第10話 魔剣
老人に手をかけ、それを目撃した風間ヤオにまで強烈な一撃を与えて保身を図ろうとした学生たち。
二人の掃除屋を捨てようと進言した上野という名の学生は、二人の男子に着ていた服を脱がせ、それを裂いて即席のロープにした。
ヤオの両手両足を縛って拘束しているうちに、自分のしていることに快感を感じるようになったのか、にんまり笑いながら残りの三人に声をかけた。
「大丈夫だ、やり過ごせる。ここは破壊の女神がつくった大穴だろ? 奥に進んだところに底なしの穴に繋がる場所があるって家庭教師から教わったことがある。そこに行けば何とかなる」
「そこに捨てるっての……?」
さすがにそれはまずんいじゃと戸惑う上半身裸の学生たち。
「当たり前だろ。掃除屋が二人いなくなったところで誰も気づかないって」
「だけど上野……、これは絶対……」
何か言いたげな仲間に対し、上野はじれったそうに身をよじる。
「あ~、誰のせいでこんな事になったと思ってるわけ!? せっかく俺があれこれ調整してやったのに、お前らがヘボいせいで出遅れたからこうなったんだろ~!?」
しんと静まる。
学生たちがつまらないやり取りをしているせいでヤオの意識は元通りになりつつあったが、両手両足動かないせいでどうにもならない。
助かる手段はひとつしか無い。
「誰か!」
力の限り叫んだ。
「助けてくれ!」
その瞬間、上野はヤオの顔や腹に何度も蹴りを食らわせて黙らせた。
「運べ! もたもたすんな!」
おどおどする二人の男に怒鳴りつつ、一人だけ逃げようとした女の子の髪をつかんで、強引に引き寄せた。
「逃げんな。全員で地獄に行くんだよ」
そして女の子を引きずっていく。
いやいやとしくしく泣く女の子。
そして痛みで言葉も出ないまま、引きずられていく風間ヤオ。
立ち入り禁止区域の中へ入る。
照明は失せ、道も補正されていないボコボコした土。
整備された訓練場から、自然のままの洞窟へと様変わりしていく。
冷たい空気がどこからか吹いてきて、服を脱がされた男たちがガタガタと震え始めるが、上野が目指す底なし穴に通じる場所にはまだ辿り着かない。
ゆえに上野は言った。
「ここまで来ればもういいか……」
遊びに飽きた幼児のような顔になって、周囲を見回す。
「めちゃくちゃ広いんだな、ここは……」
まるで球場のような広大な空間にやって来ていた。
そして上野は気づいた。
「なんだ、あの剣……」
小太刀と呼ばれるサイズの日本刀が、美しい彫刻が彫られた鞘に包まれながら、ふわふわ浮いていた。
照明が何一つないのに歩くのに全く苦労しないくらい視界が良好なのは、あの刀から放たれる輝きのおかげだと上野は気づいたらしい。
「なんかすげえの見つけた。なあ、コバ、サメ、あんな凄い武器、俺は見たこと無いんだけど、お前ら、迷宮の武具には詳しいよな」
あだ名で呼ばれたふたりの仲間は頷きあうと、妖しい光を放つ刀におそるおそる近づいていく。
「すげえなんててもんじゃない……。サメちゃん、これ……」
サメちゃんと呼ばれた学生は自分のスマホから何か情報を探っているらしい。
「とんでもないよ、この刀は……」
自分たちが犯罪者になりつつあるやばい状況だというのに、そんな不安はすっぽり頭から抜け落ちて、ただただ口を半開きにして日本刀を見つめ続けている。
魂を抜かれるとはまさにこれ、といった顔だ。
サメちゃんは自分が知る限りの情報を持って、この刀がなんであるかひとつの仮説を打ち立てたようだ。
「ここは桐島クランが作ったダンジョンだから、必然的にこの刀も、破壊の女神が作った刀ってことになる」
まじかと学生一同、目を丸くする。
刀にびびって近づこうとしなかった上野もとうとう刀に吸い寄せられた。
「破壊の女神って、魔力が強すぎて武器とか作っても、使う人間が耐えられずに死んじまうから、誰に頼まれても作ろうとしなかったって、本で読んだぞ?!」
驚く上野にコバちゃんという学生が深く頷く。
「その通りなんだけど、このダンジョンができるきっかけが突発的なものだったからね。新生の女神が繰り出した隕石で東京が燃えないように破壊の女神がはじき返して、その結果できたダンジョンだから、この刀も作ろうと思って作ったモノじゃ無くて、偶然、仕上がってしまったものなんだと思う」
上野が飛び跳ねんばかりに叫んだ。
「大発見じゃないか! 桐島クラン関係のものってほとんど聖戦で燃えて残ってないって話だろ?!」
「ああ、国宝レベルの武器だと思うよ」
盛り上がる三人の学生であったが、今まで黙ってそのやり取りを眺めていた唯一の女子がくだらないとばかりに吐き捨てた。
「あのさ、一万回処刑しても許されないくらいだっていう犯罪者のアイテム手にしたところで、なんになるっての?!」
女はすべてのうっぷんを声に出した。
怒りのあまりに土を殴るほど叫んだ。
「今をどうするか考えてよ! 私は家に帰りたいの! 帰りたいのよっ!」
そして泣く。ギャンギャン泣く。
「うるせえな……」
上野は舌打ちした。
蹴ってやろうかと少し近づいたが、
「とにかくこの刀は持って帰ろう。何かしらの言い訳にも使えそうだしな」
悪人スマイルで仲間達を見て、ドン引きさせた後、
「おたからいただきまーす」
と、宙に浮く刀に手を伸ばそうとした。
その時だった。
「触れてはいけない! 呪われるぞ!」
女の声がして、四人の学生は現実に返った。
そして慌てたように声が聞こえた方を見た。
そこにいたのは立花詩織だった。
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