返金額とお小遣い、そして溜めていたお年玉やらを使えばバイトまでして稼ぐ必要は無いと言われたそうだ。

 多分彼女を無理にバイトさせる事の方が心配だったのだろう。

 というか、すげぇ。

 お年玉を親に預けて、ちゃんと貯金してくれる親って実在するんだ……。


「そう言うのは親戚同士渡し合うから、お前も貰えるんだぞ? だから半分俺に寄越せ」


 という清々しいお言葉を、ウチの親父は残してくれたが。

 勝手に使われるよりマシだから、別に良いんだけどさ。


「まずバイトしなきゃってのは確かなんだけど、目的の額を調べないとなぁ……旅行サイトとか探せば料金表とか出て来るんかね? 律也、こういうの分かる?」


「わっかんね。けどそういうのって、移動とか宿泊費だけなんじゃねぇの? 現地で使う分の金も考えないとだし……調べる事多いなぁ。ていうか、美月ちゃんの御両親説得の為にも“旅のしおり”みたいなの作った方が良いのか? 一応修学旅行ですよー! って納得させる為にも」


 友人と二人で唸りながらも、とりあえずスマホでそれっぽいサイトを端から漁っていると。


「あ、あの! 先輩!」


 何やら慌てた声を上げる永奈が、此方に自分のスマホを向けて来た。

 覗き込むと、そこには“ツアー旅行”の文字が。


「これに申し込んだ場合、料金表に書いてある金額で全部済むみたいです。現地で個人的な買い物をしない限りは、ですけど。あとはガイドさんも付いて、色んな所に連れて行ってくれるみたいです」


 え、何か凄く修学旅行っぽい。

 スマホを受け取り、サイトを見せて貰えば。

 なるほど。知らない人達と一緒にはなるけど、まとめて行動してもらうから安く行けるよって事なのか。

 何時から何時はココ、この間は自由時間。

 この時間までにバスに戻ってくる様に、みたいな旅行プランらしい。


「いいんじゃないか? コレ。金額もハッキリ分かるし、何より心配事の方が少ない。自由時間少ない代わりに、ガイドさんの指示に従えば間違いなく安全に旅行できるって事だろ?」


 だとすれば、高校生の俺達には願ったり叶ったりだ。

 しかも申し込みも早ければ割引とかもあるみたいだし、バイトすれば払えない金額じゃない。


「なんか、一気に現実味を帯びて来たな」


「ですね。私の我儘に付き合って貰っておいてなんですけど……ちょっとワクワクしてきちゃいました」


「俊介、一回見積もり取ってみようぜ。結構キツめのバイト入んなきゃかなって思ってたけど、これくらいなら結構普通に稼げるかも」


「わ、私も絶対行きます! 絶対説得しますから!」


 そこからは皆一気にテンションが上がり、旅の予定を組み立てていくのであった。

 皆自分達だけで旅行プランなど立てた事が無かったので、恐らく大人達から見れば粗だらけの予定表にはなっているのだろうが。

 それでも、永奈があっちに行ってみたいこっちに行ってみたいと自分から話す程なのだ。

 旅行どころか、外出をほとんどしたがらない昔の姿が嘘の様に。

 だったらコレだって、少しくらいは意味があったと言う事なのだろう。

 というのも、俺の我儘を通す言い訳なのかもしれないが。

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