なぜか、溺愛される1日を繰り返しています。
西羽咲 花月
第1話 舞の場合
日笠総合クリニックを出たところで内科医である鈴木聡に呼び止められて長谷川舞は立ち止まった。
外は暗くなり始めていて、そろそろ夜勤の看護師たちが出勤してくる時間帯だった。
舞は短い髪の毛を指先で弄びながら立ち止まり、聡の整った顔を見つめた。
26歳の内科医としては幼い顔立ちをしていて、まるで自分の息子みたいだと中高年の女性患者さんから人気が高い。
聡目当てでここへ来る患者さんや、女性看護師さんもいると聞いたことがある。
「どうしましたか?」
舞は聡からスッと視線を外して聞いた。
5月の風はまだ少し冷たくてカーディガンの前を合わせる。
聡はキョロキョロと周囲を見回して他に人がいないことを確認すると、舞へ向き直った。
患者さんと向き合っているときの温厚さは鳴りを潜めて、今は緊張感が漂ってくる。
その緊張感は舞にまで伝染してしまってすぐに逃げ帰りたい気持ちになった。
その気持をごまかすように指先に髪の毛をくるくると巻きつけて戻すという無意味な行為を繰り返す。
「あの、俺っ」
聡の声が裏返り、舞がようやく指先を下におろした。
それでも聡の顔を見ることはできず、白衣の左胸についているネームばかりに視線を向ける。
「俺、長谷川さんのことが好きです!」
突然の告白。
地球が爆発する音が舞の頭の中に響き渡り、平穏な毎日が崩れ落ちていく。
聡の顔は真っ赤に染まっているのでこの告白が嘘だとは思えなかった。
舞の顔まで同じように真っ赤に染まっていく。
「あの……私……その……」
しどろもどろになってなにが言いたいのか自分でもわからなくなってくる。
舞は勢いよく頭を下げてダッシュで駆け出した。
後ろから聡が声をかけてくるけれど立ち止まることはなかった。
人生で初めての告白。
しかも童顔医師の鈴木が相手だなんて……!!
信じられない思いで高架下をくぐったとき、舞はハッと目を覚ました。
上半身をベッドから起こすと心臓がドクドクと早鐘を打っているし、呼吸まで乱れている。
まるでついさっきまで聡から逃げて走っていたような感覚が、リアルに手足に残っていた。
その直後にスマホのアラームが鳴り始めて舞は飛び上がらんばかりに驚いた。
慌ててサイドテーブルへ手を伸ばしてアラームを止める。
時刻は6時30分。
今日の日付は5月15日になっている。
それを確認した舞はベッドに座ったままゆるゆるとため息を吐き出した。
「また、《今日》だ……」
呟いてベッドから起き上がり、姿見を確認する。
相変わらず《今日》はひどい寝癖だった。
後ろの髪の毛がまっすぐ上に向かって跳ねていて、まるで東京タワーが乗っかっているみたいになっている。
とても手ぐしで直るものではないので、すぐに鏡台の前に座った。
寝癖直しのスプレーをしながらふと、今日で4日目だと考える。
昨日で5月15日は3回目だった。
そして聡から変わることのない告白を受けたのも3回目。
聡から告白を思い出すとまたゆるゆるとため息を吐き出す。
《今日》もまた聡から告白されるんだろうか。
仕事終わりに呼び止められて、真っ赤に染まりながら「好きです」と、愛の告白を受けるんだろうか。
想像するだけで鏡にうつる自分の顔がみるみる赤く染まっていく。
一瞬仕事を休んでしまおうかと思ったが、聡から告白されて困るので休みますなんて言えない。
仮病を使うとしても、イジワルな看護師長が「それなら診察を受けに来なさい」と言うに決まっている。
舞の勤め先で仮病は通用しなかった。
かくして4回目となる《今日》もおとなしく仕事へ向かうしかなかったのだった。
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