第13話

☆☆☆


「私に言わないといけなことがあるんだよね?」



一応お茶なんて出してみたけれど、知明はソファに座ったまま落ち込み続けている。

これじゃ埒があかない。


彩はふぅと息を吐き出して自分の気持を落ち着けた。

1度目の6月12日も、2度目の6月12日も、自分がヒートアップしたせいで知明とはろくに会話もできなかった。


今回は3度目の正直だ。

感情的にならずにちゃんと向き合わないといけない。


そう思うと少し怖いけれど、これは避けては通れない試練だった。



「さっきの会話でわかってると思うけど、チカゲとふたりで会ってたよね?」



知明はコクンと頷く。



「誰もいない講義室で、なにしてたの?」



その質問に知明は明らかに動揺を見せた。

視線が泳いて何度も居住まいを正す。



「怒らないから、素直に言って?」



子供に接するように優しく言うと、ようやく知明は彩と視線を合わせた。



「き、今日は彩ちゃんの誕生日だから」



知明はそう言うとポケットからくしゃくしゃになった袋を取り出した。

それは可愛い包装紙でくるまれている。


差し出されたそれを彩は受け取った。



「見てもいい?」



知明がコクンと頷く。

開けてみると中に入っていたのはハートのストラップだ。


ハート部分はピンクオパールが使われている。

恋愛運上昇のパワーストーンだ。



「わぁ、可愛い」



思わず頬が緩む。



「これはちゃんと俺が選んだやつなんだ」



彩が喜んでくれたおかげでようやく知明は微笑んだ。

1度目のときも2度めのときもこれを出すタイミングがなかったんだろうか。


そう考えて知明がディナーの予約をしてくれていたことを思い出した。



「もしかして、今日のディナーのときにくれる予定にしてた?」


「うん。でも、いいんだ。渡せてよかった」



ホッとしたように微笑む。

簡易的な袋に入っていたし、きっとそれほど高価なものじゃない。


けれど知明はちゃんとした場面で渡そうと考えていたみたいだ。



「これを買うためにチカゲと2人で会ってたとか?」



ふと思いついたことをそのまま聞いてみたけれど、知明は左右に首を振った。



「いや、それは俺がひとりで選んだんだよ。彩ちゃんに似合うと思って」



それは嬉しかったけれど、それならどうしてチカゲとふたりきりで親密そうにしてたのかの謎が残る。



「実はその……もうひとつ渡したいものがあって」



しどろもどろになりながら再びポケットに手を突っ込む。

取り出したのは手紙だった。



「彩ちゃんが約束場所に来なくて、慌ててここまで来たからしわくちゃになっちゃったけど」



本当ならシワにならないように最新の注意を払っていたのだろう。

それは知明から手紙だった。



《Dear 彩ちゃん


彩ちゃん、付き合い初めて今日で半年になるね。

そんな素敵な記念日が彩ちゃんの誕生日でとても嬉しいと想ってる》



そうやって始まった手紙は随所に歯の浮くような言葉が書かれている。



《彩ちゃんと生きていきたい》《彩ちゃんがいればすべてがうまくいく気がする》



そんな、普段は知明がいいそうにない言葉まで。

最初はくすぐったい気持ちが強かったけれど、読んでいくうちに知明の気持ちが深く深く入り込んでくる。


どれだけ自分のことを思ってくれているか、どれだけ大切にしてもらえているか、今まで感じることのできなかった部分までが文字として綴られている。


気がつけば彩は両目に涙をいっぱいにためていた。

こんなに素敵な手紙をもらったのは初めての経験だった。


どんなプレゼントよりも嬉しい。



「俺、彩ちゃんにどうしても色々伝えたくて、でもあまり賢くないから言葉を知らなくて」


「だから、チカゲに手伝ってもらった?」



彩の言葉に知明は頷いた。

確かに、文学部に所属しているチカゲなら沢山の言葉を知っていそうだ。



あのとき知明は自分の言葉を一生懸命文章にしていたのだと思うと、ふいに可愛らしく感じられた。

苦手な文章で気持ちを伝えようとしてくれたことが嬉しい。



「ありがとう。すごく素敵なプレゼントだよ」


「俺にはこれくらいしかできないから」



頭をかく知明に彩は抱きついた。

大きくて筋肉質な体は少し硬いけれど、抱きしめられると安心感がある。



「今日はどうしよう? もう、昼すぎだけど出かける?」


「このままで大丈夫だよ」


「でも……」



誕生日に家から出ないことを懸念しているらしかった。

彩は不安そうな表情の知明にキスをした。


知明の頬がほんのりと赤く染まる。



「ディナーの予約まで、ふたりきりっていうのはどう?」



ささやくと、知明の耳までが真っ赤に染まった。

そしてコクコクと何度も頷くのだった。

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