第23話
「マジかよ……参ったな……」
登れそうにない窓の前で立ち尽くしながら、オレは思わず独り言を漏らす。
しかも、別の場所から入るにしたって、オレはともかく二人は素足だから連れ回せないぞ?
「せめて靴だけは履いてから追いかけるべきだったわね……」
「マサト、ミオ、こまった?」
「うん。どうやってあそこに戻ろうかなって……」
「んー……?」
オレが部屋の窓枠を指差しながら告げると、アルマが首を傾げたかと思った直後、彼女は何を思ったのかオレ達が今来た方向へと歩きだした。
「アルマ?」
「アルマちゃん?どこへ行くの?」
彼女の行動の意味が分からずにオレと樋口さんが問いかけた直後、アルマは館へと振り返ったかと思えば物凄い速度で走りだし、オレ達の目の前で高々と飛び上がると、窓枠へと静かに降り立ち、こちらへ向き直る。
「……嘘でしょ?」
スゲェものを見た……
見た目が可憐で、尚且つあんな動きづらそうな服装なのに……やっぱりアルマも獣人って事なのね。
「アルマちゃん!そこから私達を引っ張り上げられる!?」
呆然とするオレを他所に樋口さんがアルマへ問いかけると、アルマはこちらへ向けて手を伸ばす。
「掴んだわ!」
アルマの手を樋口さんが取ると、アルマは彼女を引き上げようとした……だがしかし、アルマの力ではどうやら樋口さんを引き上げる事は難しいらしい。
「アルマって結構力が強いはずだけど、やっぱり人を引き上げるのまでは無理か……」
あれだけの跳躍力があったからもしかしてと思ったけれど、アルマ自身の軽さから来る力だとしたら、やっぱり質量差まではどうにもならないのね。
「……ねぇ、マサトくん?それって私にケンカを売ってるって事に、気付いてる?」
「ち、ちがう!!」
あっぶね!
よくよく考えたら、樋口さんが重いって言ってるように聞こえるじゃねぇか!?
全部口に出さなくて良かったわ……
「冗談よ。それより、私達はどうしましょうか?」
冗談って割に、かなり睨んでいらっしゃるのですが……しかし、これはどうしたものか?
「そうだなぁ……うーん……じゃあ、肩車でもしてみる?」
「か、肩車……?イ、イヤよ!そんなのは絶対にイヤ!!」
えー?いい案だと思ったのになぁ……
「じゃあ、下から抱き抱えるからアルマに上から引っ張ってもらう?」
「イ!!ヤ!!」
「そんな嫌ってばかり言われても……なら、オレが踏み台にでもなればいい?」
「それもイヤよ!!とにかく、イヤなものはイヤなのよ!!」
「ワガママな……」
じゃあ、どうしろってのよ?
「……あ、貴方って、本当にデリカシーがないのね?」
「何か言った?」
呆れたような彼女が何かを呟いた為に聞き返すも、樋口さんは何事も無かったかのようにアルマへと声を掛ける。
「何も?……そうだわ。ねぇ、アルマちゃん。私の靴を持ってきてくれないかしら?」
「くつ?」
「そう、私の靴よ。わかる?」
「はい。」
どうやら今の会話で理解したらしく、アルマは頷いてから部屋の中へと入っていった。
「ちゃんと私の靴だって伝わったかしら?」
「アルマは匂いでわかるから、大丈夫だよ。」
人を識別出来る鼻があるのだから、樋口さんの靴を認識して持ってくるぐらいは容易いでしょ。
「……貴方、さっきから何度も何度も私にケンカを売ってるわよね?何?買えばいいの?」
「だから違うって!!」
何でそうなるのよ!?
今度は別に変な事を言ってないじゃん!
「はぁ……何だってこんな人を……」
「また何か言った?」
「何も言ってないわよ!!……アルマちゃんが戻ってきたわね……どう?あった?」
再び顔を見せたアルマに樋口さんが尋ねると、アルマはおずおずと持ってきた靴をこちらに見せる。
「そう!それよ!こっちに渡してくれる?」
「はい。」
背伸びをしながら自分の靴をアルマから受け取った樋口さんは、その場ですぐに靴を履き始めた。
「アルマに靴なんか持ってこさせて、どうするつもりなの?」
自分で聞いといてなんだが、コレは多分森の中を進むつもりだよな?
「別のところから建物に入る為よ。偶にだけど、建物の近くまで枝が伸びている木とかもあったりするの……とは言っても大体は鍵がかかっているから、此処からだと多分……シャワー室の辺りから中へ入る方が確実ね。」
「なるほど……いや?それならオレ一人で行って、樋口さんもアルマと一緒に中で待ってたらいいんじゃない?」
だとしても、わざわざ二人で行かなくてもいいような?
それこそ、肩車でもして樋口さんも部屋に戻った方が……
「……貴方は、シャワー室の場所は分かるの?」
口に出していないのに考えた事が伝わってしまったらしく、オレの言葉の後で彼女は少し不機嫌な様子で口を開く。
「大体なら……」
何故バレた!?
