第25話
「今回作るのは全粒粉のクッキーじゃよ」
「えと、普通のクッキーと何が違うの?」
「普通クッキーなどの菓子には薄力粉を用いるのじゃよ。全粒粉は薄力粉に比べカロリーが低く、栄養価が高いでの。普通に作るより良かろう?」
:おぉ、カロリー低いんだ。
:お菓子作りにも気を配るさす瑠華。
「でも美味しいの?」
「味は保証する。それに自ら作った物ならば美味しさも
:それはあるよね。
:初めて作った料理とかね。
「早速始めるかの。皆しっかり手は洗ったか?」
「洗ったー!」
「ではまず全粒粉を計るのじゃ。ミリ単位で調整せよとは言わんが、一、二グラム程度の誤差で済ませるようにのう」
「はーい」
「茜、皆を頼むぞ」
「任せてっ!」
茜は瑠華から偶に料理を教えて貰っているので、食べ物を作ることには慣れている。なのでこの後の事を任せても問題は無いだろう。
:茜ちゃん頼られてウキウキなの可愛い。
:でもモザイク…
「外さないからね? 流石に小さい子達を写すのはリスクあるし」
:それはそう。
:奏ちゃんもしっかりしてるよね。
:ネットリテラシーは大人でも低い人居るからな…
茜に監督を任せ、瑠華がプリン作りに着手する。
「こちらも分量を計るかの」
「砂糖と牛乳だよね?」
「うむ。プリン液に使う分の砂糖は二百四十グラム。それと牛乳が千二百CCじゃの」
:結構多いね。
:分量的には…十二個くらい?
「そうじゃよ。ただ量が多すぎると失敗もしやすいのでの。半分ずつで作るのじゃ」
「りょーかい!」
奏達がそれぞれの分量を計る傍らで、瑠華がテキパキと砂糖を用意して水と混ぜてカラメルを作り始める。
「それ何?」
「カラメルじゃよ。初心者には少し難しいからのう」
:焦げやすいんだよね。
:それと仕上げが危険。
「仕上げ?」
「カラメル作りは最後に水、若しくは湯を入れる必要があるのじゃが…酷く跳ねるのじゃよ」
「へぇ…なんでそんな危険な事するの?」
「温度の上昇を緩める為じゃな」
:へーそうなんだ。
:作った事あるけど、理由までは知らなかったな。
「料理であれ何であれ、原理を知る事はそれそのものへの理解が深まるだけでなく、楽しさも生まれる。何か気になった事があるのならば、その時に調べるのが最も良いタイミングじゃよ」
:はーい!
:これはママというより先生では?
:瑠華先生…アリだな。
「まぁ呼び名はどうでも良いが……うむ。出来たぞ」
龍眼を用いての完璧な温度管理の元、焦げも無い綺麗なカラメルが出来上がる。これぞ能力の無駄遣い。
予め用意しておいた耐熱カップに出来上がったカラメルを均等に注ぎ入れ、次に計り終えた牛乳を鍋に入れる。
「牛乳を加熱する前に卵と砂糖をしっかり混ぜるのじゃ」
「これも半分ずつやるの?」
「そうじゃよ」
「ふむふむ。じゃあここからは私達がするね!」
「うむ。気を付けることは沸騰しないように見張る事くらいじゃよ」
「分かったっ!」
「頑張る」
一先ず任せても大丈夫だろうと判断し、小学生組に合流する。すると既に分量は全て計り終えており、瑠華の指示待ちであった。
「ちゃんと出来たかの?」
「出来たー!」
「よし。ならば次は生地を作る作業じゃな」
ボウルに常温に戻した無塩バターと計った砂糖を入れ、白っぽくなるまで掻き混ぜる。
「しんどいぃ…」
「交代しながら頑張るのじゃ」
:小さい子には重労働だね。
:常温に戻してもまぁまぁ固いからね。
白っぽくなったら次に卵を入れて馴染ませる。
「混ぜるの多いぃ…」
「もう折り返しじゃよ。頑張れ」
:頑張れ!
:頑張れって言ってもこの子達見えてないけど。
「む? 確かにそうじゃの…暫し待て」
そう言って瑠華が部屋へと戻ると、タブレットを持って下りて来た。それと奏が作ったアカウントを同期させ、子供達が見やすい位置にスタンドで立てる。
「これで見えるかの?」
「見える!」
:ナイス瑠華ちゃん!
