第37話

「急募! 瑠華ちゃんに勝つ方法!」


 ある日の夜。奏は自室にてカメラを起動し、ゲリラ配信を始めていた。


 :こんちゃwww

 :いきなり過ぎるwww

 :どしたん? 話聞こか?


「最近瑠華ちゃんに翻弄されっぱなしだから、ここら辺で見返したい!」


 :最近どころかいつも…うん。

 :おぅ…

 :それは、ねぇ…

 :無理じゃね?

 :↑おい!


「無理じゃないもん。瑠華ちゃんに勝てる分野一つくらいあるはずだもん」


 :だもん。

 :可愛い。

 :瑠華ちゃんに勝てる分野ねぇ…

 :正直俺たちよりも奏ちゃんの方が瑠華ちゃんの事知ってるくない?


「それはそうなんだけど、私も瑠華ちゃんも知らない何かを教えて貰って、先に練習すれば勝てるかなって」


 :つまりコソ練したいってことか。

 :瑠華ちゃんがした事なくてコソ練すれば勝てるやつ……ある?

 :ない。

 :ない(無慈悲)


「もうちょっとみんな真面目に考えてよっ!」


 :と言われましても。

 :じゃあ取り敢えず瑠華ちゃんがした事ないの教えて。


「瑠華ちゃんがした事ない…多分ゲームはした事ない。スマホも連絡か検索しか使ってないし」


 :ゲームか。

 :運動神経抜群だし、ゲームならワンチャン?

 :いや、思考加速系のスキル持ってるっぽいからびみょい。


「あー……」


 :あーwww

 :これは思い当たる節ありか。


 実際のところ瑠華は龍時代の演算領域をそのまま持っているので、スキル無しでもスパコン並どころか余裕で上回っていたりする。


「でも頼んだらそれは使わないはず!」


 :それは、まぁ…

 :奏ちゃんの頼みなら聞くでしょ。

 :そもそも勝たせて欲しいって言ったらいい感じに負けてくれそう。


「それだと意味無いじゃん」


 :ただの八百長だわな。

 :うーん…オセロとかチェスとか将棋とかは論外か。

 :一応やってみたら?


「それは駄目。【柊】にそれ全部あるけど、瑠華ちゃんが負けたとこ見た事ない」


 :予想通りすぎるwww

 :ゲーム機とか何があるの?


「ないよ」


 :ないよwww

 :ないのかぁ…

 :娯楽少ない感じ?


「そうだね。連絡用にスマホはあるけど、それ以外のものは無いかな。最近は私たちの配信をリビングで見るのが楽しいみたいだけど」


 :なるへそ。

 :スマホゲームでなんかある?

 :純粋な運ゲーならいけんじゃね?

 :トランプとか?


「…私ババ抜き最弱なんだけど」


 :草

 :表情にでやすそうだもんなぁwww

 :チンチロは?


「チンチロってサイコロ使うやつ?」


 :そそ。

 :賭け事の遊びだけど、まぁルールはシンプルだし楽しめんじゃね?

 :サイコロ三つと大きめの器さえあれば出来る。

 :オリジナル通貨とかあるとなお楽しい。


「サイコロあるかな…」


 :瑠華ちゃんに聞いてみる?


「そだね」


 :困った時の瑠華頼み。

 :語呂良いなwww


 カメラは一先ず部屋に置いたまま、瑠華の部屋へと向かう。ちなみに今日ジャンケンに勝ったのは凪沙である。


「瑠華ちゃん。今いい?」


「良いぞ」


 奏が扉をノックして入室許可を得てから、瑠華の部屋へと入る。すると瑠華は机に向かって何か書き物をしているところであった。


「どうしたのじゃ?」


「えっと…サイコロってある?」


「サイコロ?」


 瑠華が書き物から顔を上げて奏を見る。その目には純粋な疑問の色が浮かんでいた。


「三つあると嬉しいんだけど」


「一応あるにはあるが…何に使うのかえ?」


「えっと…瑠華ちゃんってチンチロ知ってる?」


「チンチロ…あぁ成程。今からするのかえ?」


「知ってるんだ…えと、瑠華ちゃんとやりたいと思ったんだけど」


「妾と、か…奏よ」


「何?」


「…言いたくは無いが、正直勝ち目は無いぞ?」


「………」


 しっかり目的を看破している瑠華である。


「…運ゲーならワンチャン!」


「……まぁ良いか。暫し下で待っておれ。準備するでの」


「分かった!」


 取り敢えず部屋に戻りカメラを回収。そして下に下る間に経緯を視聴者へと説明した。


 :さす瑠華。

 :運ゲーも強いのかぁ…

 :正直瑠華ちゃんがイカサマしても見破る自信無い。


「瑠華ちゃんはそういう事嫌いだから、しないと思うな」


 :たし蟹。

 :イカサマ…定点使うのはイカサマ?

 :定点?

 :どれくらいの高さでどれくらいの強さで投げれば何が出るみたいなやつ?

 :瑠華ちゃんならそれくらい計算出来そう。


「…どうしよ、否定出来ない」


 :草。

 :それはもう、どう足掻いても勝ち目ないのでは。


 何やら嫌な予感をひしひしと感じつつも、ソファで待つ事数分。瑠華が両手に収まる程の大きさの器を持って近付いてきた。


「準備出来たぞ」


「ありがとっ。あ、配信してるけど大丈夫?」


「…それは大丈夫以外答えられぬのではないかえ?」


 :それはそう。

 :あれ? なんか紙もある?


