第4話 対百人戦
3時間後。
握り締めている細身の木剣から重さが感じられてくる。
「はぁはぁ・・・いい加減疲れてきた・・・これであと3人」
「ぐあぁぁぁ・・・・・」
「い、いででででて・・・」
「かふっ・・・ひゅう・・・」
肩で息をしている俺と周りでうずくまっている騎士達。想像していたとは言えかなりの重労働だ。
「もぐもぐ・・・オズマ、見事であります!」
「んむ・・・はぁ、騎士団もいい加減終わりにしたらどうだってのよ」
「かぷ・・・オズマは一人なのに、こんなの卑怯なのら~」
「はっ、ウチの旦那ならこうでなくちゃな!ガツガツ」
離れた所からこの勝負を観戦しているトゥルーフの4人。これは俺一人の勝負だから彼女達には関係ないが、呑気に肉の串焼きと焼きパンを食べやがってこっちは必死なのに・・・後でメシ奢らせてやる。
「し、信じられない」
「全員一突きで仕留めおるとは・・・」
「無駄が全くない・・・」
貴族達のつぶやきが聞こえてくる。目の前にはネイホフ騎士団長と騎士2人、それとこの勝負を提案してきた宰相アルケマがいる。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ・・・」
「ネイホフ団長、もうこの辺で終わりにしたらどうかね?」
「何の、まだ3人残っています!アールトにバーレント、構わん!!同時に行け!!!」
「はっ!」
「右に同じ!」
団長の号令とともに2人の騎士が向かってくる。あくまで対一の勝負なのにこんな事をするのにはもう後がないという事か。こっちもそろそろ体力が切れそうだから一気に終わらせよう。
「せぇやぁぁあああああ!」
「うぉらぁあああああ!」
ヤケになって掛かってくるのかと思えば微妙に攻撃の間隔をずらしてくる。敵ながらなかなかいい連携で攻めてくる。しかし問題ない。
「はぁっ!」
一人目の騎士に向かい無造作に木剣を繰り出す。それをいとも簡単にかわす騎士。体勢を崩した俺に2人目が掛かってくる。
「いただき!せゃぁあああ!」
この瞬間を待ってた!体勢を崩す演技は成功、すぐさま相手と向かい合い目をこらす。狙うは・・・喉元!
「ふっ!」
「あぐっ!!・・・ぐぇえええええっ!!」
見事に突きの極まった騎士の身体は吹っ飛ぶ。そして呼吸が出来ず悶絶する。
「おのれ、ぶっ飛ばしてくれる・・・ぅおらぁああああ!」
一人目の騎士が大きな体格を活かして突っ込んでくる。こういった攻撃は避けにくい。狙うは・・・右脇腹!
「はぁぁぁ!」
「ぐぼ・・・ぅぎゃぁあああああっ!」
脇腹に突きを受けた騎士はその身体を地に伏せる。
俺の
視力が強化されれば全ての運動がゆっくり見えるので当然対処もしやすくなる。加えて相手の弱点を見抜く事も可能。前の戦闘で
1対100で勝負を挑んだのはこの戦術で勝てると踏んだからだ。使用を禁じている
「こ、これで99人目・・・後は団長殿だけですな?」
「ば、バカを言え!貴様のような下賤なものと剣が交わせるか!!」
「と言っても騎士団は全員倒れた状態・・・団長殿も戦われるおつもりがないという事は俺の不戦勝という事で・・・バロネット(準男爵)の爵位を」
「な、ならん!それだけはなんとしても!!」
「ではさっそくやりましょう・・・こっちもそろそろ疲れてきたんで早く終わらせたいんですよ」
「ぐぬぬぬぬ・・・」
俺の申し出にも関わらず勝負をしようとしない団長。さりとてバロネットの爵位を拝受する事は許されない。自分にとって都合のいい事ばかり言っている気もするが団長という立場を考えれば当然か。守るべき爵位があるのも考えものだな。
どうあっても引き下がらない団長と俺の間に宰相アルケマが入ってくる。
「双方それまで!99人の騎士達を鮮やかに仕留めたオズマの実力は勇者そのものである!100人抜きは適わなかったがオズマにはわが騎士団とは独立したリダー(騎士)の称号と勇者権限に『有事の際は貴族への指示を認める』の項目を追加する!オズマ、それにネイホフ団長もそれで宜しいな?!」
なるほど、ここで俺が団長と戦えばどっちに転んでも宜しくないと判断したか。
俺が勝ってバロネットの爵位を受ければマークィス(侯爵)のネイホフ騎士団長の面目は丸潰れになる。
逆に俺が負ければ爵位はやらなくて済むが勇者の遊撃隊という駒を失う事になる。
そしてバロネットの爵位の代わりにリダーの称号と勇者権限の項目追加。騎士団直轄ではない上に、俺の勇者権限での弊害報告を受けていた宰相としてはこれで手打ちにしておきたいところだろう。この辺が落としどころか。
「承知しました宰相閣下」
「ぐぬぅ・・・こちらも問題ありません」
「では三日後、勇者オズマの騎士の就任式を行う!全員解散、観戦されていた諸卿方もお引き取りを!!」
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