第14話 でっっっか

 前回の戦いから数日後の放課後。

 部活帰りだった俺、剛田希ごうだのぞむは謎の老人に呼び止められていた。

 魔法少女の件で話があるとの事だったから、関係者のひろしも加え、ベル、隠れているテッチとともにやたらとでかいお屋敷の前へ来ていた。


「二人目の魔法少女を見つけたって言うからついて来てみたら、まさか"真塚"とはね」

「有名なのか?」

「有名も何も、市長の名前だよ? 真塚って。んで、双子の姉弟は俺達と同じ学校の先輩だし、姉は生徒会長、弟は副会長だよ」

「マジか」


「どうぞこちらです。幸太郎様がお待ちです」

「ところで市長だからって執事がいたり家がでかいのは安直すぎないか?」

「なんの話?」

 執事に部屋を案内され、入室する。


「いらっしゃい。待ってましたよ、剛田希君、そして皆さん」

 そこには昨日魔法少女へ変身した男がベッドで安静にしていた。


「まずはお礼と、自己紹介をさせてください」

 そう言ってベッドから立ち上がる。


「僕は真塚幸太郎まつかこうたろうと言います。皆さん昨日はありがとうございました、サモモを助けてくれて」

「私達は手伝いをしただけだ、その子が無事だったのは君の頑張りによるものだ」


 各々順番に名乗り、促されるままに近くの椅子へ腰を掛ける。

 どうぞと言わんばかりにテーブルに並んでいる茶菓子は明らかに高そうで、広が目を光らせ興奮していた。


 ベッドの側で寝転がっていた犬が目を覚まし、尻尾を振ってこちらに寄って来る。

 サモモと言う名前で、昨日のマジムリーにされていた奴らしい。


「よぅ、あんたも無事でよかったな」

「うん、助けてくれてありがたとうだぞ」


 おかしいな、正面の犬から人語が聞こえる。


「どうした? オイラ、なんか変か?」


「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」

 希と広が飛び上がる。


「そうなんです、目を覚ましてからというもの会話ができるようになりまして……」

「あー……魔法生物になっちゃったッチか」

「長い間強力な魔法に当てられていたんだ、無理もないな」

 ベルとテッチが苦笑いをする。


 恐る恐る幸太郎は二人に尋ねる。

「僕はサモモと話ができるようになって嬉しいのですが……その、大丈夫なんでしょうか? 体の異常とか……」


「見たところ悪い魔法は無くなっているから問題はないだろう。残留魔法が全て消費されれば話すことはできなくなってしまうだろうが」

「そうですか……」

 あからさまに落ち込んでいるのが見て取れる。


「そもそもこの状態が普通じゃないッチ。一時的な奇跡と思っていてほしいッチ」

 テッチがサモモに触れようと近寄る。

 が、恐ろしい剣幕で吠え散らかされる。

「お前寄るな! なんか嫌だ!」

「お? なんだお前、生意気だッチね。わからせてやるッチ!」

 両者睨み合いの後、サモモvsテッチの戦いが勃発した。と言ってもテッチが一方的に遊ばれているようにしか見えないが。


 ところで……


「目の前で変身したとはいえ、あんた……真塚先輩はなんで俺を特定できたんです?名乗ってもいねぇし……」

 ベッドに腰掛ける幸太郎がくすくすと笑う。


「同じ学校の制服を着ていましたし、皆名前で呼んでましたから。お姉ちゃんに頼んで生徒名簿から"ノゾム"と言う名前の生徒を探してもらいました。すぐに見つかってよかったです」


「なんでもクソもなかったね」

 広がにやつきながら希へ顔を向ける。

「やかましい」


「あ、それと、僕の事は幸太郎と呼んでください、タメ口でも大丈夫です。先輩って柄でもないですし」

 ならばと向こうにも敬語をやめるよう言うが、気楽だとかなんだとかよくわからない理由で断固として譲ろうとしなかった。


 それからはベルが幸太郎に話をする。

 自分たちの事、かげの王の封印の事、そしてネガティブルとの因縁、魔法少女として戦うことについて。


「正直君達のような異世界の一般市民には荷が重いとは思っている。だからこそ、君自身が選んでくれ。この先も私達とともに戦うか、その変身パカットを手放すかを」


 幸太郎に向けて差し出されたベルの手は、仲間として迎え入れるためか、はたまた彼が持つ変身パカットを受け取るためのものか。


 その目に迷いはなかった。

「皆さんに助けてもらったから、今度は僕が皆を助ける番です」

 ベルの手と、しっかりと握手を交わす。

「いくらでも力を貸しますよ。これからもよろしくお願いします」


「ありがとう、よろしく頼む」


 こうして、正式に幸太郎が魔法少女として仲間に加わった。





「それじゃあ魔法少女としての剛田君の呼び名案があるのですが!」


 ん? 流れ変わったな?


