第8話:僕と姉さんと創作活動
学校の授業で、小説を書いた。数日間、国語の授業が全て小説執筆にあてられた。図書室で参考資料やら名作小説やらを読んで、400字詰め原稿用紙10枚の短編小説を自分なりに書いてみようという授業だ。4000文字の創作は、まだ小学3年の子供には少し荷が重い。
だからか、多くの人は小説の体裁を保つことに苦労していた。結果、自分自身を主人公にした架空日記のような内容を書いた人が多かった。それはそれで、面白いと思ったけど。セリフがないから少し退屈だった覚えがある。
僕は、コメディの冒険譚を書いた。家族でクルージングに来ていた小学生が、無人島に漂着して冒険しながら脱出を目指すという話だ。
周囲の反応は上々で、教師も褒めてくれた。
「姉さん、鈴ちゃん、これ読んでみて」
二人がいつものように公園の広場に来ていたから、二人に見せてみた。二人は身を寄せ合って、僕の汚い字で書かれた短編小説を読んだ。たまにふふっと笑う声が聞こえてきて、気分がいい。
「これ、ヒロくんが書いたん?」
「いや普通そうやろ」
「うん、授業で書いたんよ」
「面白いよ! 字はばり汚いけど!」
姉さんが肩をバシバシと叩いてきた。一言余計だ。いや、本当に汚いんだけどさ。ヘビがとぐろを巻いたような文字、ミミズが這い回ったような文字などと形容されていた。国語の評価はほとんどの項目が常に最高評価だったが、文字の丁寧さの項目だけは常に最低評価だった。
「文才あるよー」
「春菜姉、ヒロくんに甘くない?」
「そげなことなかよ? 私は私が好きな人み~んなに甘い」
「いやヒロくんには特別甘い」
姉さんが僕に原稿用紙を返し、笑った。原稿用紙をカバンにしまう。僕もたぶん、笑っていたと思う。
「にしても、ラストまさか醤油とは……」
「ギャグやん」
「ギャグとして書いたしなあ」
「船の上で刺し身食べてたのが伏線だったか~」
「無人島で唯一の持ち物醤油って……」
その小説に関して細かい展開などは流石に覚えていないが、目が覚めたら無人島で、手には醤油差しを持っていたという話だった。最終的には海賊に見つかって攫われそうになった際、醤油で目潰しをして怯ませ、海賊船を奪い脱出する。今にして思えば、つまらない話だ。
ただ、姉さんが褒めてくれたのが嬉しくて、僕は少し調子に乗った。
「ヒロくんは将来小説書く人になるといいよ」
「おー、ええやん」
珍しく、鈴ちゃんも姉さんに同調していた。
「いや流石にそれは」
「私はヒロくんが大人になって、どんな話を書くのか気になるな~」
「捻くれた話書きそう」
「鈴が言えたことじゃない気はするよ、それ」
「ちょ、どういう意味!?」
姉さんが立ち上がって走りだし、鈴ちゃんがそれを追いかけた。「どういう意味やー! もっぺん言ってみー!」と言いながら。実際、鈴ちゃんは少し捻くれ者だった。逆張り体質だ。周囲がいいと言うものを好まず、周囲が好まないが面白いというコアな作品を好む傾向がある。
二人のそんなやり取りを見ながら、僕は思った。
気が向いたら、また小説を書いてみよう。今度はもっと、ちゃんとしたお話を書きたいな、と。
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