 視聴者がカメラに写った器の中に、何枚かの紙が入っている事に気付いた。


「これは先程作った独自通貨じゃよ」


「えっ、そんなものまで作ってくれたの?」


「純粋な点数勝負よりも、こちらの方が楽しかろう?」


 :さす瑠華。

 :さす瑠華だわこれは。


「初期資金は一万ホーリーじゃの」


「ホーリー?」


 :柊の英語名だっけ?

 :正確にはヒイラギモチの事だけどな。


「最小単位は百にしておいたのじゃ」


「ほほう。じゃあ最初は百ホーリー賭けようかな」


「ならば妾もじゃな。本来ならば親を決めるが、今回は一対一故に決める必要もなかろう」


「はい瑠華ちゃん!」


 元気よく奏が手を挙げる。


「ルール教えてください!」


「……まぁ良かろう。どうせならば本来よりも少しだけ変更して、【柊】の子らも遊びやすくするかの」


 :それは…大丈夫なの?

 :瑠華ちゃん居るし、トラブルは起きんだろ。


「そうだね。普段から喧嘩はあるけど、瑠華ちゃんが落ち着けてくれるし」


皆素直じゃからの」


 :気づいていらっしゃるwww

 :まぁ瑠華ちゃんに隠し事出来なそうだし…


「兎も角ルールの説明をしようかの」


「うんっ」


 使うサイコロは三つ。役無しの場合の振り直しは三回まで。今回は親無し。役は通常通りだが、倍率が同じなら相殺。といったルールになった。


「まずは私から!」


 カランコロンと音がなり、サイコロが転がる。出た目は四四二だった。


 :弱いな。

 :これは…


「これ弱いの?」


「弱いぞ。三の目以上を妾が出せば勝ちじゃからの」


「うぅ…瑠華ちゃん二以下出して!」


 続いて瑠華がサイコロを投じる。カランコロンと転がって出た目は、三三三。


 :あwww

 :こwれwはw


「三倍払いじゃの」


「………もっかい!」






 ………――――数分後。


「……妾の勝ちじゃの」


「んなぁぁっ!?」


 :予 想 通 り。

 :草。

 :いやぁ…ボロ負けってこういう状態を言うのかぁ…


 現在の瑠華の所持金は二万ホーリー。対する奏はゼロ。見事なまでのボロ負けである。


「というか瑠華ちゃん出目強過ぎない!?」


 :それな。

 :基本がゾロ目かしごろだからなぁ…

 :豪運www


「…種明かしをしてしまえば、妾は全ての事象を計算出来てしまうからの」


「つまり狙った目出せるの!?」


「うむ…」


 :うわぁwww

 :端から勝ち目ないじゃんwww

 :これってイカサマ?

 :うーん……グレー。

 :サイコロに細工したとかじゃなくて純粋な技量で出目操作だからなぁ…

 :カジノのルーレットでそれしたら黒なんだけどね。


「狡い!」


 :ド直球!

 :いやまぁそうだけどwww


「すまぬ…こればかりは制限出来んのじゃ」


 魔力や膂力はある程度制限出来るが、処理能力は意図的に制限する事が出来ない。というより、“してはいけない”のだ。


(処理能力を下げてしまえば、他の制御が出来んからのう…)


 最悪の場合、瑠華の周りが全て吹き飛んでしまう可能性がある。その様な危険を冒してまで制限するのは躊躇われた。


 :瑠華ちゃんがそう言うならほんとに無理なんだろな。

 :まぁ普通に考えて、思考を停止して欲しいとか言われても不可能だしね。

 :そして分かってしまうから、それ以外を敢えて選択出来ないというね…

 :わざと負けるのと同義だもんなぁ…


「そっかぁ…」


「そも何故妾に勝ちたいと思ったのじゃ?」


「だって瑠華ちゃん完璧超人だし…勝ってみたいじゃん?」


「ふむ……妾は奏に負けているところがあると思うがの」


「例えば?」


「まず行動力じゃな。奏は思い立ったら即行動が当たり前じゃが、妾はそう直ぐに動く事が出来ん。次に人間関係。妾は自分から友人を作れた事が無い。対して奏は明るく物怖じしない性格をしておるし、誰とでも直ぐに仲良うなれるじゃろ。それにそのお陰で商店街で買い物をする時、奏が共に居れば何かとオマケして貰えるのもあるのう。妾だけ買い物に行ってもあぁはならん。表情もそうじゃな。奏はよく笑うし、その笑顔は皆を幸せにしてくれる」


「………」


 嘘偽りない瑠華からの怒涛の評価に、奏はただ顔が熱くなるのを自覚するしかなかった。


 :奏ちゃん顔真っ赤www

 :もう奏ちゃんのライフはゼロよ!

 :ちゃんと瑠華ちゃんは見てるのね。

 :さす瑠華。


「瑠華ちゃんお願い。もうやめて…」


 堪らず両手で顔を覆い、か細い声を上げる。


「そうか? まぁ兎に角、妾を完璧超人などと思っておるのは間違いという事じゃ。そして奏は十分優れていて、魅力的な人間じゃよ」


「ぅん……」


 :K.O.!

 :撃沈!

 :てぇてぇ…

 :結局翻弄されてしまう奏ちゃんなのであった。

 :完!

 :草。



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