第10話 成昌について、いろいろと問いかける
「そんな話を成昌の同級生だった子から聞いたわけ」
「うへぇ……え、けどそんな話だけで信じたわけ? 成昌の霊能力っていうか実力」
「まぁ、さすがにそれだけじゃ信じなかったけどね」
「ですよねぇ……」
さすがに友人がそこまで
「だから、その話を聞いたあと成昌に
「失せ物?」
「失くしたもの――落とし物っていったほうがいいかな? それがどこにあるのかを占いで探してもらったわけ」
「……まぁ、うん。で、どうだったの?」
より正確には持ち物だけでなく、自分の周囲にいる人物なども含まれるのだが、桔梗はそのことには触れずにいた。
触れられていないことがあることにまったく気づいていないし、そもそも詳細な説明は求めていないため、文香は呆れたとでも言いたそうな表情で聞き返す。
占いで落とし物が見つかれば苦労はないし、そもそも公共機関に遺失物保管庫が必要なくなるし、そんな便利能力があるならぜひとも自分で使えるようになりたいと思う。
そうは思うのだが、一応、結果を聞いてみたい。
その欲望のまま、文香が結果について問いかけると。
「見つかったよ」
「……普通に考えて、それってたまたまなんじゃ?」
あっけらかんとした様子で返答する桔梗だが、文香はまだ疑っていた。
有名占い師の占い結果が的中した、という話はよく耳にするものだが、占いの結果というものは後からいくらでもこじつけることができる。
成昌の占いの結果もその手のものなのではないかという疑問から出てきた言葉なのだが。
「って思うじゃん? だからもう一回試すって意味で、実家に住んでるお父さんが何年か前に失くしたトンボ玉がいまどこにあるか占ってもらったの」
「ほうほう」
遠縁であり、成昌と桔梗の家はかなりの距離が離れている。
おまけに、成昌と桔梗の父は面識がほとんどないうえに、家の構造から周囲の地理情報もほとんどない。
事前情報がほとんどない状態であるため、よほど感度のいい当てずっぽうか、それとも成昌の占いが本物か。そのどちらかでなければ探し当てることは不可能だ。
その結果は。
「見事、当てました……」
「え、まじ……?」
さすがに遠距離で、しかも面識がほとんどない状態の血縁者が家の中で数年前に失くしたものを見つけ、自分が占いで示した場所に事前に置いておいたなどという小細工はできない。
まして、見たことがあったから失せ物の行方を推理してその場所を結果として伝えるということもできはしない。
まさかの事実に文香が驚愕しながら本当なのか問いかけると、桔梗はまじめな様子で。
「まじ」
と返した。
「だからひとまず、霊能力が本物っていうのは信じることにしたの」
そうして、成昌よりも人当たりのいい桔梗が、小学校の頃からの噂を聞いて頼ってきた生徒と成昌を橋渡しすることで、同級生たちの悩みや遭遇した怪異に対応していったそうだ。
もっとも、成昌は自分の能力が必要となる範疇の外にあるものと判断した場合は、教師やその生徒の保護者、あるいは部活動の先輩に相談するように伝えていた。
中学になると頼まれる内容の大半がそんな内容になったため、次第に噂を頼りにして相談にやってくる生徒は減っていき、本当にもはや占いに頼る以外の方法がないところまで追い詰められた生徒や、本物の怪異に遭遇してしまった生徒以外、その能力は眉唾物と考えるようになったそうだが。
「まぁ、わたしも窓口になった手前、どんな結末になったのかは見てみたいから、最後まで付き合うようになったの。そうしているうちに、成昌は本物の霊能力者だってことがわかるようになったというわけ」
「はぁ、なるほどねぇ……ちゃんと実績はあるわけだ」
「そういうこと。だから、ちゃんと報酬は支払ってもらうからね?」
相談した時には出てこなかった単語に、文香は思わず素っ頓狂な声をあげる。
「はぁっ⁈ ちょっと待ってよ、報酬? 聞いてないよそんなの!」
「だって言ってないもん」
あっけらかんとした顔で桔梗が返す。
成昌に相談を持ち掛けた場合、内容にもよるが失せ物に関する占いであれば紙パックのジュース一本。怪異の解決であれば、菓子類か総菜パン。なお、個数は解決にかかった日数に応じて応相談、ということになっている。
それを説明する前に、成昌が文香の態度に腹を立て、投げ出すようなことをしてしまった。
文香が知らないというのも当然のことだ。
