第94話
ちなみに作者は元テニス部です。ペアはコロコロ変わるタイプでした。あれやめて欲しい、ホント。
―――――――――――――――――――
可歩が所属する運動部―――ソフトテニス部は瑠華も何度か助っ人として参加した事がある為、大会当日の顔合わせにおいても滞り無く進んだ。
「瑠華先輩の力借りられるなら百人力!」
「良いのかそれで……」
「まぁ駄目ですけど。でも怪我した子も瑠華先輩が出るなら寧ろ嬉しいって言ってたんで。ついでに折角だからって見に来るらしいです」
「元気じゃのう……」
瑠華が今回参加することになった大会は数校合同で運営される緩い大会であり、トーナメント戦や総当り、団体戦など色々と行われる予定になっている。
「それで妾はどうすれば良いのじゃ?」
「瑠華お姉ちゃんは最初のトーナメント戦に登録されてるよ。ペアは私だね。一応ダブ後の予定だけど……瑠華お姉ちゃんは自由に動いていいよ」
瑠華の身体能力を知る可歩からすれば、変に作戦を練るよりも自由に動いてもらう方が良い結果に転ぶだろうと確信していた。なので自分は終始それに合わせて動けば良いだろう。
「ふむ…まぁ出来るだけ失点せぬよう努力はするぞ」
「瑠華お姉ちゃんが失点するかなぁ…」
その後簡単な開会式を終え、早々に瑠華と可歩のペアの出番がやってきた。対戦相手は長年ライバルとして切磋琢磨している学校の選手だ。……瑠華はさして知らないが。
「瑠華お姉ちゃん。表裏どっちにする?」
「……妾に聞くべきでは無いと思うぞ?」
サーブかレシーブかを決める為にラケットを回転させるのだが、全ての事象を計算出来る瑠華であれば表裏どちらが出るかを知り得てしまう。なのでどちらにするかを決めるのは、瑠華では無い方がいいだろう。
「じゃあ私が決めるね……表で」
相手がラケットを回し、出たのは表。どちらにするかを聞かれ、可歩はサーブを選択した。
「私先していい?」
「良いぞ」
瑠華に初手を譲ってもらい、可歩がサーブの構えを取る。
実は可歩が有利なレシーブでは無くサーブを選択したのは、瑠華に良い所を見せたかったからだ。
ソフトテニスらしい弾性のある音が響いて、ファーストサーブが相手コートに叩き付けられる。ギリギリを狙って打たれたボールはレシーブするには少々厳しく、辛うじて取ったボールはふわりとした軌道を描いて瑠華の元へ。
コート手前に落下するボールに少し走って追い付くと、容赦無く相手のバックハンド側を狙って鋭いレシーブを放った。
十分に加減したとはいえ流石に反応するのは難しく、虚しくツーバンする音がコートに響く。
「瑠華お姉ちゃんナイス!」
「本当に良いのじゃろうか……」
自由にやっていいとは言われたが、やはり良心の呵責に苛まれた。全く本気で動いていないとはいえ、行動が無意識に最適化される瑠華のプレイはプロに匹敵するのだから、ほぼ狡をしているような気分だ。
「負ける事も糧になるし、瑠華お姉ちゃんが勝つ事には何ら問題ないよ。自信持って」
「……まぁ本当にそうならば良いがのぅ」
可歩の二回目のサーブはダブルフォルトで相手に取られるも、その後の瑠華のサーブによって二回サービスエースを取り逆転する。
「変な回転が掛かってないサーブって普通に強いね……」
ソフトテニスは硬式テニスよりも回転が掛けやすいので、着弾時に大きく逸れる跳ね方になるサーブが強い。しかし、ただ速いだけのサーブが弱いという訳でも無い。
……まぁ瑠華のサーブは速いだけではなく軌道が鋭いものである為、そもそも反応が間に合わないのだが。
「ラリーは必要かえ?」
「……出来るなら」
このままではロクに可歩がラリーをすること無くゲームを取れてしまうので、次は可歩主体で動く事にした。
ファーストサーブはネットしたので、セカンドサーブを下から入れてゆっくり目のスタートに。
「中々鋭い返しじゃの」
緩くロブで打ったボールが鋭くバックハンド側に返ってきたのに対し、瑠華が内心感嘆する。少し試すようにほぼ同じ速さで打ち返し前に出ると、前衛に出た瑠華を避けるようにかつ可歩から見難い位置目掛けてボールが返ってきた。
(成程。可歩がライバルと言っていたが、それは確かなようじゃな)
可歩が懸命に追い掛けるも、流石にこれは相手が上手かった。コートの端にバウンドしたボールは、虚しくも二回目の落下音を響かせてしまう。
「ごめん瑠華お姉ちゃん…」
「何を謝る。勝負はまだついとらんぞ」
手加減したとはいえ、わざと負けるよう動いたつもりは無い。この
「やっ!」
意識を次に切り替えた可歩が気合を入れてサーブを放つ。相手は瑠華を警戒しているようで、レシーブされたボールは可歩の方へと飛んで来た。
「ならば前に出るかの」
来ないのならばこちらからと瑠華が前衛に躍り出る。それだけで相手にプレッシャーを掛ける事が出来るが、同時に可歩の守備範囲が横に広くなってしまう。そして、その隙を見逃す相手でも無かった。
瑠華と可歩、そのどちらも頑張れば取れる位置にボールが飛んでくる。所謂お見合い状態になりがちな展開だ。しかし、それはペアが互いの行動範囲を理解していない場合に限る。
「まずは一つ、取らせてもらうぞ」
可歩は瑠華が動くと信じていた為に動かず警戒を続け、回り込んだ瑠華がトップスピンでボールを打ち返す。
そうして飛翔したボールは緩やかなカーブを描いてサービスライン上に着弾し、ほぼ跳ねることなくコートを転がった。流石に予想したバウンドの高さと異なっていると、咄嗟には対応出来ない。
「さっすがー」
「…大人げなかったかの?」
「それでいいんじゃない? スポーツは真剣に楽しむのが本質だし」
それもそうかと一つ頷き、コートチェンジの為に歩き出す。すると相手側の選手がこちらへと駆け寄り、そのままのスピードで可歩へと詰め寄った。
「ねぇ可歩! 知らない凄腕助っ人頼むなんてズルくない!?」
「ふふん。妹がお姉ちゃんにお願いをする事の何が悪い」
「うわ…って、お姉ちゃん?」
「こちら、瑠華お姉ちゃん。私の一つ上のお姉ちゃんだよ」
可歩が手で示して瑠華を紹介する。それに対して瑠華は小さく手を振って応えた。口を開くと面倒な事になりそうだと直感したからである。
「ほえぇ…でも今まで大会で見た事ないよ?」
「だってこれが初めてだし」
「……へ?」
「言ったでしょ? 頼んだって」
「えぇぇ……」
「ほら、早くするよ」
ぶーぶーと文句を言いつつも、これ以上試合を長引かせるのも本意では無いので大人しく引き下がってお互いの位置へと移動する。
「仲が良いのじゃな?」
「え? あー、うん。まぁ毎回大会で当たる相手だからね。だから瑠華お姉ちゃん遠慮無くやっちゃって!」
「それもそれでどうかとは思うがの……」
だが可愛い妹の頼みであれば、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます