第17話 第四階層 『みずや』

水屋みずや····?」


ウチの問いに対して想狐さんは「せや」と答えた。


「この試練げぇむは個人戦、1人1部屋で挑戦してもらう。そして水屋の中に閉じこもってもろうて、生き延びる事が出来たら試練合格げぇむくりあや」


「閉じこもって生き延びる····?」


ウチは何か悪い予感がしてならなかった。今回もまた、あの『茶室』のような心理的駆け引きを要求されるのかと身構えた。


「水屋には計測器たいまぁが置かれとるから、そこの数字は自分たちで見ることやね。そしてこの水屋には様々な道具あいてむが置かれとる。そしてそれを1つずつぶろっくに変換する事が可能や。変えられる利点めりっとは、入ってからのお楽しみや」


誰一人として良い顔をする者はいなかった。これまで想狐さんに散々弄ばれてきた人達だ。今更想狐さんの言葉をその通りに受け取るなんて、居るわけも無かった。


「更に詳しい規則るぅるは、全員が会場に入ったら始めよか」


想狐さんはそう言うと手を前にかざし、触れること無く8つの襖を開けた。


全員が何かを口にする訳でも無く、それぞれの場所に立つ。


「ほな いってらっしゃい。怖がらず挑むことやねぇ」


ゆっくり前に進むウチらの耳に届いた言葉は、それが最後だった。














「ここが会場の水屋······」


会場は4.5畳ほどの和室に、柄杓ひしゃくに炉、漆器に茶掃箱、実に10種類近くの道具が置かれており、水屋という名の通り、しっかりと蛇口まであった。


すると、入ってきた襖が突然ピシャリと閉まった。


『全員部屋に入ったようやねぇ、ほな、ここから試練げぇむ規則るぅるを説明したるわ』


どこからか想狐さんの声がこだました。


『今からその水屋の蛇口から水が流れ続ける。その部屋を水没させるまで水が止まる事はあらへん。更に目の前の障子からは水屋を目掛けて矢が飛んでくる。矢の大きさは障子の枠の紙1マス分や。どこから飛んでくるかはランダムや。障子が貼られている限り、そこへは矢が無限に飛んでくる。』


ウチは試練の難易度が上がってきているのを序盤の説明で痛いほど理解した。浸水に飛矢ひや、今のところ生きれる道が全く見えない。


『せやけど、仮にその矢に当たってもアンタらは死なへんし、ちゃんと防衛策がある。それは目の前の道具あいてむぶろっくに変える事が出来る。やり方は変えたい物を持ちながら「ぶろっく」と唱えるだけや。ぶろっくの大きさは障子のマス4マス分や。どこにどう置くかは、アンタらの自由や。ぶろっくをそこに置き続ければその範囲はぶろっくをどかさん限り、永遠に矢から守ってくれる』


防御策は10種類の道具を「ぶろっく」と唱えて変える事のみ·····。障子のマスの数は2枚合わせて48マス、ぶろっくは1個4マス分、全部ぶろっくにした場合、最大で10個だから全部で40、わずかに足りないように設定されている。


恐ろしいまでのいやらしさを感じる試練だ。


『さて、説明はこんなモンやねぇ。最後にこの試練げぇむは、生き残るすべを見つけるための試練げぇむや。皆、早々に生きる道を閉ざさんようになぁ』


そう説明する想狐さんは笑みを浮かべながらきっと話しているのだろう。ウチはもう容易にその姿が想像出来るようになってきた。








『ほんなら、試練げぇむ開始すたぁとや』







第四階層、『水屋』、8人の挑戦が今始まった。









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