「聞いてないんだけど! なんでこんなオカルトじみたことに相談料みたいなものを支払わないといけないのよ⁈ てか、何気に現金じゃないってのが余計に腹立つ!」
聞いていなかったし、説明もされていなかったということもあり、文香の怒りは当然だ。
だが、桔梗はその怒りを華麗に受け流し。
「とはいうけど、成昌からしてみたら自分の能力を切り売りしてるわけよ? むしろ現金を要求されないだけ、まだ良心的と思ってほしいくらいじゃない?」
正論を返す。
罪には罰を、罰には許しを。労働にはそれに見合った報酬を。ということなのだろう。
逆を言えば、求められればそれなりの助力を与えるということでもある。
それが怪異を解決したり占いを行ったりする上で、譲ることができない部分として成昌の中にあるのだろう。
多くの相談者は現金を求められていないという点と、一度だけ報酬を支払えばいいというだけであることから、わりとすんなり受け入れているところがある。
また支払期限も特に設けていないため、遅れはしてもちゃんと支払ってくれることが多い。
だが、そのことを逆手に取っていつまでも支払いを先延ばしにしていたり、良心的と思われている報酬すらも支払いを渋ったりする生徒がいないわけではないようだ。
もっとも。
「まぁ、支払いをしなくても別にいいみたいだけどね」
「え? そうなの?」
てっきり、取り立て屋のようにしつこく追い掛け回してくるのかと思っていた文香は、桔梗の意外な言葉に目を丸くする。
桔梗はその反応に首を縦に振って返すが、けれども、と付け加えた。
「後になってまた困ったことが起きて、相談に来ても今度は手助けしてあげないってだけらしいから」
リピーターというものは、一度受けたサービスに満足して再度利用しようという心理が働いているものだ。
当然、成昌の所にもリピーターは何度か来ている。
だが、その生徒が支払いを忘れていたり、未払いであるにも関わらず、我知らずといった顔をしていたりしていた場合、話は聞いても手を出さないということにしているそうだ。
もっとも、桔梗はそうなった現場を見たことがないため、窓口である彼女でも真偽のほどはわからないそうだが。
「ま、そんなわけだからちゃんと報酬は支払ったほうが身のためだと思うよ?」
「わ、わかりました……」
桔梗から静かな圧のようなものに文香は少しばかり気圧されながらそう返す。
何かをしてもらったらお礼をする。何か形のあるものを渡さなくとも、お礼の
人が社会の中で生きていくために必要な、最低限の常識だ。
一般社会ではそれができなければ付き合い方を改めた方がいいとすら言われるものであるため、社会人には浸透しているものではある。
だが、まだまだ幼い未就学児はともかく、昨今はその最低限の常識がまったく備わっていない小学生以上の未成年者が増えている傾向にあるという。
そのためなのか。
「まさか文香はその程度の常識も守れないような、屑人間になり下がるつもりはないよね?」
口元では笑みを浮かべるが、目が全く笑っていない状態で桔梗が文香に問いかけた。
そのあまりに強い恐怖感と威圧感に負けたのか。
「あ、はい。ありません。ちゃんとお礼、します」
すっとぼけて報酬を支払わないでいることができる、と聞いた時から、払わないでいいというのなら払わないでいいか、とも思っていたことは事実だが、この笑顔と威圧感に敗北したのか、文香は少し片言になりながらではあるがそう返答していた。
その言葉に、桔梗は満足したらしく。
「うん。よろしい」
にこやかに微笑みながらそう返し、先に進み始めた。
ここまでの会話ややり取りを一つも見ていない同級生が見ていれば、桔梗のその笑顔に頬を赤く染め、見惚れていたかもしれない。
だが、真正面からその笑みを見ていたはずの文香の顔は、少し青ざめていた。
――な、なに、さっきの笑顔……目が笑ってなかったんですけどぉ……
口元、目元は確かに笑っているように見えた。
だが、その瞳に喜びや楽しいという感情は浮かんでおらず、冷たい光をたたえているようにしか見えなかったのだ。
そんな笑顔ができる桔梗に、恐ろしいものを感じながら。
――ちゃんとお礼、しよう……少なくともお守りの分くらいは
と、改めて心に近い、文香は桔梗の後ろを追いかけていった。
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