第38話 奮闘
様々な問題に取り組む。
超低消費電力。
自転車に表示器をつけて電池駆動で動かすから消費電力削減は必須だ。
消費電力を落とすカギはマイコンの動作クロックを遅くすること、あるいは使わない時間は停止することだ。
低速クロックはプログラミングが成り立たないほど遅い。これを使うためにはコード構造そのものから変える必要がある。これは大変なので、いつもはマイコンを眠らせて、必要な時だけ起こして使うという形になる。
簡単そうに聞こえるが、マイコン動作の奥の奥に関わるので、知識が無い者が扱うのは時限爆弾でお手玉をするほど危ない行いである。
次に求められたのはアップデート機能。
スマホと連携してメーカーサイトから受けたアップデートコードで自分自身を書き替える機能である。
実はメーカーからはアップデートプログラムの実例が提供されているのだが、それは容量がギガ単位ある大型マイコン用だけである。
小型マイコン用は作業者が自分で開発する必要がある。
プログラムが入っているROMを書き替えるときはそのROM自体はアクセスできない。
ではどうやって書き替えプログラムを動作させるのか?
答えは簡単。書き替えプログラムを一端RAMに転写してすべての実行をこのRAM内で行うのだ。
これも口で言うと簡単だが、実行は極めて困難だ。
RAM動作中はICEは使用できない。停止もできない。内部動作を見る手段が極めて制限される。
さらには転写プログラム領域の固定のために支援ツールIDEの中の普段は隠されている設定を大幅に書き替える必要がある。ところが滅多に使わない機能なので、このためのマニュアルは存在しない。現在ある機能の奥深くを解析し、試行錯誤の末に正解を見つけるのだ。
どのような局面にも、謎解きパズルが潜んでいる。まるでどこかのゲームのようだ。
ゲームと違う点は、ゲームはそれが解決できるように作ってあるが、現実はそうではないということだ。
これらは皆まるで暗闇の中で手探りで分解された銃を組み立てるような作業だと言える。
マイコンに関して上から下まですべて知っているのはずいぶんと役に立った。
一つ一つのコードを舐めるように確かめ、モデルを作って実験して最後に組み込む。
集中力と綿密さを要求されるのがこれだ。
誰にも理解されない奇跡をその手の中で生み出し続ける。
アップデート中に画面に出す絵を決め、お偉いさんに了承を取る。
「いいですか。これは一度決めたら永久に変えることはできない類のものです。よく吟味してください」
しばらくして上からOKが出たのでそれを組み込む。
何か月かしてお偉いさんから命令が出た。
「絵を変えてくれ」
どこの世界にもK主任に近い人は居る。
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