第117話
学校が始まった日から少し過ぎ、週末。瑠華達は以前サナと来た榛名ダンジョンまで赴いていた。
「これがしずちゃんの秘密兵器…」
「その言い方はどうかと思うが…まぁ兵器とも呼べるやもしれんな」
今回の雫―――【八車重工業】からの提供品。それは見方によっては兵器とも呼べる代物だった。
「ま、取り敢えず配信始めちゃうね」
「そうじゃな」
慣れた手付きで奏が配信の準備を始める傍ら、瑠華が周りを見回す。
(それなりに人がおるのぅ…?)
奏達の配信の影響かは不明だが、以前来た時よりもダンジョンへ潜る人の数は若干多いように感じた。そしてそれらの視線が、一部こちらへ向かっている事も。
(まぁあれでそれなりに効果はあったと思えば、良かったのじゃろうな)
そう一人納得する。しかし全員がコガネンのドロップ品に魅力を感じて来たのかと言えばそうではなく。瑠華は馴染みが薄い為に思い至らなかったが、所謂聖地巡礼に近しい気持ちで来ている人も一定数いたりする。
「映ってるかな? 柊ちゃんねるの奏だよー!」
「同じく瑠華じゃよ」
「それと凪沙。よろしく」
:きちゃ!
:お久しぶりの配信!
:最近何してたん?
「最近は主に夏休み後に向けての準備をしていたのぅ。配信出来なかったのはそれが理由じゃ」
「あとキャンプにも行ったよ」
:キャンプ!
:夏休み満喫しているようで何より。
:どんな事したの?
「前に水族館行った時、魚釣りしてみたいねって話をしてたから、キャンプ場で魚釣りしたよ」
「かな姉がばんばん釣って、瑠華お姉ちゃんがちょっと呆れてたの新鮮だった」
「…まぁ、あれはのぅ…」
思わず瑠華が遠い目をしてしまうのも無理は無い。
:釣れなかったとかでは無いのが幸いだねー。
:何釣ったの?
「鮪!」
:……ん?
:あれ、鮪ってそんな簡単に釣れたっけ…?
:釣れなくはない。釣れなくは、な。
:瑠華ちゃんもそりゃ遠い目するわ。
「そんなに異常?」
「奏は幸運値が高いからの…」
「昔からそう。でもいつもどうでもいい時ばっか運が良い」
:あるあるやん。
:奏ちゃんは幸運体質だったのか。
:瑠華ちゃんが言うと謎に説得力あるの笑うwww
:瑠華ちゃんだもの。
近況報告を兼ねたオープニングもそこそこに、いよいよ今日の本題へと入っていく。
「今日はスポンサーからの提供品の紹介だよ。皆は前に紹介したコガネンは覚えてる?」
:覚えてる。
:あの馬鹿みたいに固くてリアルなコガネムシな…
:それがどうかしたの?
「前にドロップ品は良いけれど倒す手段が無くて難しいみたいな印象だったでしょ? だからスポンサーからこれ使ってみたいな依頼がきたの」
「…大筋は間違っておらんが、少々軽すぎではないかえ?」
:それはそう。
:まぁ奏ちゃんなので…
:でもあの硬さに効果的な物って中々思い付かないけど。
:気になる気になる!
「ふっふっふ…それがこちら! えぇっと…試作名称魔力干渉型障壁破壊…装置!」
:良く言えました!
:パチパチ( 'ω'ノノ
:なっがいなwww
:ばっちりメモ見ながらやってるの可愛い。
:それな。
奏が取り出したのは、掌に収まるサイズ感の小さな装置だ。それをカメラに映るようにして持ち、必死に説明する奏にコメント欄は見えていない。
「コガネンがなんであんなに硬いのかっていうと、物理障壁…? っていうのを纏ってるからなんだって。それをこの装置を使って魔力的に干渉して打ち消す事で、物理攻撃を通りやすくする……で合ってる?」
ぐるりと振り向いて心配そうに尋ねてくる奏に瑠華が苦笑しつつ、頷いて答える。
:可愛いかよ。
:瑠華ちゃんが完全保護者ポジなんですがそれは。
:↑今更だ。
:つまりどういう事?
「簡単に説明すると、この装置が発する魔力の波長によってコガネンの防御力を下げる事が出来るという事じゃ」
「まだ試作品段階で販売は未定なんだけどね」
:ほほー。
:あり…なのか?
:使ってみん事には何とも。
コメント欄の反応を見てそれもそうだと頷き、早速装置を使ってみる。
「装置の使い方は簡単で、魔核を入れてからここのスイッチを押して、地面に置くだけだよ」
「効果範囲は半径三十メートル前後らしいぞ」
「そこまで広くない?」
「広くは無いが、ダンジョン内で使う事を考えれば妥当では無いかえ?」
:通路とか部屋とか、そこまで広くないもんね。
:設置型は考え物かも。
:持ち運びながらは無理なの?
「無理じゃな。魔力波長が安定しなくなる」
「そこは要改善点だって説明書に書いてたね」
:便利な装置にも無理はあるか。
:でも瑠華ちゃんなら?
「……其方らは妾に何を求めておるのじゃ」
「でも実際どうなの瑠華ちゃん」
「……出来るぞ。必要無い故しないがな」
そもそも瑠華にとって障壁とは有って無い様なものだ。全てを絶対的な力でねじ伏せる事が出来るので。
:さす瑠華。
:装置名魔力干渉とかってなってたし、瑠華ちゃんなら出来てもおかしくないよな…
「どうやるの?」
「相手の魔力波長を
「だけ……?」
:だけとは。
:魔力波長って見えるの…?
:そもそも魔力って見えるんですか。
「私も魔力は見えるよ? 波長は何か分からないけど」
「奏は魔力を色で捉えておるからの。その色が実質的な波長じゃよ」
「ほぇぇ…」
:悲報。奏ちゃんも瑠華ちゃんと同類だった。
:そりゃ幼馴染ですし…
:凪沙ちゃんは?
「私は見えない。でも温度? は分かるかも」
「凪沙は意外と感覚派じゃからの。魔力を直感的に捉えておるのじゃろ。熱いや冷たい、ピリピリする等と言った具合にの」
「ん。そんな感じする」
:わぁお。
:普通の人がいない。
:ていうか瑠華ちゃんなんでそんなに詳しく把握出来てるの…?
:確かに。
「ん? それは妾の眼……いや、何でもない」
「え?」
:なんか口走ったっぽい?
:うっかり瑠華ちゃん珍しい。
:お疲れ?
「瑠華ちゃん疲れてるの? 今日休む?」
「問題無い。気にするな」
(口にするつもりは無かったのじゃが……まぁさして問題あるまい)
:眼って言った?
:深堀するな。消されるぞ。
「流石に瑠華ちゃんはそんな事しないよ」
「当然じゃ。消すとしても記憶じゃな」
「……え?」
「ん?」
:よしわたしはなにもきいていない。
:あーとつぜんイヤホンがきれたなー。
:草。
:瑠華ちゃんそういう時躊躇いが無い気がするから…
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