釘を刺される遼

 さてこれからゆっくり本を見ようかと思ったら、書棚の向こうから女子生徒が顔を出した。

 寝ぼけまなこが見開かれるのに少し時間がかかり、その女子生徒が誰かを判別するのに時間がかかった。

「まさか白砂しらさご先生が図書室で逢い引きしている相手がこんな美少年とは思いもしなかったよ」

 そう言う彼女もまた美少女だと遼は思う。

 名札には「三年A組 舞子」と印字されていた。

「生徒会長さんですか」りょうは思わず口走っていた。「物音たてないのですね」

「図書室は静かにするところだろう?」舞子実里まいこ みのりは言った。

「この静けさで足音が全くしないのは驚きです」

「すまない、つい君と白砂先生のやりとりを聞いてしまった」

「そこは、聞いてないというのが王道なのでは?」

「私はウソをつけない人間なのだよ」

「ウソしか言ってないようにも聞こえます」

「思った以上にひねくれ者だなあ」

「よく言われます」

「ちなみにどのあたりから聞いてました?」

「う~ん、ほぼ全部かな」

になってましたね」

「そんなはないのだが」

「ちょっと何をおっしゃっているのかわからないです」

「それはお互い様だ」

「ではこれにて」通り過ぎようとする遼を舞子まいこはとどめた。

「君は白砂先生が好きなのか?」

「好きか嫌いかの二択なら、好きです」

「どういうところが?」

「顔と胸」

「ズバリ言うなあ」

「それとミニスカの脚」

「言葉を失うなあ。星川ほしかわ渋谷しぶやとはまた違ったタイプのだな」

「ろくでなしは否定しませんが、他の生徒との比較はいかがなものかと」

「君みたいな男なら言い寄ってくる女子はいくらでもいるだろう。何も教師を相手にしなくても」

「言い寄ってくる女子はいませんよ」その前に逃げるし、と遼は思った。「生徒だと間違いを起こす可能性もあります。それは校則違反ですよね」

「確かに先生と付き合ってはならないとまでは校則に書いてないな」

「それもありますけど、先生なら間違いを起こさないでしょう。ボクがわきまえていれば良いだけです。高嶺の花だと。だから単なる憧れの先生とのお喋りです。コミュ障なものでコミュニケーションの練習です」

「なるほど、白砂先生なら君に惚れたりしないから大丈夫と言いたいわけだな」

「そうです、そんな感じですね」

「君の思惑通りにいけば良いがな」舞子は何か思わせ振りな口調で言った。「白砂先生は君が思っているほど大人でもないぞ」

「しかし少なくともここの生徒よりは大人でしょう。ちゃんとわきまえているはずです」

「だと良いけど」

 舞子はあきらめたような顔をしてようやく遼を解放した。

「これは先生の方に釘を刺しておくべきだな」

 舞子のひとりごとを遼は背中で聞いた。

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