「だったら、暗いのだから道を知っている私が一緒にいかなくちゃダメじゃないの!シャワー室そのものを知ったのは今日だとしても、私の方が貴方より確実に詳細な位置が分かると言い切れるのよ!?」
「いや、確かにそうなんだけど……」
それについては、夜の森に入っていたらしい樋口さんの方が詳しいのは間違いないけど、そんなに大声出しちゃまずいよ?
「ほら、もう!此処にいると見つかっちゃうから早く行くわよ!……アルマちゃんは部屋で待っててね?」
「はい。」
首を傾げつつ窓枠からこちらを見下ろすアルマに見送られて、オレと樋口さんは建物の反対側にあるシャワー室を目指して、夜の森を進み始めた。
途中、暗闇の中を二人で連れ立って進みながら、近くを通り過ぎる兵士を隠れて何度かやり過ごした直後、不意に樋口さんが口を開く。
「行ったかしら?……ねぇ、マサトくん?」
「何?」
「こういうのって、子供の頃を思い出して、とってもドキドキしない?」
「……まぁ、うん。確かに。」
寧ろ、ゲームっぽいなとすら思うよ。
「でしょ?何だか親に隠れてワルイ事をしている時みたいで、私今ワクワクが止まらないのよ!」
……樋口さんって、案外子供っぽいとこあるよな。
だけど、この見つかってはいけない状況で楽しそうなのは如何なものか。
「意外だね。」
勿論、悪い意味でだがね。
「そう?それに、こうして誰かと一緒に行動するのも凄く久しぶりだから、余計に……かもしれないわね?」
「樋口さんって、もっと大人しい人かと思ってたよ。」
「そうなの?私、小さな頃からお祖父様の家の木に登ったりして、よく母やお祖母様からお転婆だと怒られていたのだけど……」
「へぇ?どっちかというと、物静かなお嬢様だと思ってた。」
樋口さんは、言葉の端々から育ちの良さが推測出来るし、やっぱりお嬢様だよ。
「やめてよ!物静かなんてガラじゃないわ!それに私、この間まで陸上部だったのよ?なのに大人しく見えていたの?」
「陸上?ホントに?知らなかった……」
なるほど、運動部だったのね。
なら身体を動かす事が得意だろうから、木登りぐらい出来ても何ら不思議じゃないか。
「まぁ、色々あって部活に顔を出しづらくなっていたから、転校してきたばかりのマサトくんが知らないのも仕方ないわね……それより、シャワー室が見えてきたわ。」
「よかった。無事に着けそうだね。」
「えぇ。中に誰か居ないかだけ気をつけて戻りましょう?」
「うん。」
会話をしている間にシャワー室らしき場所の裏にたどり着いたオレ達は、中の様子を慎重に伺いながら、入り口を開けた。
「誰も……いないわね。今のうちよ。」
「分かった。」
彼女の後ろを警戒しながら、オレと樋口さんはシャワー室にある扉から中へと侵入する。
「これでひと安心ね。じゃあ、アルマちゃんも待っている事ですし、早く戻りましょうか。」
中へ入って安堵感からか二人同時に大きく息を吐きだした後、樋口さんはまだ興奮が冷めやらぬといった表情のまま、オレに部屋へと戻る提案をしてきた。
「そうだね……いや、ごめん。ちょっと見たい場所があるから、先にそっち寄っていい?」
しかし、一度は同意をしたものの、すぐに考えを改めたオレは、自らの考えを彼女へ話す事にする。
「ええ、別に構わないわ……でも見たい場所って、何処の事?」
「オレ達が最初に目を覚ましたあの石室だよ。地下へ続く道を兵士がいつも塞いでいるから、どうしても気になってるんだよね。何か帰るためのヒントがあるかもしれないしさ?」
「……石室?」
すると、オレの言葉を聞いた途端、樋口さんは急に険しい表情で問い返してきたのだ。
「樋口さん?」
「あ、あそこには、何も無いわよ?」
何だ?急に焦り始めたような?
「いや、確かに何かあるようには見えなかったけど、だからって調べない訳にはいかないでしょ?」
こういう提案はむしろ、オレより樋口さんから出そうなものなのだが?
「何も無いって言ってるのにどうして調べる必要があるのよ!!」
「どうしたの樋口さん!?」
「あそこには何もないから、行く意味なんてないの!」
……あれ?何もない?
確かに最初は何も無かったけど、今も無いとどうして言い切れる?
それに、何でこんなにも必死になってるんだ?
これってもしかして……
「なんで何も無いって知ってるの?中を見たの?何かあった?」
「ダメよ!あんな場所、近づいてはダメなのよ!!」
「ちょっと落ち着いて!そんな大声出したら人が来ちゃうから!」
「ご、ごめんなさい……でも、あそこに近付いてはダメよ……やめた方がいいわ……」
「ねぇ、もしかして……樋口さんは、あの石室の中に入ったの……?」
オレが真っ直ぐに問いかけると、彼女は青ざめた顔で大きく身震いをした後、自らを抱きしめるようにしつつ頷いた。
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