:てかしれっと奏ちゃんのアカウントにアクセス出来るの草。
「奏は分かりやすいからの」
ちなみに奏が何時も使うパスワードは『rukana』か『hiruka』である。分かり易いったらありゃしない。
卵とバターを馴染ませると、最後に用意した全粒粉を入れて軽く泡立て器で混ぜ解し、次にゴムベラで切るように混ぜる。
「形になってきた!」
:おおーここまでくると生地だ。
:後は冷やし固めるの?
「そうじゃの。アイスボックスクッキーであれば棒状にして冷やすが、今回は型抜きじゃからこのまま軽く冷やしてその後に広げるぞ」
:アイスボックスクッキー?
:生地を棒状にして冷やし固めて、その後包丁で切って焼くクッキーだぞ。
:簡単なんだよね、あれ。大きさも揃うし。
「本来生地を冷蔵庫で冷やすのは一時間程掛かるのじゃが…」
「えぇ〜そんなに掛かるの?」
「早くやりたい!」
待ちきれないといった様子の子供達に苦笑しつつ、纏まった生地が入ったボウルの縁に指を乗せる。
「じゃから今回は、少しばかりの狡をしようかの」
「ズル?」
瑠華がボウルに乗せた指から魔力を流し、ボウル全体を包み込む。
「―――凍れ」
その言葉と共に発現した魔法が一気に温度を下げ、ガラス製のボウルが白く結露した。
:氷属性!?
:複数属性持ちなの!?
:マジでなんでも出来るじゃんwww
現代において魔法というものを扱うには、その属性の“因子”が必要となる。
因子はダンジョンに潜る事で獲得する事が出来るが、一属性の因子を獲得出来れば運が良いと言われる程に、獲得する事自体珍しいのだ。
「凄ぉぉい!」
「瑠華お姉ちゃんもっかい!」
「もう一回すれば完全に凍ってしまうからの。今回はここまでじゃ。さて、これを伸ばしていくぞ」
「瑠華ちゃぁん! 次どうするの!?」
「……茜、後を任せる」
「うんっ」
:奏ちゃんwww
:まぁ指示は牛乳あっためるまでだったし…
弱火でじっくりコトコトと温めたからか時間が掛かっていたが、その甲斐あって無事沸騰させる事は無かったようだ。
「一人がプリン液を掻き混ぜながら、牛乳を注ぐのじゃ。良いか、少しずつじゃぞ」
「分かった!」
不安はあれど瑠華が全てをやっては意味が無いので任せて、クッキーを焼くためにオーブンの余熱を始める。
:そこはかとなく不安。
:ま、まぁ瑠華ちゃんが見てるし…
視聴者も何か起きるのでは無いかとヒヤヒヤしていたが、その予想を裏切り無事にプリン液を混ぜ終わった。
その後静かに耐熱カップに均等に注ぎ入れ、深めの鍋に薄い布を敷いて、その上にカップを並べる。
「後は半分程度まで水を注ぎ火にかければ良い」
「これで放置?」
「いや、最初は中火で、湯気が出始めたら弱火に切り替える必要がある。ここは妾が見ておく故、クッキーに混ざってきてはどうじゃ?」
「じゃあそうする!」
:マジでお母さんwww
:見た感じ簡単だし、やってみようかな。
「む? であれば……ほれ」
瑠華が指をスイっと振れば、突如カメラの目の前に文字が現れる。
:ふぁっ!?
:おぉレシピだー…ってナニコレ!?
「〖魔法板〗と呼ばれるスキルの一つじゃ」
これは瑠華がレギノルカであった時から持っている、〖魔法板〗と呼ばれる
(知識を与えるには、言葉だけでは不十分だったでのう…)
このスキルは、脳内で思い描いた物全てを正確に空間に描画する事が出来る。これのおかげでレギノルカは、一切の誤解無く知識を人に齎す事が出来たのだ。
:聞いた事ない…
:固有スキル?
「まぁそんなところじゃな」
:ほへぇ…
:でもこれ結構便利だね。
:攻撃とかには使えないけど、こうして情報を伝えるにはめちゃ使えるね。
……実はその板が攻城魔法をも耐えうるというのは、全くの余談である。
(そういえば、昔このスキルで人と
―――この龍何してんのほんとに……。
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