第27話
その日の夜、スポンサー元である【八車重工業】からダンボールが届いた。
「瑠華ちゃん瑠華ちゃん。〖認識阻害〗があるのに何で荷物は届くの?」
「それはこの【柊】に対して利になる明確な目的があり、場所も正しく把握している人間には認識出来るようにしてあるからじゃよ」
「ほぇぇ…でも配信では言わなかったよね?」
「利用されては困るからの」
ついでに言えばこの【柊】に対して配達した人間の意識を誤認させているので、当人は【柊】に配達したとは思っていない状態になっている。
「…そこまでする?」
「妾がここを去るのならば、この様な対応もしなくて済むのじゃがな」
「それは…」
「奏も気付いておろう? 妾は、そういう存在なのじゃよ」
姿形は人間であったとしても、その能力は人間の範疇を大きく逸脱している。遅かれ早かれ、それがバレる事は予想していた。それ故に今まで【柊】の場所を徹底的に秘匿していたのだ。
「じゃがそう重く受け止める必要もなかろう。証拠は妾の発言だけ。放置すれば自ずと消えるじゃろう」
遅かれ早かれバレるとはいえ、好き好んで吹聴したい訳でも無い。現状瑠華が配信で見せたのは火属性と氷属性のみ。であれば、全属性使えるという話は、眉唾だと認識される可能性が高い。
今回敢えて匂わせる様な発言をしたのは、今後もし配信中に別の魔法属性を使わざるを得なかった場合に、躊躇しないで済むようにする為だ。
あとは、実際にその様な状況になるかを確かめてみたかったからというものある。
「………」
「奏。自分のせいなどと馬鹿げた考えをしている訳ではあるまいな?」
「だってっ…」
「言ったであろう、妾は妾の意思でここに居ると。それを気に病むのはお門違いというものじゃ」
自らが
「…なら、瑠華ちゃんが
「ん? まぁそれはそうじゃろうが…」
「なら教えて。瑠華ちゃんの魔法」
異質とは、他に類を見ないからこそ生まれる認識である。であれば、その認識を壊すにはどうすれば良いか。
―――肩を並べる存在が居ればいいのだ。
「…そうか。ならば―――」
瑠華が指を振ると、〖魔法板〗が何枚か空中に現れる。しかし、そこに書かれた文字は日本語では無かった。
「これは?」
「魔法文字。若しくは古代文字とも呼ばれるものじゃの」
瑠華が知識を与える上で、最も効率的に伝える為に扱う文字。それが魔法文字だ。もっとも、これをその通りに認識出来た人間は少なかったが。
というのも、魔法文字は一文字に込められる“意味”の量が極めて多いのだ。それ故に扱うのは困難であり、以前の世界では教えた最初の人間以降は衰退してしまった。しかし使い熟せれば、それ相応の武器となり得る文字だ。
「これを覚えてみせよ」
「っ…」
「啖呵を切ったのであれば、それ相応の覚悟を妾に示してみせよ」
瑠華からすれば、この魔法文字を日本語に翻訳して奏に教える事など造作もない。だが、それでは魔法文字を完全に活かしきる事が出来ない。
それでは、瑠華と肩を並べる事など出来はしない。
「後で紙に写してやろう」
「……分かった」
瞳の色が変わったのを見て、瑠華が思わず笑みを零す。
(…
こうして瑠華が覚悟を見るのは、二度目だ。一度目の人間は寿命故に志半ばで事切れてしまったが……果たして今回はどうであろうか。
「さて。この話はここまでにして…届いた物を確認せねばな」
「あっ、うん!」
転じて楽しげな笑みを浮かべた奏が、瑠華と共に届いたダンボールを開封していく。
「おぉ…何これ?」
「分からんで感動しておったのか…」
「あ、ははは…」
奏が手に取ったのは、白い腕時計の様な見た目をしたリストバンドだった。
「説明書は…あったぞ」
「どれどれ…Dバンド?」
手に取ったそれはダンジョンリストバンド、通称Dバンドと呼ばれる道具だと説明書には記載されていた。
