第92話
「第一回! 【柊】体力王決定戦ーっ!」
「……なにやらいそいそと準備をしていると思えば」
ASMRという名のほぼ雑談配信を行った次の日。昨日の宣言通り配信はちゃんと始めた奏だったが、その最初から雑談とは似ても似つかない事を言い出した。
瑠華はといえば、注文していた遊具が完成したので諸々の手続きをしていたころであった。その視界の端でチラチラと何やら準備している様子は写っていたので、驚きよりも呆れが先に来てしまう。
:いえーい!
:いえーいwww
:あれ? 今日雑談では……
:奏ちゃんだから。
:基本ノリと気分と勢いで乗り切ってそうな奏ちゃんが主体だから仕方無い。
「なんかすっごいディスられてない!?」
「間違っておらんじゃろ」
「……兎も角! 企画の説明をしていくよー!」
:流したwww
:まぁ楽しそうだしいいけどwww
「今回の企画はね、我が【柊】に新しく設置された大規模遊具を使ったタイムアタックをやっていくよ! ルールは簡単。攻略した時間が最も短い人が優勝!」
「ほぅ?」
:なるへそ。
:奏ちゃんの後ろに見えるやつか…でかくね?
:そりゃこんな企画するくらいだからな。
「そして栄えある第一位には……瑠華ちゃん一日独占権が与えられます!」
その言葉で遊具をキラキラとした瞳で眺めていた子達が、一斉にその眼差しを奏へと向けた。心做しか周囲の気温が上がったようにも感じる。
「……まぁ別に景品にされる分には構わぬがの。年齢的にハンデを設けねば勝負にならないのではないかえ?」
:あ、確かに。
:小さい子もいるもんね。
「それなんだけど……紫乃ちゃんに協力してもらう事って出来るかな?」
「紫乃にか?」
「お呼びでしょうか?」
:紫乃ちゃん?
:見た事ないかも。
:新しい子!?
「あぁ、そういえば紹介してなかったっけ。この子は紫乃ちゃん。この間新しく【柊】に来た子で、瑠華ちゃんが居ない間の【柊】の管理をしてくれてるよ」
「これが配信のカメラですか……えっと、お初にお目にかかります。こちらの【柊】にてお世話になっている紫乃と申します」
手を前に揃え、カメラに向かって軽く頭を下げる。
:すっごい丁寧…
:背丈からして瑠華ちゃん達と同い歳?
「はい。瑠華様や奏様と同じ十五でございます」
そうハキハキと、
:ほうほう。
:確かにこれだけしっかりしてるなら、瑠華ちゃんも【柊】を任せようって思うか。
:いや待て待て。今サラッと二人を様付けしたぞ。
:しかもコメントを読む時にスマホ見てなかった…もしや瑠華ちゃんと同類?
「瑠華様と同じなど恐れ多い…私はまだまだ未熟の身でございます」
:やっぱり普通に見えてるっぽいぃ…
:ナチュラル様付け…
:これ追求しない方がいいやつ?
「しないで貰えると助かるのう」
:理解。
:でも紫乃ちゃん? にどう手伝ってもらうの?
「紫乃ちゃんは呪縛? っていうのを使えるから、それで動ける子達に負荷を掛けてもらうつもりだよ。お願いしてもいいかな?」
「その程度であれば喜んで。ただ負荷具合は私の感覚になってしまうのですが、よろしいですか?」
「うん、大丈夫」
二人だけで和やかに会話が進んでいたが、コメント欄は何とも騒然としていた。
:呪縛ってなんぞや。
:聞く限りで行動阻害のデバフっぽいけど…
:呪縛って呪いでしょ? 掛けて大丈夫なやつ?
:瑠華ちゃんが何も言わないなら問題無いんでしょ。知らんけど。
:やっぱり紫乃ちゃんも瑠華ちゃんと同類じゃねぇか!
:【柊】ってなんなの…? 蠱毒状態なの…?
:物騒な表現しないでくれ。せめて坩堝と言ってくれ。
(……まぁ坩堝という表現はあながち間違っておらんのぅ)
瑠華の影響を多大に受ける【柊】では、多種多様な力の派生が引き起こされていた。これは瑠華としてもかなり予想外の事象であり、最近添い寝をしていないのはこれ以上混沌とさせない様にする為でもあった。
……もう既に手遅れ感満載ではあるが、気にしてはいけないのだ。
「かな姉。残念だけど、今回はうちが権利貰うからね」
「おっ、可歩。今回はやる気ある感じ?」
企画説明を終えた奏に近付いて来たのは、凪沙と同い歳である可歩だった。前回のスゴロクでは小さい子達に遠慮していた様子があったのだが、今回はどうにもやる気に満ち溢れていた。
「目的あるの?」
「ある。けどそれは勝ってから言うよ」
「ふぅん…まぁ今回は私も除外じゃないし、負けるつもりないよ」
バチバチと火花散らす二人を後目に、瑠華がひっそりと配信のアカウントに干渉して配信画面にアンケートを表示させた。
:お。アンケきた。
:勝利予想か…名前数人しか知らんのやけど。
「そういえば全員の紹介はしておらんかったのう。ふむ…始める前に軽く自己紹介をしてもらうのが良いか」
今までは必要性を感じなかった為にそれぞれの紹介をすることも無かったが、今回の企画を最大限楽しむにはある程度の知識があった方が良いだろう。
顔自体はモザイク処理されている為に、名前を教えたところで個人を特定する事は困難だ。それに瑠華の〖認識阻害〗があればバレる事は皆無なので、さして問題にはならない。
:自己紹介だと時間掛かりそうだし、瑠華ちゃん視点で紹介するのは?
「む……確かにそれもありか」
:瑠華ちゃん視点の紹介気になる。
:まずあの可歩ちゃん? 知りたい。
「可歩は凪沙と同い歳の子じゃな。運動部に所属しておる故、優勝候補かもしれん」
:運動部かぁ。
:紫乃ちゃんの呪縛による負荷がどれくらいかにもよるかなぁ…
:どれくらい拘束力あるの?
「……程度にもよるが、奏はまるで水の中にいるようだったと言っておったのう」
:うわぁ、キッつい。
:水の抵抗って洒落にならんからな。
:瑠華ちゃん的には?
「……妾に拘束が効くと思うか?」
:ア、ハイ。
:うん、思わない。
:澄まし顔で引きちぎってそう。
:逆に何やったら止められるんだ……
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