第22話 とりあえず捕獲したし帰ろうか

 魔法の国マジルテ、国中が陽の気に溢れており、年中お祭り騒ぎの国。

 今はその影もなく、ネガティブルの支配下に落ちた影響で陰の気に包まれている。


 かつての国王の城、その一室に四天王が集まっていた。


「ウルハントが魔法少女たちに捕まったみたいだ」

 淡々と状況を報告するキコヒモリ。

「アッハハハハ! 情けなぁい!」

 ウルハントの失態に大笑いするマジョリィ。

「修業が足りんな」

 呆れ気味のキジン。


「なんならやられちゃってこのまま帰ってこないかもねぇ」

「それはないだろう。あの姫だ、大したことはできぬよ」


「その通りだね、それにあいつも好都合だと思ってるんじゃないかな」


 キコヒモリの言葉に二人は疑問を浮かべる。

「ひとつ、種明かしをしようか」


 *


「先代魔法少女、殿……?」

 そう言葉を発したのはウルハント。

 魔法少女の力を使い果たし、久方ぶりに後遺症で動けなくなった希を撤退先の幸太郎宅へ迎えに来た彼の母に向けての発言だった。


 先代って、何?


「あんた誰だい? 見たことないねぇ」

 鳥かご状の牢屋魔法に小さな姿で捕らえられているウルハントが失礼と、片膝をつきのぞむの母を真っ直ぐ見つめる。


「俺様……私はマジルテ王国騎士団団長、ウルだ……と申します。ネガティブルの事を探るため、一員として潜入している、おります」

 頑張って言葉遣いを正すウルハントに希とテッチは笑いをこらえる。


「そんな丁寧な言い回ししなくていいよ、面倒くさいねぇ」

「助かる、悪者っぽく話すように心がけてたら定着してしまったようで……話しやすい方で失礼する」


 希が恐る恐る問いかける。

「母さん、先代って何?」

「なにって、言葉の通りさ、隠してたけどあたしゃ前回の封印決戦で魔法少女をしていたんだよ」

 ベルに借りていた肩から力なくするりと崩れ落ちる希。


 想像してしまった。母さんが現在の見た目で、自分たちと似たような格好で敵と戦っていた姿を。つい最近の話でもないはずなのに、脳裏に焼き付いて離れない、辛い。


「ウン十年も前の話だけどねぇ」

 少しだけ想像の姿が若返った気がする。


「味方だと言うならば、まずは私たちに現状を教えてもらおうか」


 *


 マジョリィが力強く両手でテーブルに手を突き身を乗り出す。

「あいつが王直属の騎士団長!?」


 キコヒモリがやかましそうに片耳を塞ぎ肯定する。

「おそらくボク達が何をしようとしているのか探りに来たんだろうね。まぁ、一緒に国を襲撃しに行くとは思わなかったけどね」

「お主、なぜ黙っていた?」

 キジンが疑いの目を向ける。


「なぜって、お前らこの事を知ったらすぐに排除しようとするだろうなと思ったからさ。まずは相手が何を探っているかを見極めることが大事だ」

 キジンは自らの行動を思い描き、それもそうだとおとなしく引き下がる。


「じゃあ今言ったって事はあいつを裏切り者として消すんでしょ? 気に入らなかったからやっとって感じ~」

「しないさ、今のはただの情報共有だ」

「はぁ?」

「排除しないのであれば、今後も奴らに我らの情報が渡ってしまうのではないか?」


「その点は問題はないさ、だって……」



「わからない?」

 ベルが真剣な眼差しでウルハントに問う。


「そうだ、陽の気を集める目的が国王が施した封印を解くため以外は全く」

「役に立たないッチね」

 悪態をつくテッチをウルハントが睨みつける。

 ぷいとテッチはそっぽを向く。


「全員ではないにしても民が無事と言うのは本当なのだろうな?」

 ウルハントが関わった場所の国民は、現在国から遠く離れた隠れ里へ避難している、らしい。いまいち信用しきれないが、ベルからはほんのり安堵の表情がこぼれていた。


「しかし、国中が陰の気に包まれている。今はわずかな陽の気に縋りついている状況で、養分が足りずに食べ物が尽きてしまう可能性もある。再封印の準備が整い次第すぐにでも向かわねば手遅れになるやもしれん」


 かげの王の封印に綻びが出来始めた頃に、王族には封印の巫女が誕生する。

 巫女の証として、左手の甲に五枚の花びらの紋様が刻まれ、二十年目の誕生日を迎える時、すべてが点灯し、蓄えられた力で再封印を施す。


 以前ベルが話した際には三枚が点灯していたが、今は四枚に増えている。順調に力が溜まっている証拠である。


「再封印するにもまずはマジルテの奪還が必要になる。そこで、先代にも協力を願いたい。未熟な二人だけでは心事ないが、前回の封印決戦を戦い抜いた先代がいれば――」


「無理だよ」

 ポケットからボロボロになった変身パカットを取り出し見せつける。


「だいぶ前にこいつは壊れて使えない、こっちの世界に染まりすぎて魔法なんて碌に使えたもんじゃない……


 もう、戦う力なんて残ってないよ」


 *


 場所は再び戻り、マジルテ国王の元城。

「ふーん、隠蔽魔法ねぇ……。最初からアイツのことを疑ってたって事?」


「いや、国王と通信をしているところを見かけたから」

「アホじゃん」

「あいつはたまに抜けてるところがあるからね、運がよかったさ」


「して、ウルをこれからどうするつもりなのだ?」

 キジンが当然の疑問を投げかける。


「好きにさせておくさ。どうせ情報を伝えたって魔法少女には何もできないからね」

 いい事を聞いたと言わんばかりに、マジョリィが悪い顔をして提案する。

「それならぁ、嘘の情報でもあげちゃう?」


 *


 先代魔法少女には戦う力が残っておらず、ウルハントは落胆する。

 そして、何かを決意する。


「どうやら戦える魔法少女が貴様等二人しかいない、となればとにかく力をつけてもらうしかあるまい。今後も俺様は貴様等の敵として立ちふさがる、手加減をしてやるつもりはないから覚悟しておけ」


 望むところだと、強気な希と少しだけ不安気な表情の幸太郎こうたろう

「……僕たちが、ウルさんに負けたらどうなるんです?」


「所詮それまで、いずれ世界は陰の王の支配下に落ちるだろうな」


 改めて自分たちに課せられた役割の大きさに幸太郎は委縮する。

 それを見て希が一言。


「勝ちゃあいいんだよ、今まで通り。負けた時の事なんて考えるなよ」


 ひろしが半笑いで返す。

「ノゾムは単純でいいね」

「なんだよ」

「なんも?」


「コウタロウ、何事もノゾムぐらい単純でいいんだ。君たちはちゃんと強い。必ず勝てるさ」

 ベルの励ましに幸太郎の表情が少し明るくなった。


「そう言う事だ、俺様は一度ネガティブルの元へ帰る。


 ……だから、ここから出してくれ」


 鳥かご状の牢屋魔法の中からウルハントは膝をつき懇願する・・・・・

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