その機能としては位置情報の発信や救難信号の受信と発信、簡易次元収納などがある。
「次元収納?」
「別次元に物を収納する魔法じゃよ。これは簡易型である為、ウエストポーチ程度の容量しかないがの」
「ほぇぇ…他には何が入ってたの?」
届けられたダンボールの中身はまだまだあり、その中には運動靴も含まれていた。
「疲れにくい靴的な?」
「御明答じゃの」
今時ダンジョン用の運動靴も販売されているのだ。物によっては隠しナイフが仕込まれている事もある。
「…必要?」
「まぁ緊急用じゃろうな。対して効果はなかろうが」
そしてお目当ての瑠華の武器が―――見当たらなかった。
「入れ忘れかな?」
「いや、薙刀の大きさを考えるに……」
そう言って瑠華が手に取ったのは、小さなウエストポーチ。そのファスナーを開けて手を入れると、スルリと紅い持ち手が出てきた。
「えっ!?」
「Dバンドに簡易次元収納機能があったじゃろ。これはそれの完全版じゃの」
「…絶対高いじゃん」
奏の予想通り、次元収納機能があるバッグは容量によって前後するが、そのどれもが極めて高価である。
「雫には感謝せねばのう」
「感謝だけで良いのかな…」
「元よりこれは契約。その契約元から送られてきておるのだから、そう畏まる事もなかろう?」
「そういうもの?」
「そういうものじゃ」
一先ずその話は一旦置いておいて、送られた瑠華の武器をウエストポーチから取り出した。
「カッコイイ…!」
取り出された薙刀は光を飲み込む程の黒さを誇る刀身に、持ち手には鮮やかな紅の装飾が施されていた。瑠華であっても、思わず目を見張る程の業物だ。
「銘は…“明鏡ノ月”か」
「綺麗でカッコイイねっ!」
「そうじゃのう。この武器に恥じぬ動きが出来れば良いが」
「瑠華ちゃんなら出来るでしょ」
「妾はそこまで武器の扱いに精通しているわけでは無いからのう」
(壊すのは得意じゃが)
というか、レギノルカの身体に当たったら勝手に壊れたというのが正しい。
「ふーん…私のも入ってるかな?」
「奏用のウエストポーチもあったはずじゃ」
瑠華のポーチは真っ白な布地だったが、奏のポーチは真っ黒な布地であった。
それに手を突っ込めば、出てきたのは二本の刀。
「二本?」
「恐らく片方は将来的に奏が使えるようになる刀じゃろうな」
刀は両方とも持ち手と鞘が紺碧であったが、その刀身はそれぞれ異なっていた。
「鉄っぽい色と、銀っぽい色だね」
「後者が業物であろうな。じゃが、前者も今の刀より余程良い物じゃろう」
「…銀の方は、“晴雲ノ
「いや、これは使用者の癖で変化する武器じゃろうな。使い続ける事で、自ら銘を刻むと言われておる」
「なんだか生きてるみたいだね」
「そうじゃのう…その銘が刻まれた時が、奏がもう一方の刀に認められる時とも言えるかの」
「基準になる刀って事ね。分かりやすくていいじゃん」
これを実戦で使うのが楽しみで仕方無いという気持ちを隠すこともない笑みを浮かべ、ポーチに仕舞う。
「…良い顔をしておる」
「ん? 何か言った?」
「いや、何も。ほれ、早く寝ねば明日に響くぞい」
「そだね。明日も第三ダンジョン?」
「そうじゃな。あれを攻略するのが目下の目標であろうな」
東京第三ダンジョンは全五階層からなるダンジョンであり、奏達は現状四階層の中間までしか到達していない。よって今のところの目標は、五階層までの踏破である。
「あっ」
「どうした?」
「瑠華ちゃんから身体強化魔法教えてもらってない!」
「…すっかり忘れておったのう。明日ダンジョンに潜る前に少し教えよう。今日はもう寝るぞ」
「うんっ」
……ちなみにちゃんとジャンケンで勝った奏であった。
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