第7話

 そんなこんなを繰り返した、とある秋の日だった。一般入所から帰って来て夕ご飯を配膳した。食べている間に寝室に行ってベッドメイキングをし、戻って来るとむせていた。そのむせ方は尋常ではなく、例えるなら台風で側溝から逆流した水が溢れだすニュース映像を見ているかのような、そんな喉の鳴らし方なのだった。今まで十五分や二十分で終わっていた食事が一時間もかかるようになった。デイサービスでも同じようで、痰がらみの咳が出て、吸引をすることもあると連絡帳に書かれてあった。ショートステイがすぐできるようになっていたので、老健の担当介護士にそのことを告げた。すると何日かして施設から電話がかかって来て、施設でも同様なので食材をミキサー食に変更してもよいか、またこれだと栄養不足になるので栄養補助食品をしようしてもいいか、との電話がかかってきた。自宅でのこともあるので、お願いする旨を告げた。次に施設から電話がかかって来た時には、一人で食事をすると口の中に物が入っているのにどんどん詰め込んで、なおむせてしまうので、食事は全介助にしていると言う旨の話しだった。止めてくれとも言えなかった。むしろ、お願いしなければならなかった。それほどまでに食事をすることが困難になってしまっていた。無論自宅に帰って来ても、同じで。私は施設の介護士からアドバイスを受けて、ドラッグストアで介護食を使用するようになった。父が好きだった魚料理は提供できなくなった。刺身も焼き魚も煮魚も父は食べることができなくなってしまったのだった。

 翌年には施設利用中にこんな連絡が入った。右足のかかとが褥瘡により、歩行困難になったというのだ。簡単に言えば、スタッフが起こさない限り寝たきりの状態になるとのことだった。ケアマネージャーから言われて、まだ期間中だったが介護認定の変更手続きを行った。結果は要介護三から要介護五に進んでいた。ケアマネージャーは再び特別養護老人ホームに入所の申請をしてくれた。順番待ちはもう何年にもなる。それはもう覚悟していることだったが、状態がこうなってしまっては一日でも早く入所できるようになってもらいたいというのが、正直な思いだった。そんな中での施設からの連絡は、食事は吸引しなければならないと言うことだった。誤嚥性肺炎の危険性があるからというのは明白だった。案の定、父はそれが原因で入院したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る