第13話 おとしあい

「どうして蝋燭が1つ減ってんだァ!? 争わない試練じゃねぇのかよ!?」


浄眞じょうまさんが憤慨する。その気持ちはウチも痛いほど分かる。


4人しかいないのに、立っている蝋燭は3つ。つまりは必ず誰か1人、あと5分で命のが消えてしまう。


想狐さんが言っていた、皆仲良くというのは、わずかな友情でも育ませてからおとしいれる罠だったのか? ウチは思考を巡らせる。


「チンタラしてる時間なんてねぇ!! 俺は先に行く!!」


浄眞さんはそう言うと、全力で走り、蝋燭へと向かっていった。


その時ウチはあることに気付いた。


「ダメです浄眞じょうまさん!! 走る風でが消えます!!」


「!? チィっ!!」


ウチの叫びに、浄眞じょうまさんは慌てて足を止める。


手のひらに収まっている灯はゆらゆらと揺れ、今にも消えそうだった。


しかし、僅かながらにともり続けていた。


「間に合った····」


ウチはホッと胸を撫で下ろした。







束の間――――――――――――――――














「フンっ!!!」


「ガァッ!!」






龍吾さんの鋭いハイキックが浄眞さんの首に思いっきり入った。



「ぐっ!!」



浄眞さんはその場に倒れ込む。そして起き上がる隙も与えず、龍吾さんは浄眞さんの大きく出たお腹を思いっきり踏みつける。



「ガハッ!! テメェ····何のつもりだ······!?」


すると龍吾さんは生き生きとした笑顔で浄眞さんを見下し、口を開いた。


「この試練はどうやら1人ずつ消えなければいけないようだからな。この後何回続くか分からん。最後の1人になるまで殺し合わなければならない可能性もある。そうなれば話は簡単だ。1番厄介そうな者から手をかける。残りの華奢な女2人、隙をついて攻撃するまでもない。いつだって私が優位に立てる。よって貴様をこの試練の最初の脱落者を選ばせてもらった。光栄に思え」


「ぐぅ····ァァッッ······!!」


龍吾さんが踏みつける力を上げたのか、浄眞さんの呻き声は聞くのも痛々しいまでになってきた。


「喜ぶが良い、女共! お前たちはこの私によって、この部屋で生き延びる事が出来た。私に感謝しろ。そして醜き五段冒険者よ、目先の物に食い付いた貴様の負けだ。五段というのも型なしだな。冥土の土産に、滅多に見られない私の笑顔を持っていくといい」


めろ······俺がテメェに何したってんだ····!!」


「これ以上の会話は不要と判断する。サヨナラだ」


めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


龍吾さんは浄眞さんの持つへ顔を近づけた。


灯のつき方はあまりにも弱々しいため、もし仮に握ったりなんてしたら、それこそ消えてしまいそうだ。


それ故に浄眞さんも強く握って隠す事が出来ない。









フゥッ―――――――――――










龍吾さんは浄眞さんの持つを一息で消した。



「嫌だ······嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! まだ死にたくない!! 死にたくないぃぃぃぃぃぃ!!!!!」



浄眞さんの悲痛な叫びとは裏腹に、その身体は優しく弱く、そして確実に消えていった―――――――





「ふふっ····ふはははははははははははははははははははははっ!!!!!!」



龍吾さんは本当に愉快かのように笑った。その笑い声は十数秒ほど、和室の中に木霊こだました。



「さて、これでこの部屋は全員生き残れる事が出来るな」


龍吾さんは先程の下衆な顔から一転、爽やかな笑みを浮かべてこちらを振り向いた。


ウチと未緒さんは、その状況に対して何も言うことが出来なかった。


ウチは考えた。これが本当に想孤さんが望む人の心を壊す試練なのか―――――?


殺し合いが目的なら、最初から蝋燭は1本にすれば良いのに。1本ずつこれから減っていくとしたら、長くゆっくり蹴落とし合いを楽しめるかもしれないけど、あの人は本当にそれだけが見たいのか? もっと何か更に裏があるんじゃないか―――――?


「さぁどうした? 2人とも、をつけないのか?」


龍吾さんから促され、ウチと未緒さんはそうするしかなく、大人しくを移す。


そしてまた後ろの畳が落ちる音がした。


再び蝋燭から分裂していくをウチらは手で抱え込み、ゆっくり下へと降りていく。



そして大きな薄暗い広間へと出た。



その先には蝋燭が『2本』立っていた。


「はははははははははははははっ!! どうやら私の読み通りのようだな!! この試練は最後の1人になるまで終わらない!! 私はここで生き残れる!! お前たち2人など取るに足りん!! さぁ、生き残りたくばこの私に出来る限りの奉仕をして見せろ!! その成果によって私自らが選んでやろう。貴様らは争う必要などない」


すっかり勝った様子の龍吾さんは声高々に笑う。


だけど、ウチは違う結論にたどり着こうとしていた。


想狐さんの言っていた事が本当だとしたら? 想狐さんは誰も争うことなく終われると宣言した。一見仲間内での殺し合いをさせるかのような状況、そこから生きた人に更に絶望や苦しみを味合わせるなら―――――――――――――





「もしかしたら、そうなのかもしれない······」


ウチは小さく呟いた。


「龍吾さん····」


「何だ、お前から先に奉仕するか?」


「違います····お願いがあるんです。ウチに、賭けてみてほしいんです」





「賭ける?」














「はい。この試練は、全員が生き残れるかもしれないんです」









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