第50話 奏視点

 瑠華ちゃんが魔銃を弄っている間に、サナさんの方へと近付く。


「サナさん、実は外に壊れたカメラがあったんですけど…」


「え? …あぁそれは私のだね。哨戒中のアーミーアンツに不意打ちされて壊されちゃったのよ」


「そうだったんですね。配信は…」


「今日は動画を撮るつもりだったからねぇ…」


 ダンジョン配信っていうのは、リアルタイムの配信の他に動画を投稿する人もいる。攻略系とか、解説系がこれだね。私もやってみたいけど、編集するのがめんど…大変そうだからやってない。


 私との会話を終えたサナさんが困惑した様子で瑠華ちゃんを見つめているのを見て、思わず苦笑が浮かんだ。


「瑠華ちゃんの事気になります?」


「う、うん…えと瑠華ちゃん、と…」


「奏ですっ!」


「奏ちゃんね。…聞きたいんだけど、あれはロールプレイなの?」


「ロールプレイ?」


「その、妾とかのじゃとか…」


「あぁ、あれ素ですよ」


「えっ」


 サナさんが目を見開くけれど、そこまで驚く事だろうかと不思議に思う。まぁ普段の生活で聞く単語では無いとは思うけど。


「私が出会った時から、あの口調です。立ち振る舞いとかも口調に合っているから、学校でも特に何か言われる事ありませんし」


「凄いね…色んな意味で」


「実際凄いですよ。瑠華ちゃん基本何でも出来ますし、凄く強いですし」


「何でも出来るって言っても、普通魔銃直せないと思うけど…」


「瑠華ちゃんですから」


 元は視聴者から始まった言葉だけど、実際瑠華ちゃんを表すにはこれ以上無い言葉だと思うの。


「クゥン…」


「ん? どうしたの美影」


 突然私の隣にいた美影が甘えるように身体を擦り付けて来た。それに思わず頬を緩ませるも、内心小首を傾げてしまう。いきなりどうし…あー……。


「ヤキモチ?」


「…ワゥ」


「んふふ…可愛いなぁ…」


 どうやら私が瑠華ちゃんをべた褒めした事に対してヤキモチを焼いたらしい。可愛いなぁほんとに。


「それは…テイムしたモンスター?」


「あ、はい。美影って言います」


「ガウッ!」


「黒い狼…見た事ないわね……」


「無いんですか?」


 そういえば名前も瑠華ちゃんから聞いただけだったね。どのランク帯のモンスターなのかは教えて貰ってないし……。


「終わったぞ」


「あ、瑠華ちゃん。美影って影狼っていうモンスターだったよね?」


「ん? そうじゃが…」


「どのランク帯か分かる?」


「ランク帯か…性質は初見殺しじゃが脅威度はそう高くないモンスターじゃ。あってもD程度じゃろうな」


「そんなくらいなんだ…」


 でもちょっと納得。Bランクとかだったらまず私勝ててないだろうからね。


「それより…ほれ。具合を確認してくれんかの」


「う、うん」


 瑠華ちゃんがサナさんに魔銃を手渡す。そして多分魔力を流して…表情が固まった。


「どうじゃ?」


「直ってる…けど、これ…」


「む? あぁ、少し魔力回路を弄らせてもらった。威力は変わらぬが効率は上がっているはずじゃよ」


「やばぁ…」


 ……瑠華ちゃんが弄ったのなら、多分大変な事になってるんだろうなぁ。


「兎も角此処を脱出せねば…ん?」


「瑠華ちゃんどうしたの?」


「いや…」


 瑠華ちゃんが薙刀の石突の方で地面をコンコンと叩く。土にしては硬質な音が響いたけど…あコレ不味いやつだ。


「手っ取り早くいこうかの」


「瑠華ちゃん落ち着こう。まず何をしようとしているのか教えて」


「ん? ……ふふっ」


 あっ、その笑顔好き……じゃなくてっ!


「サナさん衝撃に備えて下さい!」


「へっ!?」


 そう言った瞬間、地面が


「いやぁぁぁっ!?」


 ふわりとした浮遊感の後、心臓がひゅっと縮まるのが分かった。下を見れば何処までも続く暗闇。瑠華ちゃん魔法切ったな!?


 何があろうと瑠華ちゃんが私を怪我させる事は無いと分かりつつも、その恐怖は凄まじいもので。

 ……よし、帰ったら瑠華ちゃんのご飯セロリ出そう。【柊】の子達の前だったら瑠華ちゃんも断れないはず。ふふふ……。






 そうして暫く落ち続ける事数分。……いや長くない? まぁ感覚が狂ってる可能性も十分にあるけどさ。


「わわっ」


 下から押し上げられる感覚がして、身体がぐるりと上下反転する。そしてふわりとそのまま足が地面に着く感覚が。


「い、生きてる…?」


 隣では顔面蒼白状態のサナさんが。分かるよ、知らなかったらそうなるの。


「妾が怪我させる訳なかろう」


「……瑠華ちゃんはちょっと反省しようね?」


 何食わぬ顔で近付いてきた瑠華ちゃんに、にっこり笑顔で答えてあげる。私はもう瑠華ちゃんの常識外さを知ってるけど、ここにはそれを知らない人も居るんだからね?


「……さて、ここがボス部屋じゃな」


 私の笑顔から逃れるように顔を背けて話題転換。逃がさないからね? 後で覚悟しといてね?


 瑠華ちゃんが目線を投げた先には、大きな扉。どうやら瑠華ちゃんはここまで一直線に落ちる穴を開けてしまったらしい。……ダンジョンって壊せたっけ。


「嘘…あそこ四十五階層だったのに…」


 つまり五階層分落っこちてきたって事? 瑠華ちゃんいつの間にそんな事できるようになったの?


「出るのであれば手っ取り早いじゃろ?」


「手っ取り早いけどっ! 瑠華ちゃん最近自重しな過ぎじゃないかなっ!?」


 おかしいな。私の記憶にある瑠華ちゃんは常に落ち着いてて年長者みたいに優しく見守ってくれて、たまにちょっとお茶目なところもある子だったのに……あれ? あんまり変わって無くない?




―――――――――――――――


瑠華「作者が熱を出したようでの。明日の更新に関しては少し未定だそうじゃよ。全く…体調管理も大切な仕事であると言うに。粥でも用意してやるかの……」



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