第7話(オレには金が必要なんだ)

鉱山とダンジョンを行き来すること、約一月が過ぎた。一月とは、大きい方の月が満月から次の満月になるまでの期間を指す。この一月は四つの週に分かれており、満月から右弦月、右弦月から隠月、隠月から左弦月、そして左弦月から再び満月へと戻ることで、一月が完結する。各週は七日間で構成されており、一月は合計で二十八日となる。


この国では一年が十三月で構成されており、すべての月が大きい月のサイクルを基準にして計算される。また、小さい方の月は大きい月に隠れて見えなくなることがあり、月日を数える基準としてはあまり用いられない。


閑話休題


レイたちは、あることに悩まされていた。アルから純金が必要だと言われ、それを入手してくれと頼まれたが、金山がどこにあるか全くわからない。そこで金貨で代用しようということになったが、手持ちをすべて合わせても70,000ゴルドちょっとで、銀貨八枚にも満たない。金貨と交換するには、あと銀貨三枚以上を稼ぐ必要があるが、両替だって馬鹿にならない。交換するのにも手数料がかかり、その手数料分で串焼き一本買えてしまうからだ。


今朝はいつもの露店のパン屋が休みだったため、宿屋の近くにある大衆食堂に入って、アルと話をしていた。


「なぁ、本当に金貨が必要なのか?」と眉をひそめながら、レイが尋ねた。


「はい、正確には金貨に含まれる純金が必要です。金山でも見つかれば良かったのですが、こればかりは運が良くないと見つけられません」アルは冷静な声で答えた。


「そうだな、でも元手が心許ないから、やっぱり稼がないといけない」とレイは答えるが、アルは軽い口調で言った。


「レイ、そんなに大量に必要なわけではありません。誰かの金貨を少し齧らせてもらえれば足りると思いますが?」


「そんな恥ずかしいこと、お願いできるか!」レイは顔を赤くして声を張り上げた。


「そんな大声で叫ぶ方が十分恥ずかしいですよ。周りの皆さんがこちらを見てますし」


「うぅ!」周りから「なんだアイツ?」みたいな顔で見られている。


「なぁ、アル、他の方法で会話することはできないのか?みんなの前で一人で話してると、変に思われるし…。」レイは周りを気にしながら、小声でボソッと呟いた。


「現在のリソースでは、私たちは音声を通じてしかコミュニケーションできません。しかし、リソースさえ確保できれば思考を直接読み取る方法を試みることができます。少し時間がかかりますが、試してみましょう」アルは冷静に説明した。


「リソース?」レイは眉をひそめた。


「今は私に余裕が無いということです」アルが淡々と答える。


「じゃあ、余裕ができれば声を出さなくても意思疎通ができるようになるんだな。それなら助かるよ、頼んだ、アル!」レイは少し希望を見出したように微笑んだ。


「リソースが確保できたらですよ。リソース。それを増やすには純金がいるのです」アルは軽くため息をつくように話す。


「分かったよ。ここ最近、体調だけは良いから、依頼をこなして金を稼ごう!」レイは決意を新たにした。


レイたちは宿屋の食堂を出てギルドに向かった。ギルドに着くや否や、レイは真っ先に依頼ボードに駆け寄ったが、当たり前のように良い報酬の依頼はほとんど取られており、常時依頼しか残っていなかった。


「レイ、その常時依頼のオーク討伐、オーク肉の買取というのはどうですか?魔石も銅貨三十枚で、肉も買い取ってもらえるなら、すぐに稼げると思うのですが?」とアルが提案する。


「いやいや、オークって体高二メートル超で、猪を二足歩行にしたような魔物で、たまに太い棍棒とか斧を持っていたりするんだぞ。一発で死ぬ自信がある。オークには嫌な思い出もあるしな。それにこれはDランク依頼だし」レイは顔をしかめた。


「そう言えばレイはまだEランクでしたね」アルは淡々と言った。


「なんか傷つくな〜」レイは少し落ち込んだ様子で言った。


人もだいぶ減ってきたので、レイは受付のセリアさんにも相談してみることにした。


「セリアさん、ちょっと相談があるんですが…」とレイは受付に向かう。


「あら、レイ君。どうしたの、改まっちゃって?」とセリアさんが優しく微笑む。


「実は、ちょっと入り用になっちゃって、稼ぎが良い依頼を探してるんです。」


「依頼ねぇ…、Eランクだと、ちょっと前までは毒消しポーションの素材が品薄で薬草採取の依頼が割高だったんだけど、今、見合わせてるの」


「なんでですか?」レイは驚いて聞き返す。


「ドゥームの森のすぐ手前に毒消し草が群生しているところがあるでしょ」


「ああ、森の入り口の前ですよね」とレイが頷く。


「そこの近くでもオークの目撃情報があったの。なので、毒消し草採取はオーク討伐が可能なDランク指定になっちゃったの。Eランクだと毒消し草採取は安全が確保されてからになるわね」


「そんなにオークが出てるんですか?」レイは不安げに聞いた。


「まだ単体での報告だけだから、はぐれが迷い込んでるだけかもしれないんだけどね。あ、レイ君は行っちゃダメよ。一人じゃオークとか対処出来ないでしょ?」


「ですよね〜」とレイは肩を落とした。


「後の依頼で残ってるのは、市場の盗難防止の警備と、商品の荷下ろしと倉庫への運び込みと畑に出てくる角うさぎ討伐ね」セリアさんが依頼書を整理しながら言う。


「稼ぐには、どっちもどっちって感じだなぁ。セリアさん、分かりました。また来てみます」とレイは少し落胆しながら答えた。


「ちゃんとパーティ加入も考えておいてね。ソロは危ないんだから」とセリアさんが心配そうに言う。


「はーい、前向きに善処します」レイは軽く手を振った。


「もう…」とセリアさんが膨れっ面になった。


セリアさんと別れ、ギルドから出てきた。やはり、良い依頼は無く頻発してるオークがネックで、低ランク冒険者の仕事はかなり絞られてしまいそうだ。


「まぁ、別の依頼中にたまたまオークに出くわして、やむを得ず倒した場合は、自己責任だしお咎めもないけどね」レイは独り言のように呟いた。


「ほう、そんな裏技があるんですか? では、倒しに行きましょう。私に良い考えがあります」アルが興味津々に聞く。


「裏技とかじゃなくて、ランクに見合わないと危険を伴うんだぞ。本当に大丈夫なのか?また騙さないよな?」レイは疑わしげだ。


「私が騙したことありましたか?」アルが無邪気に返事をする。


「ジーー…」レイは半眼でアルを睨みつけているフリをした。


「レイ、そんな顔をしていると、また変な人だと思われますよ?」


「うるさい…」


このところアルに、毎日、弄られている気がするレイであった。



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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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今は誰にでも金が必要なんだよ〜。だって物価高すぎる。

まぁ不要だって言う人は少ないと思いますが。

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