「魔法少女も二人になったし、やっぱ固有名は必須だよね」

 広が同意を示し、ベルも賛成だと言わんばかりに腕を組み何度も頷いている。

「俺は必要だと思わねぇんだが」


「甘いよ剛田君!」


「今回は魔法少女名がなく、ノゾムと皆が呼んでいたことで僕に特定されたんだよ! 今後敵側にこちらの世界の事をよく知る人物が現れたら名前だけで周りにバレる可能性だってあるんです! 敵が不意打ちを仕掛けてきたらどうするんですか!」


 もみくちゃに遊ばれているテッチが口をはさむ。

「待つッチ。本名は正体を知られていない者には聞き取れないようになっているんだッチ。そこは心配ないッチ」


 ――間。


「僕がそう言う呼び合いに憧れているから必要なんです!!!」


 開き直りやがった。


「幸太郎先輩、案を聞いてもいいかな?」

「いいとも!」


 話を進めるな。


「颯爽と助けに現れ敵の攻撃を一身に受けるあの姿、僕を鼓舞したあの激励、まるで歴戦の戦士……」


「そう! 名付けて! ムッキウォリアです!!」

 拍手が巻き起こる。


「すまない、水を差すようだが、"うぉりあ"とはどういう言葉なのだ?」

「こっちの世界の別言語で戦士や兵士の意味合いを持ってます。前線で戦う者を連想しやすい言葉かなと思います」

「ふむ、なるほど。似合っているな」


 ベルは静かに立ち上がり、声高らかに任命する。

「よし、ノゾム! 今日から君はムッキウォリアだ!」

「嫌 だ !」

 力強い拒否だった。


「嫌……? 残念だがもう決まったことだ、観念してくれ」

「毎度のことだが、どうして俺自身の事なのに一方的に押し付けられなきゃなんねぇんだよ」

「そうでもしないとお前絶対こんなこと考えないじゃん」


「与えられたところで名乗る気も呼ばれて反応する気もねぇが?」


 幸太郎とベルが寄り合い、こそこそ話に切り替える。

「剛田君、ちょっと強情っぱりですね」

「そうだな。だがおそらく近いうち勢いで名乗ると思うぞ、安心するといい」

「聞こえてんぞ」

 なんなら聞こえてるように言ってないか?

 大体近いうち勢いで名乗るってなんだよ、そんな失態――


「皆! ネガティブルの魔法を感知したッチ! 現れたッチ!」


 テッチの声が話を遮る。幸太郎を除く全員の目の色が変わる。


「ぼ、僕も行きます!」

 椅子から立ち上がるその体は少しふらついていた。


「無理すんな。どうせまだ変身の後遺症は万全じゃねぇんだろ?」

「ただの立ち眩みです。僕は皆を助けるために魔法少女として戦うことにしたんだ、こんなところで休んでいるわけにはいきません!」


「それに、四角町の地理はわかりますか? 敵の正確な位置は?」


「場所? ……は、えっと、あっちだッチ!」

 窓の外に広がる住宅街を指さす。

 どこだよ……


「その方角で人の集まりが多い場所……」

 少し考えハッとする。

「商店街だ! ついて来てください! 僕が最短ルートを案内します!」

 こうなってしまうともう頼るしかねぇ。


 一斉に部屋を飛び出し、屋外へ。


 俺、広、ベル、白いのテッチ、犬。おかしい、足りない。

 しばらくして息も絶え絶えの幸太郎が外に出てきた。


 貧弱……


 いや、万全ではないからと納得しておこう。ただ、これじゃあ俺達の前を走るのは無理では?


「仕方あるまい、私が背負っていこう。多少後ろに回ってしまっても案内はできるだろう」


 そう言って死にそうな顔をした幸太郎を背中に乗せ、走り出す。

「す、すみません……僕、体力なくて……でも、これほど、じゃなかった、はずなんですが……」


 たとえ万全であったとしてもたぶんついてこれなかったなこれ。


 本当に変身して戦えるのだろうか。そんな一抹の不安を抱えながらも、一行は商店街へ急ぎ、駆け出した・・・・・

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