異世界の力で奇跡の復活!日本一のシャッター街、”柳ケ瀬風雅商店街”が、異世界産の恵みと住民たちの力で、かつての活気溢れる商店街へと返り咲く!
たけ
第一章 根津精肉店復活祭と会長からのお願い
第1話 "柳ケ瀬風雅商店街"
8月某日のオフィス街の一角。西日が俺の顔を照らすもカーテンを閉める余裕もない程、電話対応に追われている。
「え...その件はですね...次回もまたよろしくお願いします」と、先方に自社商品の説明が終わったかと思うと、また次の電話対応に追われる。
「ふー」と一息つきカーテンを閉めに行く。辺りから「根津さんありがとう」や「太郎サンキュー」など声が聞こえる。電話対応中の者は手を顔の前に出して、"ありがとう"を伝えてきた。
みんな、眩しかったんだな...。
そういえば午後4時を過ぎたが、昼飯を食べていなかったことを思い出し、デスクの引き出しから、お気に入りのお菓子を口に放り込んだ。
休憩おしまい...。
そう。誰に聞かせるわけでも無く、言葉が口から零れ落ちた。こんな食事を続けていたら、太れるわけもないな...。目の前に置いてある鏡で自分のやつれた表情を見ないようにしながら、また手近で鳴り響く電話に手を伸ばした。
まだ営業の仕事も2件残っている。今日は何時に家に帰れるのだろうと口を動かしながら、また次の仕事に取りかかった。
そんな時、事務の明美ちゃんから「太郎さん2番に電話です」と声がかかった。
「はーい!」と、やや空元気な声をあげ2番の電話ボタンを押し「お電話ありがとうございます。サン産株式会社営業の...」と言いかけたところで、「太郎かい⁉太郎なんだね!」と、耳元の受話器から懐かしい声が聞こえた。
「も、もし、もしもし...?お袋⁉お袋かい?どうしたん?用事なら携帯にかけてって。いつも言っとるやろ?会社に直接電話をかけたらあかへん...」
突然のお袋からの電話に動揺し、少し大きな声と岐阜弁が混ざってしまった。
みんな苦笑しながら俺を見つめる...。
そんな視線に耐えられず、慌てて受話器を手で覆い、声のトーンも少し下げた。
そんな俺の小言などお構いない大きな声で、「携帯に何度も電話をしたさ。大変なんだよ!お父さんが交通事故で...死んじまったんだよ...!」と、俺に伝えてきた。
涙声で、でも、泣くのを必死に堪えて、最後の一言まで俺に伝えてくれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それからのことはあまり覚えていないが、実家に向かう新幹線にバック一つで乗り込んでいるという事は、東京から実家に向かっているんだろう。
事故で親父、
店は東京から高速道路を使い6時間以上、新幹線なら2時間30分はかかる。まあ要するに地方都市、岐阜の生まれだ。
新幹線の3列シートの窓際の席に座り、車窓に映る景色を、ただただぼんやりと眺めていた。少し温くなったビールを飲みながら...。
そんな頭がはっきりとしない状態で、何かが聞こえたような気がした。
こっちの...かい...るのじゃ...。
辺りを軽く見まわしたが、閑散とした車内の風景に変わりはなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺の名は根津太郎。27歳独身。外見はいたって平凡だと思っている。身長が175㎝でやせ型。大学生の頃は超有名俳優の窪川正孝に似ていると言われたこともある。
まあ、言われただけで、どこが似てるのかも自分でよく分からないし、モテたなんて記憶もない。一応彼女はいたけど、就職してからの忙しさに流され、自然と彼女とは疎遠になってしまった。
現在は東京にある、多忙さだけが売りな三流企業で働いているサラリーマン。彼女も、ここ何年かいない。
実家は岐阜駅前にある、"柳ケ瀬
根津精肉店は爺さん、友三さんの代から続く老舗の精肉店であった。だが、親父は俺に店を継がせるのをためらっていた。
「どうせ大手にはかなわない。将来性がないから継ぐのをやめておけ。商店街が賑やかな頃はよかったんだよ。あの頃は向うから客が押し寄せて来てくれたもんだ...」
そう、よく言っていたな...。
本当に昔は、この商店街は人気スポットだったようだ。友三爺さんに聞いた話では、土曜日曜は、あまりに人が多く商店街に来すぎて身動きが取れないほどだったと良く聞かされた。
「昔はよかったんだよ。でもな、時代の流れだからしょうがないよ...。友三爺さんから引き継いだ根津精肉店も...俺の代で終わりだ」
生前親父は、禿げあがったおでこをポリポリと
俺の遠い記憶、俺が子供の頃、商店街はそれなりに賑わっていた。
「飛騨牛のA5がいつ入荷するんだ?」や、「団体さんが追加で50人来ちまったんだよ!牛肉の旨いのを至急持って来ておくれよ!」など、夏場の鵜飼いシーズンは、電話がひっきりなしにかかって来たものだ。
不思議なもんだ。新幹線の座席に寄りかかってビールを飲む俺の脳裏には、かつて育った商店街の思い出が次から次へと思い浮かんでくる。
そう、今まで忙しさにかまけて思い出さなかったのを責めるかのように...。
もどって...くるの...そして..."ちか"...。
また何か知らんの声が聞こえた様な気がした。それも"ちか"って聞こえたような気がする...。何だ⁉"ちか"って...⁉
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
実際、"柳ケ瀬風雅商店街"は、郊外に新しく建てられた大型のデパートに客を奪われた。更に路面電車の撤廃や風俗店の取り締まり強化などが重なり、この古き歴史を持つ商店街は、あれよあれよという間にさびれていった。
栄光を築くのには時間がかかるが、転げ落ちる分には時間は必要ないようだ...。
そして現在、"柳ケ瀬風雅商店街"は全国一のシャッター率を誇る。182店舗中、シャッターを下ろしている数は151店舗。驚異の82,5%越えだ。
行政も色々と努力をし、若いアーティストや経営者を呼び込んだり、日曜日には"サンデー・サンライズバザール"と銘打って、朝市を開催して盛り上げてはいるが...。そのシャッター率に大きな変化は生まれていない。
今、"根津精肉店"は岐阜市内の古くからの"馴染み"の旅館への卸しや、お袋、
ただ、品質を落とさないよう無理を重ねた経営や、数年前に手を出した実家の建て替えの結果、現在はそれなりの借金を抱えている。さらに、店舗も年季が入っており、"根津精肉店"を続けるのなら、ここ数年でお店の建て替えや一部改修作業を行わなければならない現状にある。
従業員も昔は3,4人程、務めてくれていた。だか、今では大ベテランのトヨさんただ一人となってしまった。
そう、今では考えられないほど賑わっていた。お店も、商店街も...。想像できないほどに...。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
親父が亡くなって初七日がすんだ。お袋も親父が無くなったショックで、店を再開する気力を無くしていた。
"根津精肉店"も大黒柱である親父の死によって、ついに閉店かと近所で騒がれているらしい。
俺もお袋も言葉には出さないが、それも一つの選択肢だと思っている。どちらかが閉店しようと切り出せば、"根津精肉店"の歴史に幕が閉じるだろう。
借金もあり、この先の経営も不安でしかない状況下では、店をつぶして土地を売り、借金の返済に充てた方がいいと思っていた。
あの精肉店裏の地下室から、不思議な音を聞くまでは...。
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